164.結局のところこうなる話
自分が自分の名を騙っている、と言われてシーラは、ニヤリと笑ったようだった。いや、なんとなく分かるだろ。
背中の翼が、機嫌良さそうにぱたぱたと羽ばたいてるし。
「なぜ、騙っていると言い切れる? 答えることを許そう」
そう、ボロニアに尋ねた声だって、とっても上機嫌ぽい感じだった。ただ、ひざまずいてた盗賊たちが一斉に背筋を震わせてるから、どうやらあっちには怖く見えているようだけれど。
「我が主ルシーラット様は、マール教との戦いに敗れ捕らえられた。その後、処刑されたと伝わっている」
「まあ、処刑の類には違いあるまい」
ボロニアの答えは、多分現在のこの世界に伝わっているものなんだろう。確かにシーラの言う通り、『処刑』されたって言われたらそうかもしれないな。要は『剣の翼』ルシーラットの記憶消された上に、しれっと転生させられてんだから。
俺がいなければ、あのままマール教信者の剣士として生きてたんだろうになあ。盗賊たちの更に向こうに現れた、どう見ても軍隊ですありがとうございました、な十数人のグループみたいに。
「ところで、アレは貴様らの仲間か」
「え……違う!」
シーラも気づいていたから、ボロニアに尋ねた。慌てて振り向いた彼女が、首を横に振る。
うん、かっちりした兜と胸元をカバーしてる金属鎧、色がファルンの僧侶服と一緒だもんな。それに、胸元にマール教の紋章がくっきり入ってるし。
「我らはマール教・邪神徒教育部隊である。卑しき神の下僕ども、罪を認め我らが神にひれ伏せ!」
「ふぁふふぇれー!」
さらに、名乗った声が高い女の子の声。全員、大柄小柄取り混ぜて女の子だ。ある意味分かりやすすぎるぞマール教。
「マール教側の増援っすか、あれ」
「ボロニアたちを引きずり出して、一網打尽にするつもりだったんだろ。たまたま通りかかったのが、俺たちだっただけで」
コンガラが肩をすくめ、ジランドがはあと大きくため息をつきながら立ち上がる。うん、さすがにひざまずかせてる場合じゃないもんな。
「コータちゃま。おんなのこがいっぱいです」
「なんでしたら、全員拘束して賞味なさるのはどうでしょう」
ミンミカが楽しそうに耳を振るわせ、カーライルがしれっとお勧めしてくる。十何人、せっかくなので全部吸って吹き込んだら俺専用部隊、とかできるんだろうか。
「かつての戦で、マーダ教側に寝返った殿方の軍勢が暴れたという記録がございますわ」
「じゃあ、こんどはあいつらだね」
ファルン、アムレク、後押しありがとう。ファルンは記録がある、ということ言っただけだし、アムレクは軽く暴れたいだけだろうけど。
マーダ教信者の盗賊たちと、マール教信者の女の子たちと。
これ全部戦力にできたら俺、だいぶ楽になるよな。
「よし、じゃあ死なない程度によろしく。ジランド、コングラ、シーラの邪魔にはなるな」
「こちらの邪魔者はどうしましょう」
「盾にでもすればいい。慈悲深いサブラナ・マール様の信者なら、仲間を殺すこともないんじゃね?」
「ふぉにー!」
シーラたちに短く指示。邪魔者の対処についてはまあ、ある意味本音だ。これで仲間殺しちゃったら駄目だよなあ。こちらに押し付けるのかもしれないけどさ。
……つか、鬼、って言われたな。角生えてるし、あながち間違いでもないか。邪神だけど。
「……お嬢ちゃん。あんた、何者だ」
「後で教える」
こちらにそんなことを尋ねてきたジランドには、にいと笑ってみせた。さて、邪神の笑みになっているかな。