163.考えてみりゃある話
おっと。立っているのがマール教信者なら、ほうっておくわけにはいかないな。
「シーラ、立っている連中を拘束。始末は後で考える」
「は」
急いでシーラに指示を出すと、彼女も分かってくれた。とんと軽く地面を蹴っただけで、後は僅かに翼を羽ばたかせながら飛び回ってマール教信者の腹に拳入れつつ回収。「ミンミカ、アムレク」とシーラに呼ばれ、ウサギ兄妹が慌てて立ち上がる。
「は、はいっ」
「腕と足をてきとーに縛り上げろ。逃げなければそれでいい」
「わかりましたー」
楽しそうだな、お前ら。
そいつらの服、というかベルトやらサスペンダーやらをミンミカが剥ぎ取って、それを使ってアムレクがくるくると縛り上げていく。都合三名、あっという間に終わった。
「ちょ、ええ、俺ら!?」
「待てよ、そこに僧侶がいるだろうが!」
「何で俺らが縛られなきゃならねえんだ、邪教徒め!」
「うるさいから口に布でも突っ込んどけ。窒息しない程度に」
「はーい、つめつめしますー」
いやほんと、こういうチンピラって何でやかましいんだろうね。ミンミカが布詰め込んだらおとなしくなったけど。
……マント一枚、爪で引き裂いて詰め込んだんだよね……ウサギ獣人の爪って、地味に鋭いんだな……。
「あらあら、いやですわ」
で、チンピラのマール教信者が拘束されたことでぱっと見、周囲に味方がいなくなったように見えるファルン。彼女はのほほんと頬に手を当てて笑ってから、しっかりとぶっちゃけてくれた。
「確かにわたくしはマール教の僧侶ですけれど、それ以上にコータ様の下僕ですもの」
「は?」
「コータって、嬢ちゃんだよな。お前さん、そっち系の力持ってんのか」
コングラがぽかんと目を丸くし、ボロニア以下マーダ教信者組の盗賊も同じ顔になった。わかりやすくて助かる。
で、ジランドに尋ねられて俺は「はい」と頷いた。間違ってねえしな。
「あ、吸うのも操るのも女の子だけと決めてますんで。例外は危険回避のためにしょうがなくやった一人だけで」
「……お嬢ちゃん、お友達と離れちゃ駄目だぞ、それは」
危険回避、というところでジランドは何となく察してくれたようだ。そのロリコン野郎が実はサンディ家の当主だ、ってことまでは言わなくていいよな、これ。
「いやいやいやいやちょっと待てお前ら、今聞き捨てならない名前を聞いたぞ」
おっと、何か言う前にボロニアが口挟んできた。聞き捨てならない名前……名前が出たのは俺だけど、別に俺の名前知られてるわけじゃないはずだ。アルニムア・マーダならともかく。
「そっちの姉ちゃん、今『剣の翼』て言ったよな!」
「言った」
あ、シーラの方か。確かに『剣の翼』ルシーラットって名乗っちゃったよな。
そういえば、それなりに知られているはずの名前か。
「それが何か」
「それってアレですよね、昔話に出てくる邪神の剣士ってやつ」
「我が先祖がお仕えしていた主の名を騙るな!」
コンガラが茶化すように言ったセリフにかぶせて、ボロニアが叫んだ。
……やりい。シーラの配下みーつけた。




