162.意外なところでそういう話
「嬢ちゃん、中に戻ってな。こいつら、もういっぺん殴らねえといけねえからな」
牛車を降りた俺たちを見て、ジランドがそんなふうに言ってくる。うんまあ、外見から言うとロリ獣人がウサギ獣人二人と一緒に出てきたわけだからな。
まさか、そのロリ獣人がお前さんたちの拝んでる神様、だなんて気がついてないだろうし。
「何だ。貴様ら、マーダ教信者か。そちらの二人も含めて」
先に降りていたシーラが、ふんと鼻で笑いながらぶっちゃける。しかし、その言い方じゃこっちがマール教の手先っぽいぞ。
……ま、ファルンがいることで既にそう思われてるんだけど。
「旦那あ、何乗せてんですか……どう考えても、賞金稼ぎじゃないですかい」
「ほらあ。こういうのが出てくるから、俺ら盗賊やるしかねえんすよ」
「うるせえな。お前らがマール教に喧嘩売るから、向こうが買うんだろうが」
今ボロニアが言った賞金稼ぎって、シーラのことかな。確かに戦闘態勢バリバリっぽい格好してるけど……これはやっぱり、マール教かな。
「どういうことだ? ファルン」
「ベタですが、マーダ教信者の居所を教会に知らせると報奨金が出るんですよ」
「うわあ」
呆れ顔でファルンが教えてくれたことに、ああやっぱりと肩を落としてみる。いや、この世界ってマール教の信者が多いから金が出なくてもそういうことはやるだろうけど、金出たほうが結構確実だよね。……逆に、気に入らない人を密告する人もいるんだろうけれど。
「ああ、嘘の密告は重大な裏切りと認定されるんですよ。同じ信者を嘘の証言で貶めようとした、ということで」
「そういうのもありなのか」
……一応、嘘つきも罰を受けるっぽいな。そこら辺はきっちりしてるんだ、マール教。
そういう嘘で信者減らしたくないから、って感じだけどなるほどなあ、とは思う。
と、俺たちのところまで下がってきていたカーライルがぼそり、と低い声で言葉を紡いだ。
「ですが、それ目当てにマーダ教側から、仲間を売る者もいましてね」
「売られたのか」
「……そうなります」
俺は誰が、とは言わなかった。けれどカーライルは、それでも理解して頷いた。
カーライルの家族を売った裏切り者は、金目当てでこいつをひとりぼっちにしたことになる。
あ、何かものすごーくムカついた。
「見つけたらしばき倒して構わない。俺が許す」
「は。お言葉、ありがたくお受けします」
殺せ、とまでは言いたくなかったからしばき倒せ、にしておこう。その結果、カーライルの敵がおくたばりあそばされても、そこは知ったこっちゃねえしな。
「ええいお前ら、何ぼそぼそくっちゃべってんだ!」
「黙れ貴様ら!」
あ、ごめん、ボロニアたち放っておいたら怒られた。ただし、即座にシーラが怒鳴り返したんだけど。
更に彼女は、言葉に力を込めて言い放った。
「『剣の翼』ルシーラットが命ずる! マーダ教を奉ずる者であれば、今すぐそこにひざまずけ!」
『どわっ!』
「おおっ!?」
シーラが声を放った先、要はジランドたちとボロニアたち盗賊組のほとんどが、一斉に地べたに膝をついた。こちらもファルン以外はひざまずいて……ああ、俺は何か普通にぺたんと座った。主神だからか、これ。
盗賊のうちで数人立ち尽くしているのは……ああ、お前らマール教か。さて、シーラはどうするかな。