157.状況からみてもうひとり
レイダと話をした翌日。
ファルンがこの街の教会に用事がある、というのでシーラを連れて同行した。もちろん、目的は僧侶をゴチになることである。
いや、メイメイデイの場合はマール教側に下僕置いとく必要があるからさ。
「んむっ、ふ、んんんんんっ」
「んふう……」
港に一番近い教会を預かっている、スレンダーボディの黒髪貧乳僧侶。ファルンが必要なものを奥の部屋に取りに行ったところで、ありがたく頂いた。んむ、何というか干物の味がする。海のそばだと、人間の気も海産物系になるのかね。
「ごちそうさまでした」
「……おそまつさま、で、ございました」
割と堅物っぽい印象だったけど、下僕にしてもそのへんは変わらない。いや、変わると怪しまれるからいいんだけどさ。
「お前の主は、これよりここにおられるコータ様だ。サブラナ・マールに対する信仰よりもそれは強いもの、と思え」
「はい。私の主は、コータ様です。サブラナ・マール様よりも、私はコータ様にお仕えいたします」
シーラの言葉にも淡々と答え、俺の前にひざまずく。……どえむとかロリコンとかいろいろいたから、迫力がないなあ……最も、そんな変なやつばっかりだったら困る。
「ただし、このことはここにいる皆とマーダ教信者以外には絶対に漏らすな。万が一漏れたときには、今ここでしている会話を含めて全てを記憶から消せ」
「はい。私がコータ様の下僕であることをマール教信者に知られた場合、私は全てを忘れます」
一応安全装置というか、そういう命令も伝えておこう。実際ちゃんと忘れるのかどうか、なんて確認のしようがない。確認するってことはつまり、マール教の誰かに俺が邪神だってこと知らせるってわけだからな。そんな危険な橋渡れるか。
あとは、この街で下僕を確保しておく大事な要件。
「タコ魚人のレイダと協力して、デリリアというシャチ獣人の女性とその娘、この街に住んでいる彼女の母親を見守れ。彼女たちに関してマール教が身柄の確保を依頼してきたときは、レイダにその身柄を引き渡せ」
「全て、コータ様の仰せのままに」
「よし。ではひとまず、今の会話を忘れろ。ただし、命令には従え」
「はい………………」
レイダを信じていないわけじゃないけれど、マール教の内部から情報が取れるんならその方が手っ取り早い。こうしておいたほうが、あのシャチ家族の安全性が高まるってもんだ。
で、しばらくぼうっとしていた僧侶がはっと気がついた。そうして、そばの机に置いてあった書類に気がつくとそれを取り上げて、ファルンのところに持ってくる。
「ファルン殿、こちらでよろしいですか」
「ええ。ありがとうございます」
「ファルンお姉ちゃん、それ何ですか?」
一応ロリっ子モードで聞いてみよう。ファルンは、俺とシーラにあっさりその書類を見せてくれた。
「牛車の手配ですね。メイヒャーディナルの峠まで、専属契約となっております」
「わあ」
「ファルン殿から、幼子がいるので手配をお願いしたいと頼まれておりましたので」
ノーマルモードでも、この僧侶さんは堅物系である。悪くはないが、ぶっちゃけ触り心地が微妙……いや、悪くはないんだ。貧乳もまた美乳、なのは事実だし。
「良い旅を、お過ごしくださいませ」
「ええ。機会をお与えくださったサブラナ・マール様に、感謝を」
あっちの僧侶さんは良いけどファルン、まあよく平気で祈れるこった。
こまめに吹き込んでおかないとな、うん。




