150.バーベキューと食事の話
考えていても仕方がないことは仕方がない……そういうことっていろいろあると思うんだよな。
例えば、魚人がいる世界で港街名物の晩飯が海鮮バーベキュー、とか。
いや、今いる店がそういう店でさ。なお、行きたいって言ったのはシーラである。
「海鮮バーベキュー……ねえ」
「一度、食べてみたかったのです。魚以外にも貝やいろいろなものが食べられる、とは聞いていたので」
もじもじしながら彼女が差し出してきたのは例のガイドである。ああ、ホントだ、しっかり書いてあるや。サザエのつぼ焼きがおすすめ……それは食ってみたいな、俺も。
「ミンミカたちはたべられますか?」
「海藻サラダとかもあるそうですから、大丈夫ではないかと」
手を上げてミンミカが尋ねて来たのに、ファルンがガイドをチェックして頷いた。ウサギ獣人、他の草食系獣人もそうだけど、肉食えないことはないけど消化が大変らしい。なら、できれば食べやすいもんがある方がいいよな。
「でも、メイデリア様の所在を確認したほうがよろしいのでは? もしマール教側にこのことが知られれば、身柄を『保護』されてしまう可能性がありますもの」
ガイドを閉じて、ファルンは考えつつそんなことを言ってくる。保護って……あーうんまあそういうことだよな。こっちが目星つけたの、見事に三世代とも女性だし。一番上がお婆さんだけど、婆専なやつがいないとも限らないからなあ。
ただ、これには珍しくカーライルが口を挟んだ。
「確かに、メイデリア様を急ぎ確認するのも大切なことではあります。ですが、焦ってマール教に我らのことが漏れてしまったら、そちらのほうが大問題ではありませんか」
「カーライルはバレて追われた側だもんなあ。切実だわ」
そうなんだよね。カーライル、一族が揃ってマーダ教だったせいプラスその中から裏切り者が出たせいで、見事に一族滅ぼされたってことだし。
対してシャチ家族の場合、今のところその誰かがメイデリアだって目星つけてるのは俺らくらいのもんだろう。まさか、主神たるアルニムア・マーダがこうやって復活してるなんて、ほとんど誰も気づいてないようだし。気づいてたら最低でも監視くらいつくだろう、マール教から。
「では、ひとまずは何もないふりをしつつ、彼女たちの家が分かれば訪問、という感じで?」
「『封の舞台』などで世話になったからお礼に、といえば特に問題ないだろうな」
ファルンは頭回るし、シーラだってだてに『剣の翼』やってない。彼女たちの会話を受けてとりあえず、そういうことでシャチ一族については結論が出た。
正直言うと、あの家族の誰がメイデリアにしても前線に出す気はなくなったさ。カーライルやグレコロンたちと同じく、周囲にばれないようにバックアップしてくれればいいかな、とは思ってる。
そんなわけで、晩飯にやってきた海鮮バーベキュー店。バーベキュー、なだけあってちゃんと普通の野菜も焼いて食えるようになっていたので、ウサギ兄妹もほっとしたようだ。おお、この南瓜めちゃくちゃ甘いぞ。
魚も生のものを焼いたり、干物があったり。さすがに刺し身はないっぽい……肉食種用の生で食える魚はあるけど、普通は火を通して食うもんのようだな。多分、寄生虫とか病気とか防止するためだろう。
「しかし、魚人が少ないとはいえこういうのって大丈夫……なんだよな?」
焼きイカ食いながら言うセリフじゃない、というのはわかってる。レイダと組んでたあのイカ兄ちゃん、元気かなあ。
「自分も普通に鶏は食べますから」
「あんまり考えたことないですね」
シーラもカーライルも、そういう答えを返してくる。まあ、獣人とかそういう種族がいないところで育った俺の考え方が、こっちではおかしいのかな。この世界じゃ、こういうのが当たり前なんだから。あ、ゲソ美味え。
「そうだね。あたしだって、イカゲソくらい食べるし」
あ、聞いた声と思って振り返ったそこにいたのは、例によってタコ頭サイズのおっぱいを所持している俺の大事な配下だった。
「レイダお姉ちゃん?」
「やあ」
うわあ。まじでイカの足食ってるよ。
思わず目を見張った俺の前でレイダ、ネレイデシアはもぐもぐ、とイイダコをまるっと食ってしまった。
混ぜるな危険、でいいのかね、これ。