014.ここから次はどこへ行く
話が終わってホッとしたところで、勢いよく玄関から入ってきた人物がいる。三十センチ四方くらいの数枚の紙を手に持って、扉を閉じた途端うっとりとした顔になって、俺の足元にひざまずくのは村長ネッサ。
「ご主人様あ、お待たせいたしましたわっ」
「おうっ」
マジで大丈夫なのか、この人は。ほんとにこの村、よくやっていけてるなあとは思う。ま、ともかく俺の欲しいものを持ってきてくれたわけで、うやうやしく差し出された紙を受け取った。お、地図だからか結構厚手の紙だな。
「あ、ありがとうな、ネッサ」
「ああん。遅いだろうがこの下僕、とでもおっしゃってくださっていいのに……何とお優しいのかしらあ」
……早くこの村出たい。村長がこれじゃ洒落にならねえ。いや、俺の下僕なのはネッサとファルンにブランナだけだけどさ。
しかしまあ、どえむならそれはそれで言い方はある。多分大丈夫だろう。
「用は済んだんだから、おとなしく帰れ。そのまま、俺のことを忘れて普段どおりの生活に戻れ。いいな」
「はあい、ご命令のままにい」
うわあ、確かに大丈夫だったけどネッサ、めちゃくちゃ嬉しそうな顔してスキップしながら出ていったよ。ああいう人との付き合い方分からない、分かりたくない。
「……大丈夫でしょうか、村長は」
「うーん……どうだろうな」
カーライルが顔引きつらせながら疑問を呈するのも分かる。ほんとあれ、俺以外の相手にぶっかましたりしたらどうなることやら。
「ブランナ、一応気をつけて見ていてくれ。あれが出たせいで疑われても困る」
「そうですわね。どこからコータ様にたどり着くとも限りませんし、しっかり見ておきますわ」
村に残ることになるブランナに、後を頼むことにする。もっとも、こちらもどうなるかは分からないんだけどな。
マール教に俺のことがバレてしまったら、その時はその時だ。できれば、バレないほうがいいに決まってるがな。
「で、これがこの近辺の地図か」
「世界地図はこちらにございます。どうぞ、コータ様」
「ああ、ありがとうブランナ」
ネッサから渡された紙、つまりナーリア近辺の地図はノート見開きくらいのサイズで、手書きというだけあっていろいろ書き込みがあった。ここが教会だの、この家には誰が住んでるだの。
……あ。
「これ、ナーリア教会でいいんだよな?」
「はい、そのとおりですよ」
思わず確認したところで、ファルンがニッコリと頷いてくれた。おお、ならいいんだ。
この、マール教の紋章にちょっと似た感じの釘かなんかで引っ掻いたような文字、俺読める。
「よかった。文字読めるわ」
「それは良うございました」
「良かったですわね、コータ様」
カーライルもブランナも、なんというかホッとした顔になっていた。うんまあ、読めるならその方が楽だもんな。今から教わっても覚えられるかどうか、カーライルに全部読ませるかとか思ってたもんで。
ま、それはそれとして。
「今いるのがナーリアの村で、ここか」
「神都サブラナが世界の中心、ということになっていますから……ここは、本当に端っこですよ」
ブランナが持ってきてくれた世界地図を広げてみて、カーライルが小さくため息をついた。
九十センチくらいの正方形、ネッサの地図と同じ厚手の紙に描かれている世界地図。中央に小さな島があり、その周りを海が取り囲み、さらにその外側に大きな大陸が三つと大小さまざまの島が点在している。大陸は大体上側に長く伸びているのと、左下にどんと丸っこいのと、右側から下に回り込むような感じのと。
その中心、島に位置しているのは、世界の都でありマール教の聖地でもある神都サブラナだ。神様の名前つけてるくらい重要で、世界の中心ということなんだろうな。
対して、今いるナーリアの村。正方形の右下にある大陸のさらに端っこ、そこからちょっと上にずれた辺りに名前があった。山の中で、隣町まではちょいと距離がありそうだ。
でもまあ、ここから一番近い町はそこなので、まずは目指すしかないかね。
「まずはこの、スラントの町を目指す。それでいいかな」
俺の言葉に、三人は同時にはい、と頷いてくれた。




