141.なぜにお前はここにいる
「お久しぶりですので」と相変わらずちっちゃい子好きらしいレイダに抱っこされ、ボロボロの剣の近くまで行ってみた。ああ、ここまでくれば立入禁止の結界だって何となく分かるわ。知識ないのに分かるって、すごいな俺。さすが邪神。
「これは、当時勇者ソードバルが使用していた剣です。おそらくは当時のままかと」
「海にも近いし、そりゃボロボロになるよなあ」
「見事に錆びついてますね……」
レイダの説明に俺と、くっついてきたカーライルはなるほどとため息をついた。他のみんなも、まじまじと覗き込んでいる。
まあ、触る気ないからいくらボロボロでもいいけどさ。
「そういえば」
「いかがなさいましたか」
ふと、レイダの顔に視線を移す。
こいつ、タコ姉ちゃんなんだよな。つまりタコの魚人。魚人はこの場所とかのせいで、この街ではほとんど見かけない。ぶっちゃけ、普通なら多い人間よりも獣人の方が多いくらいだ。
なら、何でお前はここにいる。
「レイダ。魚人はあまりこの街に来ないって聞くけど、お前は何で来たんだ?」
「それはもちろん、コータちゃまの気配を感じたからです」
ぎむー、とタコ頭二つに俺の顔を押し付けながら、レイダはあっさりと答えてくれた。
「正確に言えば、この街には来ずとも周辺の海には我が配下たちがおります。その者たちより、コータちゃまとお付きの御一行がアイホーティを出たという情報を入手しましたので」
「魚人や海棲獣人でマーダ教であれば、ネレイデシア様の配下に間違いはありませんね」
「マール教には入ってない、ってのも多いんだよ。マール教の僧侶に魚人は少ないし、獣人や人間の僧侶は海の中にまでは布教できないからね」
あ、シーラに答えるときは『レイダ』の口調に戻ってら。俺、やっぱりこっちの方が好きかも。
でも、俺相手のときは『ネレイデシア』に戻るんだよなあ。人前だと『レイダ』になるはずだから、早く出ようかな。
「ともかく、コータちゃまがメイメイデイに向かわれたということは、まず間違いなくこの場所に来るでしょうから。それで、お待ちしておりました」
「なるほど。我々は、わたくしの修行に同行するという名目で旅をしておりますものね。こういった場所には、まず訪れることにしておりますから」
「ファルンがしっかりした僧侶さんで、ほんと助かったよ。ウサギたちじゃどこに行くか分からないからねえ」
「ぶー! レイダさま、ひどいですー」
「ぼくたちだって、ちゃんとけんがくしますー」
……レイダがファルン上げてウサギ兄妹下げるの、分からんでもない。ほんとにどこ行くか分からないもんなあ、こいつら。
あとお前ら、昨日は船酔いで一日爆睡してたじゃねえか。確かに揺れるから分からなくもないが、ちょっとは頑張れ。
まあ、頑張って船酔いにならなくなるなら、酔い止めの薬なんて存在しないか。こっちの世界じゃそもそもないけど。
「はいはい、ちゃんと見学しな。昔の負け戦をしっかり勉強することが、コータちゃまをお守りするための知恵につながるんだからね」
「もちろんです、レイダ様」
「承知しております」
一瞬だけキリッと顔を引き締めたレイダの言葉に、即座に答えたのはカーライルとシーラだった。うんまあ、神官と『剣の翼』だしな。
「ミンミカもがんばりますー!」
「ぼくだって、コータちゃまのためにがんばります!」
ミンミカと、そしてアムレクはとても元気に手を上げて答える。お前らは、そういう単純というか純粋なところがいいんだよな。
疲れることもあるけど。
「わたくしも、コータ様の下僕である以上はコータ様のためにいろいろ学びたく思います」
そうして、ファルンは胸に手を当てて、何か自分に言い聞かせるように落ち着いた言葉を述べた。




