140.お久しぶりは事情通
「ところで」
ボロボロの剣がぶっ刺さったままの地面を見ながら、俺は思ったことを口にした。というか、皆に尋ねるとも言う。
「あれ、引っこ抜いたらメイデリア、復活すると思う?」
「どうでしょうねえ」
この場合、カーライルのこの答えはどういう意味なんだろうか。ま、抜いてみなければ分からない、あたりかもしれないが。
「さすがに人がいないとはいえ、日中にそれはないですわ」
「だなあ」
ファルンに呆れたように言われて、ちょっときまりが悪くなって俺は顔を掻いた。人がいたら、余計に駄目だよな。一応ここ、観光名所というか観光スポットなんだし。
明言されちゃいないが、剣の周辺はおそらく立入禁止だろう。あ、もしかしてさっき感じた変な力みたいなの、それか。
「したにメイデリアさま、いるんならおきるとミンミカおもいますー」
「じゃあ、いなかったらでてこないよね」
「それなー」
ウサギ兄妹の答え、うん、確かに。いなかったら当然、出てくるわけはない。
「メイデリアであれば、自分と同じような状況であると推測できます。ですから、剣を抜いても復活はないかと」
そしてとどめがシーラの答えだった。そうそう、彼女は転生してきてるんだよなあ……てことは、メイデリアもそうなってる可能性が高い、と。
「ルシーラットの言う通り、この下にメイデリアはいないようですわね」
「んー?」
おっと、いきなり別の声が入口側から聞こえてきたぞ。とはいえ、知らない声じゃなかったからみんなも一瞬だけ身構えて、それからその正体に気づいて目を見張る。
「コータちゃま。それに皆も」
「レイダ」
俺たちの後ろから呑気にやってきたのは、赤っぽい肌のタコ魚人女性。俺の四天王の一人、海王ネレイデシア……レイダだった。
うまく海に逃げられたみたいだったけど、こっちに来てたのか。
「お久しゅうございます。よくぞご無事で」
「ああ」
俺の前まで来ると、レイダは足元にひざまずいて深く頭を下げた。
……相変わらず露出の多い服装だ。特に胸元広く開いてるから、タコ頭が二つ並んでいるようにも見えるおっぱいがどーんと迫力である。良いもの見せてくれてありがとう、色は慣れれば問題ないし。
「レイダの方こそ、ちゃんと逃げられたんだな」
「海の中なれば、わたくしに敵うものはおりません。これでも『海王』の名を持っておりますゆえ」
「そうだったな」
海王、海の王。その名前を持つレイダが、海の中で負けるわけがないんだと意味もなく信じられた。
……俺じゃなくてアルニムア・マーダがもともと信じていたから、かな。そうでなきゃ、四天王に据えるはずもないし。
と、レイダはこの下にメイデリアがいない、ってことは知ってたわけか。聞いてみる。
「で、この下にメイデリアがいないってのは」
「わたくしの懐刀であったメイデリアは、封じられたのではなく倒されました。そうしてサブラナ・マールのもとに引っ立てられた、という話です」
「ああ、それでその後以下略、ってわけか」
「言葉にしたくないので、ご想像にお任せいたします。コータちゃま」
いやレイダ、想像してもいいんだけどさ。
要はサブラナ・マール、メイデリアをずこばこ楽しんたってことなんだろ。そうしておそらくは、お前やシーラみたいにあの白いもやみたいなやつを送り込んで、封印した。
あー、ムカつく。覚えてろよサブラナ・マール、片っ端から取り返してやるからな。俺の配下で楽しんで良いのは、俺だけだ。