136.宿とベッドと俺と配下
グレコロンが手配してくれたこの街での宿は、教会の近くにあるこじんまりとしたホテルだった。三階建てで、一階はフロントとか事務室とかっぽい。
「僧侶ファルン様とお連れの方々ですね。はい、サンディ様より承っております」
つやつやの黒髪をなびかせたえろボディ美人、となかなか盛っているここの支配人は、ファルンが差し出した紹介状を見てゆったりと頷いてくれた。うう、深い赤の厚ぼったい唇が俺を呼んでいる。隙見て絶対吸う。これは決定。
……何か、遠慮なく吸ってる気がするなあ、俺。殺すまでは吸わないんだから、いいんじゃねーかなとは思ってるんだけど。
「こちらのお部屋になります。船旅でお疲れでしょう、ごゆっくりどうぞ」
「ありがとうございます」
支配人自ら荷物担いで案内してくれた部屋は最上階、つまり三階。どうやら一フロア一部屋って作りになっている……って、一日二組限定かよ。
ということは、使用人なんかもほとんどいないってことか。だから、支配人がわざわざ案内してくれた、と。
「お荷物、重くないですか?」
「大丈夫ですよ。これでもわたしは、熊の獣人なんですから」
ロリっ子偽装した俺の質問に彼女は、ほら、と髪の中からひょこん、と可愛いケモミミを見せてくれた。おお、つまり腕力はあるからこのくらいなんでもない、と。そんならいいか。
「では、わたしは一階フロントにおります。何か御用がございましたら、遠慮なく」
「分かりました。お世話になります」
カーライルが、これまたよそ向きの顔でご挨拶。支配人を吸うのは後でもできるので、まずはへろへろのウサギ兄妹を休ませるところからだな。
「ほらミンミカ、ベッドで休んでいろ」
「あーい……」
「アムレク、寝ておけ」
「ねますー……」
部屋の奥にベッドが三つ並んでいる。その一つに、ウサギの兄と妹はまとめて放り込まれた。ああうん、確かにこの部屋のサイズでベッド六つとかは絶対無理だけど。
「自分は座ってでも眠れますので、大丈夫です。コータ様」
「わたくしはさすがにベッドを使いたいですわね……もちろん、コータ様が最優先ですけれど」
「私はソファで寝ますよ」
他三名の意見が出揃ったので、どうやら問題はなさそうだった。なお俺自身はソファで寝ても良いんだけど、角引っかかりそうでなあ。ベッドより形状がややこしいから、どこに引っかかるかわからない。いくら頭に沿って伸びてるとはいえ、先端が尖った角なんである。
そんな事を考えていたら、どうやら顔に出たらしい。
「コータ様は我々の長なのです。よって、一番良いところを使われるのは当然のことなんですよ」
いいですね、とカーライルにめっという感じで怒られた。お前は俺の親父かなにかか……と思ったが、少なくとも保護者なのは間違いないか。
「……悪い」
「いえ。差し出がましい真似をいたしました」
ひとまず謝ったら、逆に謝られた。
邪神とその配下なんで、これが当たり前といえば当たり前、なのかね。