126.昔にあったこんなこと
「我々サンディ家は、古い昔にはマーダ教の信者だったことがあるそうです」
無事にカーライル&アムレク、そしてファルンと合流した俺たちは、そのままグレコロンの私室で話を聞くことになった。
ちなみに、直属のメイドや使用人たちは全部グレコロンが吸って吹き込んだ後だとさ。あと独身。そりゃ、吹き込まれる前から女の子目の色変えるわ。なるほど。
ま、それは置いといて。
「当主に伝わる人を支配する能力は、その当時からの遺伝だということです。先祖の中に、そういう能力を持つものがいたようですが今では詳しいことは分かりません」
「確かに、マーダ教信者の一部にはそういう能力の所持者がいたという話ですが」
「種族に関係はあるのか? 俺、一応獣人だし」
「一部の獣人、及びその混血のようです」
この辺、カーライルが地味に詳しいのは助かる。俺を呼び戻しに来るまで、いろいろ勉強してたんだろうな、こいつ。
そういえば、ガゼルさんみたいな混血の人もいるにはいるんだ。もしかして、サンディ家も遠い昔に別の種族の血が入ったんだろうか。
「現在追える記録にはありませんが、おそらくコータ様のおっしゃる通りで間違いはないかと存じます。純粋な人間でこのような能力は、まずないと言っていいでしょう」
グレコロンに尋ねてみたところ、そういう答えが返ってきた。だよなー。
何というかこの世界、人間はいわゆる特殊能力とかほとんどない気がする。その割に偉そうなのは、多分サブラナ・マールがそう決めた、からか。
さて、グレコロンの話は続く。俺が覚えてたら何てことない話なのだけれど、今の俺には初めて聞く話だ。
「サブラナ・マール様とアルニムア・マーダとの戦の折り、サンディ家はサブラナ・マール様の配下となりました。当然この能力を見込まれてのことなのですが、サブラナ・マール様とマール教の教主様も同じような能力を持っていることは、当時の当主は知らなかったようです」
「……同じような能力、なのか」
シーラが小さくため息をつく。同じような能力ってこの場合、つまり僧侶の女の子としっぽり一夜、ってアレだよな。
やることはともかく、結果は一緒ってことか。
「もっとも、マール教側でその能力を使える者はいても、使い方が異なります。私やコータ様のような使い方のほうが、簡単に使用できることを見越してだったのでしょう」
「マール教側の使い方というのは、つまり教主様と」
「一夜をともにする、というあれですね」
ファルンの疑問に答えることで、グレコロンは俺の推測を肯定した。やっぱりアレ、僧侶を手懐けて自分たちの傀儡にするための儀式だったわけか。
「方法が大変だと思うのだが、それに値するメリットがあるのか?」
「手間はかかりますがその代わり、対象者の魂を縛ることができます」
「なるほど」
カーライル、よく聞いてくれた。ああ、サブラナ・マールやマール教教主のやり方は、そういうメリットがあるのか……ということは。
「つまり、俺やお前のやり方だと目が覚める可能性はあるわけだ」
「その通りです。もっとも、我々のやり方であれば手軽で数をこなせますし、さほど術者の体力を必要とするわけではありませんからね」
「……こうびばっかりするのも、たいへんですー」
「まあ、確かにそうだが」
あの、ミンミカ、そこさらっと言わないの。確かに交尾なんだけどね。
……あれ。シーラが、すっごく嫌そうな顔をしている。これはこれ、もしかしてもしかすると、そういうことなのか。
いや、さすがに今、聞けないけどさ。