122.せっかくだから連れて行け
こんこんこん。
「失礼します。ファルン様のお連れの方はおられますか」
できるだけ丁寧に言葉を使ってるみたいだけど、使い慣れてなくて微妙にアクセントがおかしい声が飛んできた。
思わず飛び出そうとしたらしいミンミカを抑えて、俺はシーラに声をかける。
「なあ、シーラ」
「は」
「教会で暴れるのと領主のところで暴れるのと、どっちがいい?」
ふと、そんなことを聞いてみた。どうせ、どちらかで暴れることになるのは目に見えている。その場合最大戦力となるシーラが暴れたいのはどちらだろう、そんな考えからで。
「ふむ」
ほんの一瞬だけ考えて、結論が出たらしい。シーラは目を細めて、低い声で答えてくれた。
「教会では以前軽くやりましたので、せっかくでしたら領主のところで」
「よし」
領主のところで暴れる。つまり、扉の向こうにいる誰かさんの思う通りになるってことだ。
せっかく連れてってもらえるんだ、楽をしようじゃないか。
「じゃあ、頼む」
「ふえー」
ミンミカが耳をふるふるさせているのは、見ないことにする。どうせお前も暴れるんだろうが。
シーラはやれやれ、というように肩をそびやかせて、それから扉に近づいた。
「今開けます」
まあ、そこから早いこと早いこと。
こっちが抵抗しないのをいいことに麻の丈夫な袋に詰め込んでよっこらしょ、と担いでそのまま多分裏口だろうなあ、そちらから出ていったらしい。さすがに麻袋の中からじゃ外は見えないっての。
で、そのうちどこかの建物、多分領主の屋敷に入って今俺は、ふかふかのソファにちょこんと座っている。
「………………」
「ようこそ、リトル・レディ」
豪勢な内装にものすごく高そうな家具やら絵やら壺やらの数々、どう見ても領主の部屋です、ありがとうございました。
というかこのキラキラ領主、俺を見てうっとりワイングラス傾けてるんですが何ですかねえ、これ。
ともかく、ひとまず文句はつけさせてもらおう。
「無理やり連れてきて、何を言ってるんですかあ!」
「おや。別に私は、無理やり連れて来てもらったつもりはないのだがね」
「わたし自身がOKしてないのに連れてくるのは、無理やりです」
「それは失礼をしたね、リトル・レディ」
おぞぞぞぞ。背筋を寒気が駆け上ってくるぜ、おい。
この街の人とか、これに惹かれるのかよ冗談じゃねえ。
「私のことは、知っているね」
「サンディタウンの領主様、ですよね」
何というかすごく己のペースで話をする人のようで、俺の反応もあんまり気にしてはいないようだ。ま、いいか。
とりあえず、話をしてみよう。何しろ俺、こいつのこと何も知らないしな。きしょいイケメンだってくらいで。
「そうだ。グレコロン・サンディという。この街は、我が先祖が神の教えに沿って造り給うた街なのだよ」
うわあ、なにそれ。この場合の神ってサブラナ・マールだろ、どんな教えをこいつの先祖にぶち込んだんだ?
というか、造ったやつの子孫だから仕えてるのか、街の人たち。それ、おかしくないか?
「よって、この街の全権はほぼこのサンディ家にある。無論、我が神を崇めるマール教にも譲るところはあるがね」
そういった考えを一つもおかしい、なんて思うこともないんだろうな、この領主は。
だって、そう言って当然のようににっこり、とイケメン全開の笑顔を見せたんだから。