121.実はここでも危険かも
食堂を出たところで、ここの僧侶さんに会った。俺たちを確認すると彼女はにっこり笑って、満足そうに声をかけてきてくれる。
「お食事は済まされました?」
「はーい。おいしかったです!」
ミンミカ、威勢いいなあ。確かにここ、何だかんだで飯美味いし。外の飯屋も美味いんだけどな。これも考えてみりゃ、あの領主の統治が内側にはうまく行ってるってことか。んー、なんか複雑だなあ。
「今日は窮屈でごめんなさいね。街のほうの都合ですのに」
「いえ。ゆっくり休めましたから」
そんなことを考えている俺を放っておいて、シーラが彼女に答える。言われてみれば、外に出ない以上休日だと思ってゆったりしてるくらいしかやることないし。
「それは良かった……ああ、そうですわ」
ふ、と僧侶さんが何かを思い出したようにぽんと手を叩いた。向き直ったのは、同じ僧侶であるファルンの方に。
「ファルン殿、教会の方においでいただけますかしら。マール教本部より、新規の情報が来ているようですので」
「承知しました。あの」
「我々は、先に戻っておこう」
「私たちも、自分の部屋に戻りますよ」
今から行くべきか、と首を傾げたファルンに対し、教会の中だし多分大丈夫だろうという感じでシーラとカーライルが答える。
さすがにマール教も、そこまで馬鹿じゃないだろう。もし何かあるとしても、まだ人の出入りのある時間だし。
「それでは、すみません。では、参りましょうか」
「ええ。すみません、お預かりしますわね」
「ぼくたちをつれてってくれるそうりょさまなので、はやくかえしてくださいねー!」
「はい、もちろん」
アムレク、お前……いや、いいけど。預けたもんは返してもらうのが当然だもんな。
部屋の前でカーライル&アムレクと別れて、室内に戻った。
いやほんと、それなりに広い教会ではあるんだけどちょいと窮屈だったなあ、気分的に。
外が賑やかだったせいもあるんだろうけどさ。あと、カーライルだけ外に出たのは……ま、いいか。
「コータちゃま」
「ん?」
ミンミカが俺を呼んだのは、部屋に入ってしばらくして、いい加減また遊びにでも行くかねと思い始めた頃だった。
何故かシーラも、ひどく気を張っているらしい。
あー、これ、もしかして。
「おそと、さわがしいです」
「男が多いようです。獣人がほとんどですね」
「マジか」
部屋の外に、獣人の男をメインに何人かがやってきている、と。シーラの言い方からすると当然アムレクではないわけで、それが何で女の部屋の前にいるんだろうねえ。
って、のんきに言ってる場合じゃなくね?
「暴れますか」
「そうだな……いや、待て」
別に暴れてくれてもいいんだけど、理由は知りたい。少しでもヒントがないか、と考えて俺は、ウサギ娘に目を向けた。
「ミンミカ。外で何言ってるか分かるか」
「んーと」
垂れ耳でも、彼女は耳は良いはずだ。しばらく外をうかがって、それから小さな声で、答えてくれる。
「そうりょがいないから、ぜんぶおみやげだって」
「僧侶がいないから?」
「ファルン殿のことでしょうか」
「それか」
シーラが名前を挙げてくれたので、気がついた。俺のパーティで女性で人間なのは、僧侶であるファルンだけだ。
もしかしなくても、領主の話を知ってしまえば連想はたやすい。
「……ファルンがいないから、俺たちは獣人と鳥人の集まりだ。領主向けのお土産には、ちょうど良いだろ」
「おみやげ、ってことは、りょうしゅさまのおうちにつれてかれるですか」
「そう」
獣人たちを外に出さない、よって獣人たちを領主の屋敷に招待することはできない。そう思ってたのが、間違いだったわけだ。
「しかし、ここは教会の中ですが」
「当然グルだろ」
領主とマール教の教主がつながってんだから、そう考えないほうがおかしかった。ああ、めんどくせえ。
ファルンを引き離した僧侶が、実際にこの事態を知ってるか知らないか……知らないってのもなさそうだな。
……何とかして吸ってやろう。話聞きたいしな。




