119.近いところで見た感想
「ただ今戻りました」
幸い、カーライルは無事に戻ってきた。領主とその取り巻きが俺たちの部屋から見えなくなって、少しばかり後になって。
で、部屋に入って扉を閉じて、開口一番。
「領主殿の視線、背筋がぞわぞわして気持ち悪かったです!」
「あー」
何故か、全員が納得してしまったのは自分でも何でだろうと思った。いやまあ、こいつがあの領主に惹かれてふらふらふら、なんて光景がまるで想像できないからなんだろうけど。
ともかく、カーライルは「気持ち悪かったんですが」と言葉を続けてくれた。いつもの調子で、ホント安心する。
「……何となくですが、ファルン殿が同行していたら、おそらくあちらに惹かれていた可能性は高いかと思われます。そのくらいに、人を引きつける存在であることは分かりました。さすがは領主ですね」
「まあ」
「もともとマール教だもんなあ、ファルン……」
ああ、そういうことはわかったんだ、カーライル。それでも、自分は行かなかった、と。さすがというか何というか。
あとファルンを一緒に行かせなくてよかった、とはファルン自身も思っていたようだ。
「では、わたくしは領主様の見物に出なくてよかったのですね」
「ええ。街の人たちはみんな、性別も種族も関係なく領主を見てうっとりとしていましたからね。私のように旅行客も混じっていたようですが、ほぼ例外はありませんでした」
うへえ、そこまでか。種族関係ない、ということはサンディタウン在住の獣人や鳥人たちも反応は同じ、と。
……そこら辺が、住民とそうでない獣人や鳥人との区別ってことなのかな。反応、違うのかもしれないし。
そんな事を考えてる俺をよそに、アムレクが不思議そうに首を傾げた。ああ、お前結局ちゃんと見てないもんな。
「そこまで、すごかったですか? りょうしゅさん」
「ええ。ちょっとしたことでマーダ教だとバレないように、私も周囲に合わせて一応うっとりするフリしてたんです。ですが、それもあって気持ち悪かったんですよ……」
げんなりした顔でそう吐き捨てたカーライルに、俺は心の底からおつかれさんを言ってやりたい。演技してたのか……ま、確かに反応しないやつがマーダ教ですよ、なんてことだったりしたら問題だもんなあ。
いや、本当にごめんな、カーライル。お前かファルンしか、今日は外に出られないからさ。
……しかし、性別も種族も関係なく、あの領主には惹かれていたっていうのか。なんかすげえな。その中で無事だったカーライルも。
「というかカーライル殿、よくあちらに魅了されなかったものだ」
「私はコータ様の忠実な配下ですから」
同じことを考えたらしいシーラの問いに、えっへんと胸を張って答えるカーライル、さすが残念イケメン神官。この残念がなけりゃ、もうちょっとモテたのかもしれないなあ。今んとこ、女の子俺も含めて四人も一緒だけど誰もなびく様子ないし。
もっとも、ひとまず問題は終わった。そうすると、カーライルの苦労に報いるためには……やっぱ飯か?
「ま、ほんとおつかれさん。……飯でも食いに行くか?」
「おひるごはんですか? コータちゃま。ミンミカも、たべたいです」
はいはい。一応、カーライルの意見聞いてからな、と思って視線を移すと、何というかホッとした顔をしている。
「……よろしいのでしたら、さっぱりしたものをいただきたいです」
「さっぱりか。……領主、濃かった?」
「あの気配と言いますか、存在自体が、ですね」
だよねえ。お前通して間接的に見た俺でもアレだったんだから、直接見たお前さんには濃かったろ、ほんとに。