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011.相手によっては味が違う

 ひとまず、ファルンがお咎めなくこの村を出られるようブランナに書類を作ってもらうことになった。


「お茶淹れてきますから、待っててくださいね」

「自分は菓子も欲しい」

「はいはい、シーラの好きなクッキー持ってきますから」


 当のファルンがお茶淹れに奥の台所に引っ込んだので、今ここには俺含めて四人か。今俺たちがいるのは、玄関入ってすぐの普通はお祈りとかに使う、この建物では一番広い部屋だ。事務所みたいなことも、ここでやってるらしい。

 シーラは武装を解いて、明るい茶色系のタンクトップにトランクスみたいな格好になっている。はあ、こうやってみるとしっかり筋肉ついてるな。やっぱ剣士だしな、うん。

 カーライルの方はベージュ系のシャツに濃茶のパンツで、さらっと着こなしてるあたりはイケメンの本領発揮かね。中身残念だけど。


「コータ様、大変お可愛らしくなられました」

「あ、ああ、ありがとう……あんまり人前で言うんじゃねえぞ」

「え、どうしてですか」

「言葉遣いがおかしいだろ、外見幼女に対して」


 俺の指摘にカーライルはうぐ、と言葉をつまらせた。ここは礼拝用の部屋なんだから、いつ玄関から村の人が入ってくるかもしれないだろ。


「ブランナ様、ファルン様。失礼いたします」


 ほら。

 こんこんというノックの音とほぼ同時に、玄関開いたぞ。ブランナは慣れてるんだろうな、机から顔上げてニッコリと答えてみせる。


「まあ、村長」

「ファルン様が禁足地からお戻りだということでしたので、様子を伺いにまいりました」


 村長、で女性というと恰幅のいいおばちゃんとかしっかりした、やっぱりおばさんとかそんなイメージを勝手に抱いた俺なわけだが。

 現れたのは思ったよりも若い、つっても俺の感覚でいうと三十代なりたてくらいの女性だった。黒髪をうなじんとこでまとめた、ちょいきつい感じで身体つきはなにげにしっかりしている。田舎の村だし、男女関係なしに力仕事やるんだろう。

 おね……おばさん? 微妙だな。村長でいいや。


「もともと村長だった父親が早くに亡くなって、母親も少し前に身罷られたのでその後を継いだそうです」

「ふうん」


 シーラがひそひそと教えてくれた。ああ、世襲か。

 いやまあ、どうみても田舎の村だしな。元の世界でもなにげに結構ある話だし、その辺りは気にしないでおく。いちいち選挙とかするより、その方が楽だろうし。


「あら。まあ、はじめまして」

「は、はじめまして」


 おや、カーライルにはめっちゃ嬉しそうな声で挨拶したぞ。旦那いるのかどうかは知らないけど、いきなりアプローチとかそういう感じか?

 まあイケメンだしなあ。おのれイケメン。


「こちらのお兄さんはいいとして。シーラ、同類を連れてきたの?」


 お兄さん、つまりカーライルはいいとして。

 シーラに同類を連れてきた、と言った。多分、俺のことだ。こちらをちらっと見たとき、えらく冷たい目をしていたな。


「生贄にされかけておりましたので」

「ふうん、まあいいわ。あなたと一緒に、しっかり使ってあげる」


 シーラも意図的に感情殺した声で答えてるけど、村長もなあ。

 ああ、こいつそういうやつだったかと納得した。いるんだよなあ、見てくれで態度変えるやつ……いや、種族差別とかかな。シーラも見下してるぽいから、羽や角生えてる相手全般に対してこうなんだろう。

 こっちだって好きで角生やしてるわけじゃないんだけどなあ。……しまえるのかね、これ。

 あとカーライル、口の端がぴくぴく震えてるぞ。多分、俺の扱いがアレだったからだな。


 ま、いっか。


「使ってあげる、はこちらの台詞だけどな。カーライル」

「え?」

「はい」


 事前に打ち合わせしたわけでもないんだけど、カーライルは俺の意図を読み取ってくれた。ひょい、と動いて村長を背後から羽交い締めにする。ついでに膝を軽く押し出して、彼女のバランスを崩してそのまま床に座らせた。


「ちょっと、お兄さん。これ、なに」

「黙れ」

「っ」


 おう。カーライル、そんな冷たい声出せるんだ。しかも村長の耳元で、ささやくように。やっぱりおのれイケメン。

 じゃなくて。

 ともかく村長は動きをピタリと止めたので、今回は両手で頬を包み込むように押さえてみよう。ついでに邪神っぽく、にやりと笑って。


「いただきまーす」

「ん、んふっ」


 唇合わせた途端、目がくわっと見開かれた。何すんだって言いたいんだろうか。分かるけど、言わせないよ。

 あー、お手入れとかあんまりしてないのかな。ちょっとかさかさしてるわ、唇。頬も軽く荒れてる感じがするけど、これは仕事とかで忙しいからだろうなあ。

 そうしてすうっと軽く吸った村長の精気は……なんというか、ぴりぴりしてた。チリソースみたいな感じで、たまにはいいけどこれが主食ってのは俺はちょっと、なあ。


「んふう」

「んんん……んー」


 黙らせるためにも俺の息を吹き込んでやると、目がとろんとしてごく、ごくと唾なり何なり飲み込むみたいに俺の息を飲み込んだ。

 いや、そう自分から吸おうとしてるけど、俺の息が続かねえよ。ということで、ここで終わり。顔を離すのと同時に、カーライルも腕を離した。


「ごちそうさまでした」

「ありがとう、ございましたあ」


 さっきまでの嫌悪感はどこへやら。村長さんは今の数秒で、俺の足を舐める下僕になった。

 ってあのー、俺そんな命令してないんだけど!?

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