117.見回りに理由はあるか
サンディタウン自体は割と普通の街で、俺たちはのんびりと食事をしたり塔の中の教会を見学したりしていた。教会の内装改修にはこの街の領主さんから援助をどっさりと頂いたらしく、なにげに看板が設置されていたりする。俗っぽい教会だよな。
けれど、三日目になって僧侶さんが、俺たちの部屋に来て「あの、申し訳ありません」と話しかけてきた。ちょうど、今日はどこに行こうかと男性陣と話しようと思っていたところだったので、二人にもこちらの部屋に来てもらう。
「明日は見回りの日ですので、人族以外の皆さんは教会の外に出ないほうがよろしいと存じます」
「見回りの日?」
「初めておいでの方ですとご存じないことも多いようですので、説明させていただいております」
はて、とカーライルが首を傾げる。僧侶さんは、知らない俺たちに説明してくれた。
「月に一度なのですが、領主殿が街の中を見回りと称して歩かれます。それで、鳥人族や特に獣人族の方で気に入られた者は領主殿の屋敷に招待される、ということで」
「……教会の外に出るなということは、つまり招待された者は」
「戻ってきた者はない、というお話です。ただ、基本的に住民以外の者が招待される傾向ですので」
シーラの確認に返ってきた答えって、おおおおおい!
つまりそれ、旅行してきた何も知らねえ獣人や鳥人を拉致ってあと何やってるんだ、って話だよな!?
良いのかよマール教。そういうの悪じゃねえのか、昔の俺っぽいぞそれは。
「つまり、ミンミカたち、あしたはきょうかいのなかでおとなしくしてなさいってことですね!」
「ええ。領主の権力も、教会の中までは届きませんので」
「じゃあ、あしたのごはんはきょうかいでたべないと」
ミンミカ、アムレク、お前ら相変わらずにも相変わらず過ぎて嬉しいよ。後でモフらせろ。あとミンミカ、今日吸う。
それはそれで置いといて、割とまっとうな僧侶であるファルンがさっきの俺と同じ疑問を持つのは至極当然のことであった。
「そのような領主の横暴、マール教の名に置いて許してよろしいのですか?」
「しっ」
思わず強い口調で尋ねた彼女に、僧侶さんは口の前に人差し指を立てて止めた。どうやらこの僧侶さんも、あんまり良いことだとは思っていないようだ。
「これはあくまでも噂なのですが……領主殿からは、神都サブラナの運営に多大なるご協力を頂いているそうです。また、教会内には手を出さないというのも教主様と領主殿の間で付けられた話、だそうです」
「うわ」
思わず俺が声上げたの、悪くないよな。
要するに、ここの領主さんはマール教の大事な資金源のひとつなわけだ。それで、上と話をつけてある、と。
「それに、旅行者の方にはお分かりにならないと思いますが、我々住民は領主殿の見回りのおかげでマーダ教や異端派の手にかかることがない、と考えております」
「領主殿の見回りだから、当然護衛も多くつく。その目を逃れるために、危ない連中がやってくる可能性が低い、と」
「そういうことです」
カーライルが、少しばかり嫌そうな顔で紡いだ言葉に僧侶さんが頷く。マーダ教の過激派とか、あの長ったらしい名前の異端派連中なんかはたしかに、普通の住民にとっちゃ嫌な相手に違いないだろう。自分の普通の生活が、いつ壊されるかもしれない相手なんだから。
で、領主さんはその連中を見回るついでに、獣人や鳥人を自分のものにしていく。……どちらがついでか、なんてのは知らないけれど、旅行者を持っていくのが基本なら住民には手は出さないってことだ。
「ですので、領主殿の人気自体はとても高いのですよ」
「サンディタウン全体が、守られているから」
「ええ」
けど、そんな守り方もどうかと思う。中の連中を守るために、外から来た連中を犠牲にするなんてのは。
ま、俺の思い込みだけどさ。




