116.この旅に理由はあるか
「食事は、一階奥フロアに一般の方にも開放されている食堂がございます。また、街中にも美味しいお店がございますから、玄関で案内させていただきますわ」
皆様、好みというものがございますので、と僧侶さんは穏やかに笑ってくれた。うむ、旅行の楽しみの一つは各地の飯である。
ということは、食べたいものを示せばそれのうまい店を教えてくれるってことか。観光案内所も兼ねてるのかな、教会って。
「また、地下フロアに大風呂がございます。男女別で、こちらも一般の方のご利用を受け入れております」
風呂はそりゃあるよなあ、マール教のこと考えるとさ。とはいえ、もと日本人としてはゆっくり入れる風呂があるのはありがたい。
「では、どうぞごゆっくり」
「ありがとうございます」
ファルンの礼に見送られて、僧侶さんは出ていった。
あ、ここは案内されたその五の部屋、つまり女部屋である。二段ベッドが右側に二つ、左側に一つある、ほどほどに広めの部屋。多分もとの塔が古いやつなんで、部屋もそうそう広げたりはできないようだ。
「コータちゃま、どのベッドにします?」
「どれでもいいや。上段はめんどくさいから、下で」
「四人ですから、適当で構いませんわね」
「上段は狭いから、自分も下段にしたい」
二段ベッドだと、上に寝るか下に寝るかで場所決めするのが地味に楽しいな。
結局俺は窓に一番近い右側奥の下段にした。右手前の下段にシーラ、左側の上にミンミカ、下にファルンの配置。ミンミカはシーラとは逆で、狭いほうが良いらしい。なるほど。
まるで小学校時代の修学旅行とか、そんな感じじゃないか。どこが修行の旅だよ。
「今更だけどさあ」
ほんと、どこがだよ。
「これ、修行になってるのか? 修行にかこつけた、ただの観光旅行じゃね?」
「確かに、そのような方も増えているという噂は聞きますわね」
思わず口に出した愚痴というか疑問というか、にファルンが頷いてくれた。あ、やっぱりそうなんだ。
資金はそれなりに掛かるけど、どうやらマール教教会がいろいろバックアップしてくれてるみたいだからな。何で、今のところ金に困ってるわけではないし。
「もっとも、こうでもなければ旅に出る人も増えませんし」
「観光地も儲からない、か」
「せいかつにおかねはひつようですー」
ファルン、シーラ、ミンミカ、全力でぶっちゃけるなよなあ。結局、そういうことになるのかね。
確かに、必要もなく旅に出る人間てあまりいない。というか、観光旅行だってもの見たりするために行くわけだし。
その理由付けをして経済を回すために、現在の修行の旅ってのは存在してるのか? 良いのかそれ。
「各地の教会も、観光客から収益を上げているとか聞く」
「ここも、食堂と風呂を一般に開放しているのはそういうことですわね」
そりゃ、シーラの言う通り教会もいろんなもの売ってるしな。お守りとか記念品とか、勇者絡みのところだとタペストリーとか。
結局のところ、マール教が修行の旅を推奨してることについては俺は否定しない。邪神のくせにちゃっかり利用させてもらってるしな。
「しゅぎょうりょこう、というりゆうであちこちあそびにいけるの、ミンミカはたのしいです」
実は俺の信者であるミンミカの、このセリフが答えなんだろう。
つか、俺の正体がバレるまでお世話になりまーす。