114.たかいたかーいの変な街
翌朝、牛車に乗って半日ほどでやっとサンディタウンに到着した。
外の塀が、エンデバルやソードバルなんて目じゃないくらい高いんですけど? なんつーか、東京都心部の高層ビル群囲んで半分以上見えないよってレベルで高い。良く積んだな、こんな高さの石。
「うわあ」
で、ファルンの御威光というかマール教の御威光のおかげでするっと中に入ることができた俺たちの前に現れたのは、そのくらいの塀がないと外から隠せない高層建築群だった。よく建ってるな、これ。
「高い建物が多いですね」
「よく建てましたねえ……」
シーラが呆れた顔で見上げているのはすごく分かる。上まで飛んでいくの、どれだけ大変なんだろうとか考えているんだろうから。
……鳥人の襲撃考えて造られたのかな、なるべく高いほうが太刀打ちしやすいだろうし。俺はそういう詳しいことはよく分からないけれど。
カーライルが目の上に手を当てて眺めているのは、上向くと太陽眩しいからだな。そのくらい、建物がやたらと高い。その割に全部が高いわけでもなく、また道が……三車線くらいあるんじゃね? って感じで広いので狭苦しさは感じないな。
「建物だけで言えば、神都サブラナよりすごいですわね」
「そうなんですか?」
「ええ。神都サブラナでは、サブラナ・マール様をお祀りした中央聖教会よりも高い建物を建ててはならぬと決められておりますから」
「なるほど」
ファルンの説明に、俺も含めて全員が頷く。そういう制限がないこの街で、馬鹿みたいに高い建物を建てたがった金持ちとかがいたんだろう。
その結果がこれか。……って、教会より高くても平気なのかね、ここ。
「……普通の街や村では、そういうのはないんですか?」
「建物の都合にもよりますからね。そのあたりはゆるいんですよ」
ファルンに聞いてみると、サラリと答えてくれた。ああ、新しく教会建てられるようなところならともかく、田舎だとそうも行かないところもあるわけだ。例えば。
「ナーリアとかドンガタだと、もともとある家の一軒を教会にしてましたしね……」
「ミンミカたちのむらでも、おうちのひとつがきょうかいでしたよ」
カーライルが例に出した二つの村は、わざわざ建物を建てる余裕が多分なかったと思う。山の中なんで、大きな建材用立てるのも大変だったろうしな。
つか、ミンミカたちの村にもあったんだ、マール教教会。
「ああ、ちゃんとあるんだ」
「もちろんです。ちじんぞくさんたちも、ときどきおいのりにきてましたよ」
表面上、という言葉を声にせず口パクだけで表して、ミンミカはほにゃんと笑ってみせた。ああ、ウサギ獣人たちも地人族も、隠れマーダ教多いみたいだしなあ。
で、自分たちも苦労したんだろうにそれを表に出すこともなく、兄のアムレクはおもむろに遠くに見える建物を指差した。
「それで、サンディタウンのきょうかいはあれですか?」
「あれですね」
「高っ!」
アムレクに答えたファルンの言葉と、思わず出てしまったカーライルの言葉が重なったのはしょうがないな。
いくつかの高い建物を従えて、どーんとやたら細長い塔が生えている。……あれ、上の部分は実用的なもんじゃないだろ。サブラナ・マールの象徴って感じだろ。
「高層部分には、高位の僧侶しか入れないと伺っておりますわ。我々が用があるのは、せいぜい三階部分までですわね」
やっぱりか。
……あれ、俺がガチ邪神モードだったら一気に叩き潰すか、途中で折るか、はたまただるま落としよろしく中途半端なところから外すか……あ、何かやってみたい。やらないけれど。