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112.進む途中で訓練中

「はあっ!」


 俺が勢いよく発声すると、少し距離をおいて生えてる木の幹にばしんと衝撃がぶつかった。半分くらいまで折れて、枝葉がこちら側にぐらりと傾く。完全に折れていないから、この木はもしかしたらここから再生できるかもしれない。


「おお、さすがですね。コータ様」


 見ていたカーライルが、ぱちぱちと拍手して讃えてくれた。いや、これはカーライルなんでもう、いつもどおりというか何というか。


「このくらいの威力であれば、常時使えるようになれば戦闘ではかなり楽になるかと思います」

「そっか。ま、だいぶ安定してきたけどな」


 イヤボーン改め衝撃波、とネーミングセンスがない俺はこの能力に直接的な命名をしてみた。サンディタウンに到着するまでの五日の間、宿に泊まるたびに近くの森や林に出向いて訓練をしている。

 最初は一人でこっそり、と思ったんだがこの残念神官、しっかりついてきてたよ。曰く「御身に何かあったらどうするんですか! ロリコン変態とか山賊とか!」だとさ。すまん、気を抜くとどうも外見ロリっ子なことがすぽーんと抜ける。

 でまあ、せっかくなので訓練の様子とか見てもらってるわけだ。最初は威力の制御がいまいちだったり明後日の方向へ飛んで行ってたのが、明日にはサンディタウンにつく今晩になって先程の威力となったわけだ。


「ですが正直、コータ様のお手を煩わせるのは……」


 ただし、カーライルとしてはどうしても俺を戦力としては考えたくないらしい。一応神様だし、後ろでどーんと控えてるのがふさわしいんだとは思うけど、今そんなこと言ってられる状況じゃないんだよな。


「今後味方が増えてからならともかく、今じゃ戦闘要員ってシーラ、あとアムレクとミンミカくらいだろ。俺の正体バレたら、それだけで世界のほとんど敵に回すことになる。俺が戦えても焼け石に水だ」

「わ、私も戦えます」

「いやお前苦手だろ、そういうの」

「っ」


 言葉に詰まるなよ。

 別に、お前さんが男だからって無理やり戦闘要員にするつもりねえし。確実にシーラのほうが強いし、ウサギ兄妹だってそこそこ戦えるからな。

 それに、カーライルには他の役目があるわけで。


「お前は俺の神官なんだから、無理に戦闘要員にならなくていい。マール教の僧侶があちこちの街で重宝されてるように、マーダ教だと神官も大事な役目なんだろ?」

「は、はい」


 そう。マーダ教の信者にはちらほら会ってるけれど、神官は未だにカーライル一人しか会ったことがない。カーライルの一族は滅ぼされてるっぽいし、他の神官だってどこかに隠れてるか本性隠して生きてるか、だろうからな。


「さっさと仲間増やして、お前さんの胃袋楽にしないとな。それまでは、神官としての務めに専念してくれて構わない」

「恐れ多いお言葉、ありがとうございます」


 うむ、おとなしく頭下げてくれればそれでいいんだよ。

 ところで、神官としての務めってなんだろうな。やっぱりお祈りとか、そういうのなんだろか。俺、祈られる方だけど。


「にしても」


 考えても分かることじゃないので、話を戻そう。折れかけた木の幹、俺が衝撃波をぶつけた場所に手を当てる。うむ、ささくれだってバキバキだ。うっかり手を滑らせでもしたら、トゲが刺さりそうであぶねえ。


「俺って、もともとこういう能力あったのかね」

「記録ではご自身が戦に出られたこともありますので、おそらくは」

「そっか」


 カーライルの知ってる記録ってのは、多分家に伝わってきたものだろう。神都サブラナにでも行けば、禁書だなんだっつってしまい込まれてあるやつがあるかもしれないけれど。

 そんなの探してて包囲でもされたら、洒落にならねえな。もう少し、やり方を考えないと。

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