111.山奥の村よさようなら
地人族の僧侶さんをゴチになった翌日、俺たちはドンガタの村を発つことになった。要するに、乗り合い牛車の発車日なわけだ。
いや、発車日といってもだいたい毎日何がしかの牛車は来るんだけど。
「サンディタウンへは、乗合牛車を乗り継いで五日ほどです。途中の宿場町はあまり治安がよろしいとは言えませんが、シーラさんのようなお強い方がいれば大丈夫かと」
「シーラお姉ちゃん、剣も新しくしましたからもっと強くなりましたよ!」
「え」
「ええ。シーラさんの強さが更に際立ちますね」
当の僧侶さんが、同僚であるファルンのお見送りを名目に来てくれた。毎度のごとく、人前では忘れるよう指示してあるので問題はないだろ。特にこの僧侶さん、実はマーダ教系列なわけで。
で、俺が手放しにシーラを褒めたら当人、固まった顔が真っ赤になった。ああ、ちゃんと照れるんだ、可愛いじゃないか。隙を見て吸ってやるから覚悟しろ。あとカーライル、しれっと微妙にくさいセリフを吐くな。
「ガイザス工房さんの剣でしたら、丈夫さと切れ味は保証できますけれど……シーラさんご自身が証明なさってましたものね」
「ああ。おかげでこれからも、剣士としての役割を十二分に果たせそうだ」
「シーラさま、かっこいいです!」
「ぼくはけんをもてないけど、がんばってつよくなります!」
ファルンものほほんと褒めてるし。これはこれで良いんだけどな、ファルンのペースだから。
ウサギ兄妹はもう、相変わらずなんでこれでいいや。ミンミカがそこそこ強いのは分かってるから、アムレクも強くなってくれるんなら頼もしいよな。どちらかというと、メンタル方面で。
「いましたよー!」
「ああ、間に合ってよかったよかった」
とことことやってきた人影がふたつ。ガイザスさんの奥さんと、ドートンさんだった。うわ、見送りに来てくれたんだ。
「旦那と僧侶様からお話を聞いてねえ。これ、持っていってちょうだい」
「はい、どうぞ。奥さんとこの売れ筋の一つ、ブローチっす」
ドートンさんが、手のひらくらいの小さな袋を六つ、カーライルに手渡した。ブローチって、六つってことは俺ら全員分持ってきてくれたんだ。
「サッシュの留め具にもなるし、マントとか使うときにも便利だよ」
「ありがとうございます」
奥さんのセリフに納得して、カーライルに続きみんなで頭を下げた。なるほど、留め具に使うわけか。確かに色んな所で便利かもしれないな。
ちなみにサッシュは、全員が腰に巻いている。色違いだけどお揃いで、ちょっとは団結してるって感じに見えるかな。
「いいっていいって。元気でね」
「はい!」
「ガイザス殿に、良い剣を作っていただきましたとよろしくお伝え下さい」
「もちろん。剣に何かあったら、また来るんだよ。手入れや修理だって、ガイザス工房は請け負っているからね」
「はい、喜んで」
武器を作ってる工房では、当然というかメンテナンスもやっている。これで長く顧客を掴んでいられるんなら、それもまたよしだよな。武器を使う方も、愛用のものを長く使えるってことだし。
「そろそろ乗りましょう。出発の時間ですよ」
「うん。それじゃあ皆さん、お世話になりました!」
「ああ。コータちゃんも、元気にっす」
カーライルに促されて、お別れの挨拶をする。ドートンさん、尻尾をぱたんと一つ揺らしながら手を振って見送ってくれた。もちろん、僧侶さんも奥さんも。
さあ、次はサンディタウンだ。港町に行く途中だから、山奥じゃないよな。
シーラが剣をいじくってるから、山賊だのはぐれマーダ教だの出てきても任せるとするよ。俺の能力、まだいまいち使いこなせてないし。




