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010.旅の支度は時間がかかる

「コータ様」


 倉庫の中から出してきてくれた靴のサイズをチェックしながら、不意にブランナが尋ねてきた。靴というか、革製の編み上げサンダルっていうのかね、これ。


「旅をされるとのことですが、ファルンは連れて行かれるおつもりですの?」

「ああうん、そのつもりだけど」


 あ、そうか。ファルン、ここの僧侶だ。勝手に連れて行ってもこの二人は文句言わないだろうけど、その後が大変そうだな。

 さてどうするか……と考えていたら、答えをくれたのはやっぱりブランナだった。


「承知いたしました。コータ様の御為ですもの、そのように手配いたします」

「手配?」

「マール教の僧侶は、神への信仰を深めるための修行の旅をすることが認められているんですの」


 ふむ、そういう手段があるのか。合法的に……法? ま、いいか。とにかく、咎められることなくファルンがここを出ていくことができる手段がある、と。


「代理の僧侶を手配してもらうことにもなりますので、その旨をこの地域を治める大教会に申請いたします。数日中には許可が下りますから、お発ちになるのはそれからということになりますが」

「なるほど」


 そういうことなら、ブランナには悪いけどしばらくここにいるかな。代理の僧侶が来たら出発、ということで少し余裕もできるし。

 しかし、そうりょであるファルンはいいけど俺たちは?


「僧侶じゃない人が同行するのは構わないのか?」

「その者たちにも同じく修行になりますので、ご心配には及びませんわ。コータ様とカーライル殿はよそからさらわれてきた、ということになっておりますから、そこに帰るための旅としても問題はないわけですしね」


 おう、それなら大丈夫そうだ。マール教の知識が俺にはないから、大変助かるよ。

 つまり、俺たちが僧侶の修行の旅にくっついていく形にすればいいわけだ。カーライル、一族滅んでたはずだけど故郷はあるだろうしなあ。

 まあ、そういう感じで俺たちはしれっと村を出ればいいわけか。よかったよかった。

 ……と、代理の僧侶ね。うっかり話漏れても困るし、よし。


「じゃ、出発前にその代理さんもいっとくか。女の子なんだよな?」

「ぜひ、ご賞味くださいませ。マール教の僧侶は、基本的に女が務めるものと決まっておりますから。例外は唯一人、全ての僧侶の上に立つ教主様のみでございます」

「はあ」


 トップだけが男で、あと全部女か。つまり下から成り上がっていくわけじゃねえから、トップは世襲とかそういう感じなのかね。

 えらいでっかいハーレムだな、なんて突拍子もない事を思った。元の俺が男侍らせて逆ハーレム作ってたわけだから……何だこの対決、頭悪そうに思えるぞ。

 あれ、すると今回はお互いにハーレム対決か。うわ、もっと頭悪そう。

 かといって、男吸う気にはならんぞ。前世の俺には悪いけどさ。




 うまくサンダルを足に合わせてもらったあとで、ファルンが奥の倉庫に案内してくれた。カーライルとシーラも服装なり靴なりをブランナに見繕ってもらうとのことで、そっちは任せた。なおカーライルのやつ、俺の足見て「山道を歩いて怪我したらどうするんですかー」と叫んでたけどどうしよう。靴下あるなら履くか。

 それはそれとして、倉庫。

 普通なら立派な蔵なり宝物庫なりあるんだろうけど、まあこの教会にはふさわしいというか、小さな一室だった。それでも掃除はしっかりされてるみたいで、室内の棚にいくつか武器なりアイテムなりが置いてある。


「この教会にはさほど高位ではありませんが、宝物がいくつかあるんです。旅のお供に、コータ様にもどれか選んでいただこうと思いまして」

「宝物?」


 多分、ファルンが言ってるのはこの棚に置いてあるアイテムのことだろう。どいつもこいつも、教会の玄関にあったあのくさびのような紋章がついてるし。


「わたくしが持っている、この杖もその一つです。軽度の傷であれば、祈りを捧げれば即座にふさがるんですよ」


 そう言って彼女が見せてくれたのは、初めて見たときから持ってたあの杖だった。こいつも、持つところに紋章があるな。見た目はシンプルな杖だったから、そういうもんだとは気づかなかった。

 ところで。


「祈りって……」

「もちろん、サブラナ・マール様に。コータ様には大変申し訳ないのですが、これはマール教の宝物ですから」


 ですよねー、とは思う。この教会にある宝物が俺に祈りを捧げたら発動、なんてないわー。というか、そんなもん現存してるのか?

 ま、どっかの遺跡とか探したらあるかもしれないな。うん、何となく気には止めておこう。


「ああうん、そこら辺は気にしないよ。けど、俺の下僕でも効果あるのかね」

「ご覧の通りわたくしは持ててますし、基本的には誰でもこれを持って祈りの言葉を唱えれば術が発動すると聞いていますから」

「あー」


 ファルンの説明で納得がいった。

 音声入力による発動で、別に使用者が信仰心持ってなくても大丈夫、とそういうことか。

 まあ、ものがものだけにファルンが持ってたほうがいいな。カーライルくらいまでは大丈夫としても、俺が触って何か起きたらえらいことになりそうだし。


「分かった。じゃあ、ファルンはそのままその杖を持っててくれ。マール教の僧侶がマール教の宝物を持ってるなら、誰が見てもおかしくないからな」

「はい、ありがとうございます」


 さて、俺も何か持ってたほうがいいのかねと思いながらアイテムを見ていく。ただ、腕輪とか額当てとかみんな分かりやすく紋章付きで、何というかあんまり気分が良くはなかった。

 ……まだ自覚はないんだけど、やっぱり対立してる相手だってのがあるのかね。単純だな、俺。

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