108.すっぱり終わってふと思う
ほんの少しだけ、周囲は静かになった。
うっすらと漂っていた砂煙が消えていく頃、剣を叩きつけた勢いで地面に膝をついていたシーラがゆっくりと立ち上がった。軽く剣を振るい、血を払ってから鞘に収める。
こちらを向いた彼女の顔は、大変晴れ晴れとした笑顔だった。よっぽど剣の使いでが良かったんだな、シーラ。
「ドートン殿」
「はいっ」
大声で名前を呼ばれて、びびったようにドートンさんが返事する。声、ひっくり返ってるぞ。
でもまあ、シーラは機嫌いいみたいだから怒られるわけじゃない、と思うけど。
「丈夫で良い剣です。更に切れ味も良い」
ほら。
おっさんとやり合った時の感触を、手短に伝えてシーラは満足げに頷いて、そして告げた。
「そう、ガイザス殿にお伝え下さい」
「は、はい! ありがとうございます!」
ドートンさん、めちゃくちゃ嬉しそうな顔になって大きく頭を下げた。それから、自分の持ってた武器をしっかり抱えて大急ぎで駆け出していく。あのままガイザス工房に戻るのかよ。大丈夫か?
ま、いいけど。衛兵さんたちもやってきたし、後はあの人たちに任せて俺はシーラを迎えよう。穏やかに翼を一つはためかせて、そうしてこっちに戻ってきた彼女を。
「戻りました」
「お疲れ様です、シーラお姉ちゃん」
「は」
一応、ひと目があるんでロリっ子モードでいく。カーライルに抱っこされたままでもあるしな。
で、シーラは俺に軽く頭を下げてくれてから、少し照れくさそうな顔になってこんなことを言ってきた。
「その……応援のお声、ありがとうございました。あれで自分は、力が湧いた気がいたします」
「そうですか? なら、よかったです!」
「コータちゃんのご加護、あったのではありませんか?」
「まあ、ありがたいことですわね」
カーライル、ファルン、俺にはまるっきり自覚ないからな、そういうのは。シーラの思い込みかもしれないじゃないか、とは直接言えないしなあ。思い込みでも、強くなってくれりゃいいしさ。
「ぼくも、おうえんしてもらったらつよくなれますか?」
「ミンミカも、つよくなれるとおもう、です!」
アムレク、ミンミカ。お前らは単純に、思い込みで強くなれそうな気がするなあ。
……俺も、思い込みだけで強くなれたら楽なんだけどな。何となくだけど、これから先は今までのようには行かない気がする。
基本的に世界全部が敵みたいなもんなんだから、普段から気をつけないといけないんだけどな。
「……それにしても」
その中で、分かりやすく強くなったシーラの結果にふと視線を投げた。綺麗に真っ二つ、なおっさんだったもの。シーラの着地の衝撃を食らって少々ぐちゃっとなっているようだけど、基本的にはそのままだ。って、良く見えるな、俺。
「綺麗に斬れたのですか」
「ああ。少々の抵抗はあったが、あまり切れ味が良すぎても困る」
ファルンにはよく見えてないみたいで、そんなふうにシーラに問う。戻ってきた答えに、ファルンはくすりと肩を揺らした。
「余計なものまで斬れたりするから、ですか」
「そういうことだ」
ああ。
切れ味が良すぎて地面だの味方だの、そんなのまで勢いで斬れちゃったりしたら困るよな、確かに。
で、ふと気がついた。
人が真っ二つになっているのを目の当たりにして、俺良く平気だな。葬式とかには出たことあるけど、あんな形で人が死ぬのを見たことはほとんどないし……それを見て、何とも思わないのが不思議だ。
やっぱり、もともと邪神だったりするからなんだろうか。
自分自身でも、わからない。