105.おまかせした後観察よ
「コータちゃん。危険ですから避難を」
「……いや」
カーライルに言われて、ふと考えた。そうして、首を振る。
「ここよりもうちょっと安全なところでいい。何かあったら、衛兵さんたちに連絡できるように」
「何か、ですの?」
ファルンが不思議そうに首を傾げたのに気がつく……そういや、説明するの忘れてたな。この二人には先に言っておこうか。
「……あ、そうか。実はな」
ちょいちょい、と手招きをして二人に近づいてもらい、耳打ちをした。俺がどうやら配下や下僕たちのいるところを見られること、ただし声は聞こえないことを伝える。
「何と」
「まあまあ」
「そういうわけなんで、あまり人前ではやりたくないけど何かあったら連絡はしたい。だから、できるだけ離れたくはないんだ」
「なるほど。さすがはコータちゃんですね」
カーライル、あっさり感心してるし。もっとも、こいつは最初からこんな感じだったけどな。
対してファルンの方は、「やめておいたほうがよろしいかと」と言ってきた。理由は、なんとなく分かる。
「どこでその状況をご存知になったのか、と疑われますわよ」
「だよなあ。でも、ほっとけないし」
「ひとまず、移動しましょう」
うん、正直アムレクとミンミカとドートンさんあたりだけ心配したいんだよな。あと僧侶さん。シーラはあまり心配していない。
ともかく、カーライルに抱っこされたまま移動する。少し離れた、人のあまりいない道の外れまで来た。いい加減降ろせよカーライル、移動するの楽だけどさ。
ま、ここなら大丈夫か。
「ここでしたら、大丈夫だと思うのですが」
「ん。やってみる」
目を閉じる。探す相手はあんまり心配していないシーラ、彼女ならだいぶ奥とか行ってそうだしな。
シーラ、どこだと集中して念じると、ややあって光景が見えた。推定教会の中、蹴り飛ばされたおっさんが壁にぶち当たった瞬間。まあ、気絶で済んだだけマシだと思おう。別のおっさん、ずんばらりんと殺られてるし。
すぐそばで、アムレクが獣人と取っ組み合いになっている。鼻面に噛み付いて顔引っ掻いて、全力で腹に蹴りを入れて。なんだよ、お前強いんじゃないか。何だったんだろうなあ、最初の頃のあのビビリ具合は。
ドートンさんも一人を殺った後だろうか、剣の刃を確認してる。一人斬って刃こぼれの確認て、武器屋の品質チェックも大変だなあ。
で、衛兵さんたちは二人一組でおっさんどもの足を取ったり、人質になった人を解放したりしている。とりあえず、エロ方面は大丈夫らしい。俺の分残しとけ、とまでは言わない。
「シーラとアムレクがとっても楽しそうに暴れてる。あとドートンさんと衛兵さんたちも頑張ってる」
目を開けて、とっても端的に報告してみた。二人は「は」と呆れ顔になった後、カーライルのほうが気を取り直したようにこほんと咳払いをする。
「シーラ様は分かりますが」
「主にシーラが斬ってアムレクが引っ掻いたり蹴ったりしてて、ドートンさんや武器チェック。衛兵さんたちは人質救出メイン。ミンミカはまだみたいだな」
分かるのかよ。いや、分かるか。山の中の砦で大暴れしたとき、基本シーラが全部片付けてたからなあ。うちの戦闘担当はシーラ、ついでアムレクとミンミカだもんな。カーライル、そういうの苦手な方だから。
と、ファルンが軽く背伸びをして教会の方を確認した。嬉しそうに笑って、状況を教えてくれる。
「あ。こちらの僧侶たちが出てきました」
「そりゃ良かった」
さっき、衛兵さんたちが中で解放してた人たちか。そんなら、後はほぼ大丈夫だろう。
……ミンミカ、大丈夫かな。