104.仲間と協力も重要です
「あ、皆さん」
「ドートンさん?」
俺はシーラにだっこされたまま、皆と共に教会の正面側までやってきた。衛兵とか地人族が慌ただしく動く中、ドートンさんが俺たちを見つけて駆け寄ってくる。
作業服の上に金属の胸当てと鉢金、それに片手剣と円形の盾というこれから戦争ですか剣闘ですか、な装備だ。ある意味戦争だけど。
「どうしたんですか、皆さん」
「宿舎からコータちゃんが脱出してきたので、話を聞きました。マール純粋絶対派のようです」
「うわあ」
ドートンさんがうわあ、と頭抱えるくらいだからよほどの連中なんだろうな、奴ら。衛兵さんが一人、「本当ですか」とやってきたのでカーライルが説明に行ってくれた。情報重要。
「ドートンさんは、どうしてそのようなお姿で?」
「親方が、教会にわけわからんやつが入り込んだと聞いた途端、量産してる武器の質確かめてこいって持たされました」
「まあ」
今度は、こちらから尋ねたファルンが頭抱えたくなったよ。これ、ガイザス工房の量産品か。
実戦で質のチェック……というか、再確認だろうな。確かに、これ以上にない機会だよなあ。だけど、そんなことに駆り出されるドートンさん、大変だな。
「コータちゃまはだっしゅつできたんですが、いもうとのミンミカがつかまってるらしいです」
「あ、そりゃやばいっすね。他にもいるんでしょ、人質」
「おそらく、いると思われます。教会が襲われた以上、僧侶は確実に抑えられているはずですから」
「地人族の僧侶が二名、脱出を確認できていません」
アムレクは、ちょっと不安げに耳をふるふるさせている。対してドートンさんは平然としたもので、このあたりは本人の性格の違いなんだか種族の差なんだかよくわからない。カーライルと衛兵さんがいつの間にやら会話に混じってるので、説明はまとめてで楽なのかね。
「その、よろしければお力をお貸しいただけませんでしょうか」
その衛兵さんが、こりこりと頭をかきながらこちらにそう言ってきた。この人は地人族で、だから身長は今の俺くらいしかない。カーライルの腰あたり、ちっちゃい種族なんだなと改めて思う。
「我々地人族はこの成りですので、地上から向かうのは得意なのですがおそらく、連中もそれは理解しているはずです。ですので」
「あ。オレ、上から行けますよ。そういうこと、ですよね?」
「はい」
衛兵さんのセリフに答えたドートンさんの言い方で、俺にも分かった。
地人族の人たちが動くのは基本的に地上からで、マール純粋絶対派もそれは分かってるから出入り口は徹底的に見張ってる可能性が高い。別種族が、例えば俺が逃げてきたみたいに屋根の上から入っていくなら、そちらには意識が向かない、と。
「鳥人さんは……」
「行ってもいいのだが、翼が大きくて太陽を遮るとすぐバレる。ならば、囮の役を承ろう」
「よろしいのですか?」
「小柄な地人族が来る、と踏んだところに自分が出てくれば、少なくともうろたえさせることはできましょう」
シーラ、えらく自信があるというか『剣の翼』だしな。少なくとも、じゃなくて出てきた連中全部斬る気だろ、お前。それは囮とは言わない。
「じゃあ、ぼくがいきます。ミンミカをたすけなくちゃ」
「よろしくおねがいします! 助かります」
そんなわけで、ジャンプ力のあるアムレクが名乗り出てくれた。ミンミカのこれまでの戦い方とか見てると、兄でもあるし実は強いはずなんだよな。
「では、ファルン、カーライル。コータちゃんを頼む」
「分かりました。お気をつけて」
「お任せくださいませ」
ほい、とカーライルに渡されて、当然のように抱っこされたままの俺である。うう、男の胸板はいまいちなんだよなあ……もっとも、普通の僧侶なファルンに預けるよりはこっちのほうが自然なんだけど。
「ありがとうございます。この御礼は後ほど」
「オレも頑張るっすよ」
「行ってらっしゃい。気をつけてくださいね」
そんなわけで俺は、普通の獣人の女の子として普通に挨拶をして、皆を送り出した。頑張れよ。




