103.事情と情報重要です
姿勢を低くしたまま、屋根を伝っていく。地面上でもしんどいけど、傾斜があるから余計にきつい。
移動しているうちに、見える景色が外になった。踏み慣らされた土の道、それに沿っていくつか立つ地人族たちや他の種族のサイズに合わせた家。
衛兵始め地人族が教会に向かっていくのと、それと入れ違いに旅行者たちが逃げていくのが分かる。ああ、あいつらのことは外に伝わったんだな。
「ん」
ふと気配を感じて、少しだけ上半身を上げる。ああ、シーラ先頭にうちの配下たちが走ってきた。よし、合流しよう。
一番手っ取り早い方法で。
「シーラ!」
「はっ!?」
名を呼んで、速攻屋根から飛び降りる。一瞬何が起きたか分からなかったみたいだけど、即座にシーラは俺の下に走り込んでしっかり受け止めてくれた。うむ、今日は武装してないからおっぱいクッションがバッチリだ。約得。
「お、驚かさないでください!」
「コータちゃん!?」
「コータちゃま!」
「大丈夫でしたか!」
うん、シーラごめん。ファルン、アムレク、カーライル、お前ら全員無事なのは確認した。というか、あれマジで見えてたんだな。さすが俺、神様すげえ。
「俺は平気。ミンミカが連れてかれた、アムレク、ごめん」
「いえ! ぼくのほうこそ、コータちゃまほっといて」
ひとまず、シーラのおっぱいを堪能しながら事情を報告。アムレク、普段から垂れてる耳が余計にしおしおになってるぞ。
ここは、お前の判断が正しかったんだから褒めないとな。うん。
「シーラたち連れてきてくれたんだろ? よくやった、ありがとう」
「は、はい」
ううむ、凹んだまま戻らないな。他の三人に状況説明すれば、分かってもらえるか。
「俺はほとんど戦力にならないからな。ミンミカとアムレク二人じゃ、太刀打ちはできないと思う。そこそこ数がいた上に、ここで作った武器使ってやがる」
「本当ですか」
「ガイザス殿が危惧しておられたが、本当になりましたか……」
カーライルが目を見開き、シーラが歯噛みする。なるほど、ガイザスさんならこんな展開は推測できるよな。そして、実現してほしくないってのも。
ファルンは「アムレクさんの判断は正しかったようですね。さすがですわ」となだめてくれてるので任せよう。シーラやカーライルじゃ絶対無理な役どころだし。
俺にできるのはこいつらへの情報提供で、こいつらができるのはそこからの判断と実戦。イヤボーンはもうちょっと訓練したほうが良い気がするし、運動能力もそうだからな。
「ミンミカたちは多分、教会の中。ここの僧侶さんたちも捕まってるようだから、人質にも使われるだろうな」
「まあまあ。わたくしの同僚の方々に、なんてひどいことを」
「ミンミカも、いっしょか……」
そうなんだよね。いくら俺の下僕だからと言っても、あくまでもファルンはマール教の僧侶なわけで。だから僧侶さんたちは同僚だし、大事に思うのは当然だと思う。
別に俺だって、僧侶さんたち嫌いなわけではないし。全部女の子だから、うまく行けばゴチになれるしな。
「うん。だから、連中に対しては遠慮はいらない。人質たちが心配なだけで……あ、そうだ」
そうだ、マール教僧侶いるじゃん。なら、ファルンに話聞くのが手っ取り早い。少なくとも基本的なことくらい、知ってるだろうし。
あいつらが名乗っていた、派閥の名前。
「ファルン、マール純粋絶対派って知ってる? 連中が名乗ってたんだけど」
「まあっ」
というわけで尋ねてみた瞬間、ファルンの顔色が変わった。少し赤くなって、怒っている感じ。ああ、やっぱりあかん方の連中だったか。
「マール教の中でも、極端な異端派ですわ。獣人や鳥人などの亜人族はマーダ教の存在であり、マール教から見れば異形である。故に人ではなくどのような扱いをしても神は許してくださる、なんてふざけた信条をお持ちですの」
「全力で潰してよろしいですか、コータ様」
「人質巻き込むなよ? 俺だってガチで頭にきた」
「ぼくもです」
「放っておくことはできませんね、コータ様」
本気であかん、というよりは今の世の中でそれやばいだろ、という思考回路の持ち主連中だったらしい。俺、というかアルニムア・マーダが幅利かせてた頃は、今のマーダ教みたいに追いやられてたのかなとは思うけど。駄目なものは駄目だろ、シーラもミンミカも可愛いのに。いや、そこじゃないけどさ。
ともかく、全力でぶん殴って良い相手だというのだけは分かった。ラッキー。




