表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/432

000.寝るまでは普通

「……ふう」


 閉じた扉にもたれて、大きくため息をついた。

 今日はどうにか終電に間に合って、やっとこさ家に帰れる。まあ、服とっかえて寝て起きたらまた会社に行くんだけどな。


 調べて書類作る仕事について、それなのに研修だっつって何故か外回りに回されたりもしたけれど俺は元気……じゃねえな。

 サビ残なんてうまく会社が誤魔化しゃいくらでもできるし、今の上司には世話にもなったけどやった仕事の功績取られたりしてるし。


「あー、だる」


 とはいえ、働かなければ食えないし。

 早く帰ってベッドで寝たい、と思いながら俺は窓の外に目をやった。

 お、ソシャゲの看板。最近良く見るよなあ、ああいうの。


 昔、つーか学生時代はそれなりに時間取れたんだよなあ。何だかんだでちゃんと家に帰ったら飯も風呂もあるし、こんな時間までクソ忙しいことになんてならないし。いや、あんまり上見なかったからだけれど。


 ゲームかあ……もう何年触ってないだろうな。

 仲間たくさん引き連れて、モンスターやっつけて金稼いで、宿にのんびり泊まって拾ったアイテム売って金にして。

 あー、ゲームの世界が羨ましい。いや、ありゃゲームだからなんだけどさ。


『……』

「ん?」


 何か、呼ばれた気がして周囲に目をやった。

 終電だからシートにぽつぽつと人が座っているくらいだけど、その誰でもなさそうだ。俺と同じで疲れてる連中ばっかだし。

 なんだ、気のせいか。いかんな、仕事忙しすぎて幻聴かよ。いっそ、異世界から呼ぶ声だったりすると嬉しいけどさあ。


「現実はそう、うまくいかんよなあ」


 最寄り駅に止まった電車を降りて、とぼとぼとアパートに帰る。スマホの電源は入れない、どーせ明日からの仕事の段取りとかクレームとか、そんなんばっかりだし。そんなもん、出勤途中に見れば済む。いつ見ても怒られる時は怒られるしな。


 鍵開けて部屋に入り、ぽいとカバンを放り出す。しばらく帰ってなかったけどまあ、もともとあんまり物のある部屋じゃないし。最近は買いに行く時間も、俺自身にその余裕もなくなってきたからな。


 風呂入る気力もなくして、そのままベッドにばたんと倒れ込んだ。そうしたら、また。


『……』

「あー、マジやべえかも」


 幻聴してる時点で、俺もうだめかもなーとは思った。思ったけど眠気の方が強くて、そのまますとんと落っこちるように眠った。多分。




『お目覚めくださいませ、我らが神!』


 何か、呼ばれたような気がして目が覚めた。


 うん、目が覚めたんだと思う。一応、視界は開けたから。

 でもよ、ここどこだよ。


 景色が何か茶色っぽく歪んで見えるし、しかも室内じゃなくて洞窟……らしい気がする。

 世界遺産とかのTV番組で見かける、でっかい洞窟とか石造りの建物とか。俺が今いるのは、そういうところらしい。遠くが天然の岩壁っぽくて、近くに岩の柱とか見えるから。一応室内か?

 それはともかく、俺の部屋どこ行った。いや違う。


 ……って、そもそも何だよこれは! と叫びたかったんだが。


「……」


 あ、口動かねえ。何だこりゃ。

 口だけじゃねえな……動くのはまぶたと目玉くらいのようだ。ま、それで周りは見えてるからいいんだけど。


『そこまでよ!』

『邪神官、抵抗は無駄ですわ!』


 耳も聞こえてるな、と確認できたのは視線の先にいる誰かさんたちの声が聞こえたから。何かこもってる感じがするんだが、ともかく聞こえるから聞いてみる。


『無駄ではありません。我らが神は、既に蘇りを始めているのですよ。分かるでしょう?』


 いや、何だそれ。

 茶色の景色の中で、なーんかベッタベタな古式ゆかしいゲームの、しかもラスボスイベントっぽい会話が繰り広げられているらしい。昨夜、帰りにソシャゲの広告見たからかな。

 しかしこの茶色、テレビか映画か……いや、それで動けないってのはないわ。いっそ夢なら覚めやがれ。

 そうか、夢か。なら、観察してみるのも悪くはないな。

 まずは、俺の方に背を向けている人物が一人。こりゃ多分野郎だ。結構しっかりした体格で明るい色の短髪、長い丈の服着てる。我らが神とか何とか、どっかの古いゲームの悪役みたいなセリフ吐いてるのはこいつか。


『冗談じゃないわ。また、世界を混乱させるなんて』

『その通りですわ。ここで終わらせないと』


 その向こうから聞こえてくるっぽい女の声が二つ。よく見ると、確かに女が二人いる。背中向けてる兄ちゃんかっこ推定、が邪魔になってちょっと見えにくい……お、見えた。上がってきた、みたいなんでここ段差の上とからしいな。

 片方はいわゆる僧侶系ほんわか姉ちゃん、もう片方はガッチリした鎧を着てるから戦士系かね。僧侶系より頭半分高めで、キリッとした感じ。

 どっちも露出度はめちゃくちゃ低いけど、考えてみりゃそういうもんだよな。ファンタジーな僧侶で露出度高いのは美少女愛でる系、もっと言ったらエロ系だろうし、鎧ってのは敵の攻撃から身を守るためのものだし。


 いや、全力で待て、俺。

 夢の中とはいえ、これはゲームか? 俺、こんなゲームやったことねえぞ。

 少なくともVRには縁がないし、そもそもそんなモンやってる時間あったら睡眠時間に当てる。ブラック社畜の宿命ってやつだけど。子供の頃にやったゲームにならありそうだけど、それなら向こうにいるのは主人公パーティだろうからもっと人数いるだろ。戦士と僧侶だけじゃ足りねえわ。

 しかしそうなると……俺、いわゆるラスボスの位置にいないか?


『完全に目覚める前に、砕いてくださいまし! お願いしますわよ!』

『了解した!』


 はい?


『はあああああああああっ!』


 いや待て何で俺に向かって大上段から振りかぶって来るわけだちょっと待てーい! つか俺動けねえんだよ確実に殺られるだろ、確かにラスボスならこういう展開になるけど!

 夢ならいいけど、いや夢でも良くねえ!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ