第九十三話 「僕たちの演奏はラストの曲で盛り上げる?!」
二曲目の演奏がすぐに始まった。
曲調はガラリと変わり、少しテンポがゆるやかな曲だ。
エレキギターの歪む音を鳴らすが、聴くほど激しさはない。
ーー焦らず、一音ずつしっかり弾かないとな。
僕はピックをはじく動きを確認しながら、慎重に弾いている。
ボーカルの歌い出しはまだ始まらない。イントロがしばらく続き、楽器を弾く音だけがフロアに広がる。
僕の弾くギターからは、曲のメロディと同じ音を出していた。まるで自分の変わりに、ギターを歌わせているように。単音だからこそ、僕は感情を込めて弾く。
最後の高音にビブラートをかけ、ギターの音がだんだん小さく鳴り止む。
それに合わせるように、響子はマイクに近づき歌い始めた。響子の歌声がマイクを通して、スピーカーから聴こえる。
決してうまいわけではない。特徴的な歌い方でもなかった。しかし、他の人とは違うところが一つだけある。
曲の歌詞をストレートに伝えることができるほど、感情を込めて歌えるのだ。
まるでその歌詞が、自分が体験したことのように表現できるほど。
ーーほらな、やっぱり。
観客がいるほうに目を向けると、何人かが聴き入っていた。間違いなく、響子の歌になにかを感じとった証だ。
ーーならば、僕はどうだ? それができるか?
答えはノーだ、 僕にはできない。
僕の歌なんて、そこらへんにいる人と同じカラオケレベルだろう。声で感情を表現できないならば、 残るは一つ。
ーージャンジャカ! ジャララーン!
サビに差しかかり、僕はギターを弾きながらマイクの側に近づいた。
弾く手を離し、マイクに向かって声を大きく出す。
ーードン! ドッド、シャラーン!
岡山がたたくハイハットの音が、その合図だった。
響子のボーカルに自然と入るようなハモり。曲が盛り上がるようなコーラス。
すべてはボーカルのためにあるようなものだろう。けれど、違う。僕のパートが中心なのだ。
ハモる声や、コーラスがひときわ目立つような歌の構成。それに加え、僕は両手を動かす。
響子が歌声で曲を表現できるのに対して、僕は自分が体を使って表現する。
顔の表情や、手の動き。これらを使って、曲をイメージさせていく。
この曲もそうだが、ギャルゲーの曲は歌詞が深いものが多い。
かわいらしい歌詞や、照れくさくなるような言葉。それでも、聴く人になにかを訴えかけさせてくれる。
僕はそんな曲の良さを、知らない人にも聴いてほしい。そんな思いを込めて歌い、時には体で表していく。
ーーけど、一番はこうだよな。
歌うことも、ギターを弾くことも楽しい。
それをやっぱり、伝えたいと僕は歌いながら思った。
ふいに響子や金本たちに目線を向ける。みんな、それぞれどういう気持ちで弾いているかは読み取れない。
けれど、全員が曲を演奏している顔は同じだった。
まぶしいくらいの笑顔。演奏することを、純粋に楽しんでいるように見える。
「うおおー! どやあ! 僕のギャルゲーをリスペクトしている演奏は!」
一人だけ、やたらがむしゃらに弾いている金本。マイクがないからなのか、そのさけびは観客には聞こえていなかった。
ーーまっ、まあいいか。
少し危なっかしい演奏だけれど、金本のギターはきちんとみんなに合わせている。
演奏はトラブルもなく、順調に進んでいった。
最初は様子うかがいで見ていたお客さんも、徐々に演奏に乗ってきている。
けれど、リトルウイッチカルテットの時に見せたような熱はまだない。
ライブハウスだからこそ見られる、あの白熱した雰囲気。
まだ曲は二曲しかやっていない。僕らのパフォーマンスはまだ始まったばかりだ。
ーー僕らだって、ギャルゲーソングで盛り上げてやるさ。
二曲目も演奏し終わって、また次の曲に移る。
まだライブが始まったばかりなのに、すでに僕の額からは汗が出ていた。
ギターを弾きながら歌ってはいるが、ここまで体力を使うとは思ってはいなかった。
「はあはあ、次の曲は……」
息を切らしながら、次に演奏する曲をマイクで話す。休んでいる暇など、ライブをやる僕らにはない。
ーーやるからには、すべて全力で演奏するしかない!
僕はギターを構え、勢いよく鳴らした。
三曲目、四曲目と順番に演奏していく。けれど、お客さんの反応は変わらない。
途中でフロアから出ていく人もいれば、壁に背をつけたままうつむいている人もいた。
いつだったか、鏡香からこんなことを言われた。
「ライブハウスで見に来る人って、そのバンドをよく見ているのよ」
その時はなにを当たり前なことを言っているんだと、あまり深くは考えていなかった。
自分たちがどれだけうまく弾けたとしても、好きか嫌いかは見た人が決める。
最初から、簡単に全員が受け入れるわけがない。先ほどの人たちの行動が、まさにそうだろう。
ーーわかっているさ。けど……な。
残る曲は、あと一つ。
KORUKAのカバー曲が残っている。
今も、僕らの演奏を気に入ってくれている人たち。こんなもんかと、期待はずれに思っている人たち。
ーーこの曲で、ガラリと雰囲気を変えてやるよ。
ギャルゲーソングでも、他には負けてない。そんな思いが一番に強いのが、ラストに演奏する曲だ。
もうじき、最後の演奏が始まる。演奏中に、僕はある人を探した。
ギャルゲーソングをもっと知ってもらうという目的もある。けれど、その人に僕らの演奏を聴いてほしい目的もあった。
ギターを弾き、歌を歌いながら目線を観客に向ける。
ーーげっ! ひなたがいるよ、あいつも見に来たのか。
正面にすぐ、ひなたの姿があった。
ライブハウスでやることは伝えていたが、本当に来るとは思わなかった。
けれど、ひなたは楽しんでいるように僕たちの演奏を聴いている。
ーーって、そうじゃない。本当に来るのかな?
約束をしたわけじゃなく、ただ僕がそう言っただけで今日来るかはわからない。
それでも、僕は目線で探す。すると、出入り口から人が入ってくる。
ジャスティンさんと本田さん。そして、その人も一緒にいた。
ーー来てくれた! KORUKAさんだ。
ジャスティンさんたちとなにか話していると、彼女はこちらを振り向く。
僕は響子に合図を送る。
ーーわかってるよキョウちゃん、見せてやろうね!
響子はそう話すように、僕に視線を返した。
ーーああ! 俺たちがやるこの曲を、彼女に見せてやるんだ。
ギャルゲーソングに使われているからって、悲観に思わないで欲しい。
この曲に出会えたからこそ、みんなが一緒になってバンドができたんだ。
それを、僕らの演奏で証明してみせる。
いろいろラストの曲が始まる。
「次がラストの曲です。この曲には、思い入れがありまして……」
僕はマイクに向かって、そう話し始めた。
最後の曲で、この場にいる全員に衝撃を与えてやる。
そして、僕はギターの弦に向かって、思いっきりピックをはじいた。




