第八十七話 「さあ! ライブを始めようぜ!」
バンドの練習は、やればやるだけ上達していく。何度目かの演奏で、それを実感する。
まず、メンバーの誰も初歩的なミスをしなくなった。弾き間違えやコードのど忘れ。僕がよくやってしまう失敗も、日を増すごとになくなった。
金本たちも演奏でのミスがないし、先走るといったこともしない。
みんな本番が近いことを意識しているのか、今までにないくらいバンドをやってる感を感じる。
ーーギュイィン! ジャガジャーン!
曲を最後まで弾ききった後、部室は静まり返る。
「……」
誰一人として話すことなく、全員が無表情で見つめ合う。そんな中、金本が沈黙を破った。
「かつてここまで、完璧なギャルゲーソングを弾いたことがあっただろうか……」
そう話す金本の目に、キラリと光る涙が見える。あの金本が僕らの演奏を聴いて、そこまで感動したことがあっただろうか。
多分ないなーーそう思う僕だが、たしかに練習での演奏はよくできていた。
「そんな大げさな話か? まあ、出来はいいと思うけどさ」
「けど、金本の言う通りだよ。かなりうまく弾けてたよ、僕たちの演奏」
荒木の話に、和田はその口を開く。ここにいる全員が、そう思っているのだろう。
「これなら、ライブハウスでも自信を持ってできますね!」
「だねー! あたしらの歌も、いい感じだしー」
鏡香たちのバンドに負けない、KORUKAも納得してくれる。そう僕は思えてきた。
「よーし! では、本番を意識して全曲をやるぞ!」
その後も、僕らは練習を繰り返していった。
僕たちはいい緊張感の中で、充実したバンドの演奏ができている。
「しかし……曲順をどうするかな」
何度かの部活が終わった後、全員で喫茶店に来ていた。話は演奏する曲をどれからやるべきかで悩んでいることだった。
「そんなの、今までやった順でやればいいじゃないのか?」
「いやいや、そうはいかんぞ? 今回はライブハウスだからな」
「なんか……風穴を開けてやりたいですよねー」
金本を中心に、僕と荒木はお互いに意見を交わす。ただでさえ、一般人には知られていないギャルゲーとアニメの曲。
これをどうにか、印象あるのもにしたい。悩む僕らは、しばらく話し合っていた。
「あたしは別になんでもいいかなー、歌えば順番とか関係ないしー」
響子はドリンクを飲みながら、適当にそう口にする。
「僕もあまり気にしないかな、ただギターに集中したいし」
和田も同じようなことを僕らに話す。岡山は和田の言葉に無言でうなずいた。
ーーこいつらときたら、モチベーションに関わることなのに!
特にこだわりがない三人は、話し合いに参加せずにそれぞれフリーダム。結局、僕らで決めることになった。
「やっぱり、最初はウケが良さそうなアニソンからやるか?」
「けど、曲的に最初にやるって感じじゃないですよね?」
演奏する予定の曲は五曲。アニソンが二曲でギャルゲーソングが三曲。
この中で選ぶとなると、なかなか難しい。どの曲もいい曲ばかりで、決めるのが難しい。
「優先すべきは、やはりギャルゲーソングだろ! こんないい曲があるんだぜって知らしめたいし」
アニソンは知ってる人がいるかもしれない。しかし、ギャルゲーソングとなれば違ってくる。
やはりマイナーなジャンルの作品に使われている曲ほど、知る人は少ない。金本はそれを変えたい考えがあり、続けて話す。
「ギャルゲーソングは隠し玉にしたい! やるならば、ライブの終盤だな」
アニソンを最初にやって、その後にギャルゲーソングをやると告げ、そう僕らに曲目を書いた紙を差し出した。
「まあ、悪くはない順番だけどねえ……これで大丈夫か?」
「あっ、KORUKAのカバーは最後にやるんですね」
紙に書いてある最後のほうに、その曲のタイトルが書かれていた。それに気づいた僕に、金本は腕を組んで答える。
「うむ! この曲は、やはり最後にやるべきだろうってね。岩崎君の野望も叶えてやりたいしな」
「おお……金本先輩にしては、粋なことをしますね」
いつもならば、自分の好きな曲を優先してやる金本だったが今回は違っていた。
どういう意図があるのかはわからないが、素直にそれはありがたい話だ。
「それでいいんじゃないか? バランスが取れているしなあ」
荒木の一言に反対する人はいなく、金本の考えた案で決まった。
「そういえば金本、前に演奏中になにかやるみたいなこと言ってたけど、なにするんだ?」
話し合いが終わり、みんなでドリンクを飲んでいると、荒木は金本に尋ねる。
「ふっふっふ……それは秘密だが、バンドの演奏に色を添える。期待していろ!」
「金本先輩……それって本当に大丈夫なやつなんですか?」
嫌な予感を感じる僕は、疑いながらそう話した。
「当たり前だろう! そのために、編集作業をしているんじゃないか!」
ーー編集作業?
なにをやるつもりかわからないけれど、金本はバンドの演奏が良くなると一点張り。詳しいことは話してくれず、僕らはただ金本を信じることしかできなかった。
しばらく喫茶店で過ごして外へ出た時、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「ヘーイ! ボーイたち、ここにいたんデスネ!」
目の前には、ジャスティンさんが大きな紙袋を抱えていた。
「ジャスティンさん! どうしてここに……」
いきなり現れたジャスティンさんに、僕らはおどろく。
「ライブハウスでの演奏が成功するように、これを届けに来たんデス」
そう言ったジャスティンさんから、一人ずつ紙袋を手渡される。なにかずっしりとした重みを感じた僕は、おそるおそる中をのぞく。
「あれ……これって」
紙袋には、四角い箱のエフェクターがいくつも入っていた。
ギターの音色を、いろいろな音に変えることができるのがエフェクター僕は普段から使っているものよりも、その種類が多い。
「すごい……ほとんどが、BOZZのエフェクターだよこれ!」
金本たちも同じだったのだろうか、和田がエフェクターを見ながらおどろいている。
「ソウデスネ! 実際に、曲を作った時に使っていたのと同じデス。ミナサンに合わせてチョイスしました」
このエフェクターを使えば、原曲に近い音が作り出される。今使っているものよりも、確実に音が良くなるとジャスティンさんは話した。
「ワタシからのサプライズプレゼントなのデス! これで、最高のサウンドを響かせまショウー!」
たしかに、これだけのエフェクターがあればバンドの音も格段に上がる。
例えるならば、伝説の剣と防具を手に入れたようなものだ。
「マイガールにはマイクを、岡山ボーイにはドラムスティックをプレゼント!」
「いや……パパ。ありがたいんだけど、さすがに岡ちゃんのドラムスティックはどうなの」
響子の言う通り、メンバーの中で一番安上がり?みたいなものだと誰もが思う。
「けっ、けど。いいドラムスティックだよ? 手に持ってもしっくりするし」
「いやいや、岡山先輩。そこは文句を言いましょうよ、新しいドラムセットがいいとか」
さすがにかわいそうだと思った僕は、そう岡山先輩に声をかける。しかし、岡山先輩はこれでいいと返事を返した。
「岡山ボーイには、後でパンを好きなだけ買いますヨ……ハッハッハ」
ーーパンで許されるのかよ。
などと思っていたが、岡山は満面の笑みを浮かべていた。
「よーし! ジャスティンさんから、新たなパワーアップアイテムをゲットしたし、絶対にライブを成功させるぞ!」
「えいえいおー!」
金本の言葉に、僕らはかけ声を発した。
ーーそして、ライブハウスでのライブ当日。
僕たちは店の前に立ち、ライブハウスを見つめる。
「よし……行くぞ!」
ついに、運命のライブが始まろうとしていた。




