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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
激闘! ライブハウス編
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第八十話 「問、ライブハウスはどんなとこ? 回答、行けばわかる」

 ライブハウスでの出演が決まったはいいが、僕らは頭を悩ませていた。


 きっかけは、響子の一言から始まる。


「あたし、これやりたーい!」


 そう言って、曲を選んだ時に金本がそれを猛反発していたのだった。


「誰が、そんな曲やるかい! もっとマイナーな曲を選べい」


 響子がやりたい曲は、ギャルゲーからアニメになった有名な曲。アニメが好きな人ならば、誰でも知っているアーティストの歌だ。


「みんなが知ってる曲をやってどうする! 知らない曲をやるからこそ、この同好会だろうが!」


 まだ知名度が低い曲、それを演奏するのがいいと金本はさけぶ。二人の意見はまったく違い、僕らはなかなか決められずにいる。


「いいじゃなーい! こういう曲もやったほうが、ウケるしさ」


「いーや、マイナーなギャルゲーからいい曲を探すべきだ」


 二人とも一歩もゆずらず、僕はそんなやりとりをただ聞いていた。


「はあ、いつ練習するんだよ。ライブまで、日がないのによー」


 ライブ本番まで、一カ月を切っている。時間的にも、そろそろ決めないとまずい。


 とは言ったものの、曲が決まらなければ話にならない。足止めを食らっているような感じに、僕はイライラしている。


「今の段階で、決まっている曲ってなんだっけ?」


 和田がそう尋ねると、僕は一枚の紙を取り出した。紙には、演奏する曲が決まっているのが書かれている。


「えーと、どれどれ」


 紙を和田に渡すと、中に書かれている曲を確認する。


「やっぱり、BGMは外してあるね。ほとんどボーカルありの曲だ」


 僕らが演奏できる曲には、歌がないものもある。今回のライブハウスでは、歌がある曲をメインに考えている。


 金本が言うには、相手のバンドに勝つためにBGMは外すことらしい。


「僕はBGMもやりたかったんだけね、仕方ないか」


「まあ、気持ちはわかりますよ。いい曲がたくさんありますし」


 そう話していると、金本たちがまだ言い争っていた。


「ところでさ、ライブハウスってどこにあるの?」


 スマホのゲームをやっていた荒木は、親指を動かしながら僕に聞いてくる。


「たしか……中心街にある場所らしいですよ?」


 ライブハウスは学校から、かなり離れた町にある。僕らが住む町より人が多く集まる所で、バンドマンが多い。


 そんな話を以前、鏡香から言われたことを思い出した。


「という感じらしいですよ」


 僕がそう話すと、荒木の顔は厳しいものになった。


「それは、ちょっと嫌だな。完全にアウェーみたいじゃないか」


「うーん、 たしかにオシャレな人がいそうな感じですよね」


 たしかに、オタクの人が遊びに行くような場所ではなさそうではある。荒木が抵抗があるのも、わかる気がした。


「けど! ここでびびってたら、ギャルゲーソングを広めることができないっすよ」


 これもギャルゲーソングなどを知ってもらうため、そしてライブハウスで演奏するため。


 僕は気持ちをふるい立たせるため、そう強い口調で話した。


「よくぞ言った岩崎君!」


 話を聞いていた金本が、いきなりさけぶ。


「びっくりした! それより、話はまとまったんですか?」


「いや、このギャルはダメだ! なんにもわかってない」


「……なにがよー」


 話は平行線のままで、どんな曲をやるか決まらなかった。


「どうするんですか、これじゃあ間に合わないですよ」


 今のところ、三つくらいしかできる曲がない。ライブハウスでは、五曲ほど演奏する予定になっている。


 がっくりとうなだれた僕は、机に頭をつけた。


「問題はない! さっき話していた、ライブハウスのことだが……」


「ああ、ライブハウスがある町の話ですか?」


 すると金本は、いきなり提案をする。


「どんなところか、一度見てみたい! 」


 金本らしからぬ発言に、僕はおどろく。


「どうしたんですか! ゲームかアニメしか頭にないのに」


「失礼だな! 実際に見ていたほうが、当日にびびらないだろう?」


 てっきりライブハウスに興味が湧いたのかと思ったが、どうも違ったらしい。


「金本って、変に気が弱いところあるよな」


「うるさいぞ荒木! とにかく、次の休みに下見に行くぞー!」


 この日も曲が決まらず、ライブハウスへ下見に行く話になってしまった。


 僕らは予定を合わせ、ライブハウスがある町で落ち合うことになる。





 ーー土曜の午後。


 駅へ着いた僕は、時間を確認しつつ待っていた。


「来ないぞ……時間を間違ってないよな」


 約束していた時間になっても、金本たちの姿はない。なにかあったわけでなく、そろそろ来てもいいころだ。


「キョウちゃーん!」


 どこからか、僕を呼ぶ声が聞こえてきた。


 僕は辺りを見渡すと、響子がこちらに向かって走ってくる。


「ごめんごめん、メイクに時間がかかって」


「おーい! 岩崎君、こっちだよ」


 同じタイミングで、荒木が僕に向かって手をふっている。見たところ、まだ荒木しか来ていないようだった。 


「金本先輩たちは、まだ来てないみたいですね」


「言い出しっぺのあいつが遅いとか、なにしてるんだろうな」


「まだなのー? 待つのとか、だるーい」


 数十分か待っても、金本たちの姿はない。しびれを切らして、僕は電話をかける。


 ーープルルル!


「もしもし? 岩崎ですけど、今どこにいるんですか? みんな、 待ってますよ」


 電話がつながってすぐ、僕はそう口にする。


「……」


 しかし、なかなか返事が返ってくることがなくなぜか後ろの音がさわがしい。


「ああ、僕だ。今、ちょっと重要なミッション中で」


「へ? ミッションってなんです?」


 少し間があってから、アニメに出てくるセリフのような話し方で、金本は話してきた。


「すまないが、ライブハウスには行けそうにない! 三人で行ってくれ……」


 金本の声は、緊迫しているようだった。


「ライブハウスに行ったら、どんな感じかを……あっ、すみませーん! その新刊を五冊くださいー!」


 ーーピッ!


 僕は無言で、通話のボタンを切る。


「岩崎君、金本はどうしたって?」


 そう尋ねる荒木に、僕は静かに答える。


「……行きましょう」


 僕たちは、ライブハウスに向かって歩き始めた。その間、三人の顔は無表情のままである。

作者の一言。


次回からはライブハウス編ということで、ライブやバンドなんかがメインになってくるかと思います。

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