第七十八話 「ライブの後は、やっぱり打ち上げだよね!」
その日、つぶやくアプリで話題が起きた。
ーー拡散、ショッピングモールの駐車場で学生がライブ。
動画と共に投稿されたつぶやきは、少なからず人の目を引くことになった。僕たちが、気づかないうちに。
駐車場でのライブが終わり、僕らはヘロヘロになっていた。
「もっ、もうダメだー! 疲れて動けない」
全部で五曲ほど演奏し、無事にライブを終えることができた。
「なかなかよかったんじゃない? おもしろかったわ」
ライブが終わると、ひなたがそう感想を述べる。
「ふん、やはりうるさいだけじゃないか。やはり、クラシックの曲が……」
などと、会長も僕らに話していった。
「あの会長、絶対ギャルゲーをやってるよな?」
「ですよね……じゃなかったら、あんなにはしゃいでないですし」
すでにライブを見に来た人たちもいなくなり、残っているのは僕らだけ。人がいなくなった駐車場で、僕らは話し合っていた。
「とりあえず、アンプとか片付けようか」
「えー、あたしまだ動けなーい」
和田の言葉に、響子はそう返す。疲れきっているため、体が動かないようだった。
「ヘーイ! みなさん、お疲れサマー」
そこへ、ジャスティンさんが話しかけてくる。
「とてもナイスな演奏でしたヨ! 特に恭介ボーイ」
そう言って、ジャスティンさんは僕に指を指す。
「あんな感じでよかったんですか?」
正直言うと、僕はあれが正しかったかわからなかった。たしかにコーラスを中心にした歌の構成にしたが、間違えていなかったのだろうか。
あれこれ考える僕に、ジャスティンさんは僕の肩をつかんだ。
「なにを言っているんデスカ! あれが、まさに理想の形デスヨー」
高らかに笑うジャスティンさんの顔は、満足げであった。
「ハモリの声がかなり目立っていただけに、新しさはあったよ」
話を聞いていた和田は、そう僕にはなした。
「しかーし! ギャルゲーソングの良さを伝えられたかは、わからんぞ」
床に倒れていた金本が、すっと立ち上がって口にする。
「だが……ビシビシと岩崎くんの熱意は伝わったと思うぞ!」
「おまえはなにがいいたいんだよ、素直にほめておけ」
荒木はあきれながら、金本にちょっかいを出す。
「さーて! ライブも終わったし、これからどうしようか」
時計を見ると、帰るには微妙な時間だった。
ライブだけやれば終わりだと思っていた僕は、特に予定はない。
そこへ、響子が手を挙げた。
「はいはいー! みんなで、打ち上げがやりたいでーす」
「打ち上げって、なにするんだよ?」
よく意味がわからなかった僕は、響子に尋ねた。
「キョウちゃん……バンドマンを名乗るなら、 それくらいわかるでしょう?」
と言われたものの、よくわからない。そんな様子を見た響子は、はあっとため息をついた。
「鈍感すぎるというか、世間知らずなのか……」
「いやいや、僕らもわからんぞ?」
僕だけでなく、金本たちもわかっていないようだった。
「まあ金ちゃんたちは、見た目からして知らないよね」
あわれむような顔をしながら話す響子に、金本はむっとしている。
「なんだそりゃあ! いいから、早く言いたまえ」
「それはね……」
僕らは響子が話すのを、じっと待つ。そして、彼女はゆっくりと口を開いた。
「それは居酒屋で飲み食いして、みんなでワイワイするー!」
ぱあっと明るい口調で話す響子とは逆に、金本たちは死んだ顔をしている。
「え、やだよ……早く帰ってギャルゲーをやりたい」
そう金本は、真顔で答えた。
「だよなあ、なんで居酒屋でワイワイするんだ?」
同じように、荒木もあまり乗り気でない様子だった。
「なに言ってるのー! ライブの後は、そういうのが当たり前なの」
「そうは言われてもなー」
金本たちは、バンドマンというわけではない。そういった行事に、参加したことがあるはずなかった。
「岩崎君はどう?」
和田が、僕の顔を見ながら尋ねてくる。
「んー。まあ今日のライブについて、反省会みたいなことはしたいですね」
ライブはうまくできた。しかし、 金本たちから見た僕の演奏はどうだったのだろう。
いろいろな意見も聞いてみたいと思った僕は、そう答えた。
「それよキョウちゃん! それが、打ち上げの大切なところ」
響子は、びしっと指を指して話す。
「ええー、やりたいゲームがあるんだけどな」
打ち上げをやることに、まだ渋っている金本。そこへ、店長さんが現れた。
「やあ! 今回もそこそこ、人が集まったみたいだね……って、どうしたの?」
店長さんに今日のお礼を言いつつ、先ほどの話をする。
「なんだ! それなら、うちのフードコートを使えばいいよ」
話を聞いた店長さんは、僕らにそう提案した。
「未成年を居酒屋へ行かせるわけにはいかないし、そっちのほうがいい」
フードコートには、いろいろな食べ物がたくさんあると、店長さんは自慢げに話す。
ーーグゥー!
すると、誰かのお腹が鳴る音がした。
僕らはお腹の音が鳴ったほうに目線を向ける。
「ぼっ、僕じゃないぞ! 岡山だろう? 食い物に反応するのは」
金本は慌てながら、自分ではないと強く否定する。
「あー、はいはい」
「それじゃあ決まりね! フードコートで打ち上げー!」
行く行かないは、響子の話す言葉で決まっているようなもの。わかりやすい言い訳をする金本を無視して、僕らはフードコートに向かうことにした。
「こらこら! ちょっと待ちなさい!」
金本はさけびながら、後を追ってくる。エスカレーターに乗って、着いた先にフードコートの出入り口があった。
ぞろぞろと、楽器やら機材を持って入る僕らは、異様な集団に見えるだろう。
「なかなかいいじゃない! ねえ、あそこにしようよ」
響子はそう言うと、空いた席がある方へ走っていく。
「まったく、これだから三次元の女は……」
「って、おまえもすでに席に座っているじゃねーか」
気づかないうちに、金本は席に座っていた。僕はギターを置き、椅子に座る。
全員が着席すると、響子のかけ声が飛ぶ。
「さあ、六人でやった初めてのライブ! それの、打ち上げを始めるよー!」
「イェーイ! 素晴らしいヨー、マイガール」
ジャスティンさんや、山本先生も知らないうちに参加している。
ーークスクス。
でかい声のジャスティンさんに、他のお客さんが笑っている。
「すごい、恥ずかしい」
そんな状況の中で、僕はそう小声で言う。
「じゃあ、各自で食べたい物を買いに行こうか」
「そうね! あたしは、たこ焼きを買おうー」
そう言って和田が席を立つと、同じようにみんなが席から離れていく。
「え? 打ち上げって、こういうのなの?」
思っていたのと違い、僕はあたふたする。
それでも、初めての打ち上げが始まろうとしているのだった。
作者の一言。
ライブの後といえば、打ち上げ。
という感じのお話になっています!
うまいご飯を食べながら、ガヤガヤする内容になるかと。




