第七十五話 「良くも悪くも、ワンマンライブ」
部室からは、楽器の音が鳴り響いている。
突然のライブが決まり、考える暇もなく練習を繰り返す。
「ライブって……いつ、どこで?」
金本から言われた日、僕はあらためてそう尋ねる。
「前に、商業施設で演奏をしただろう?」
初めて同好会で挑んだイベントで、多くの人が見る中でやったライブ。
「たまたまそこへ行ったら、店長さんに会ってね」
偶然、金本が店長さんに話しかけ、僕らのバンドについて話したらしく、それを聞いた店長さんは、またライブをやればいいと話を持ちかけた。
「まあ今回は、ステージではないけどライブはできるぞ」
「いやいや、できるぞって……ライブをやる場所なんかあります?」
前回と同じステージではないなら、どこがあるのだろうか。僕はそう金本に話すと、彼はニヤリと笑う。
まるで、その質問が来るのを待っていたような感じだ。
「ふっふっふ、やはり聞いてきたようだね……岩崎君」
もったいぶった言い方に、僕はイラッとしつつ言葉を返す。
「いいから、早く教えてくださいよ」
「駐車場のエリアだよ」
「ああ! 先に、僕が決めゼリフのように言おうとしたのに!」
くやしがる金本の姿を無視して、僕は尋ねる。
「駐車場ですか? なんか、不自然ですねえ」
やはり、ライブといえばステージ。そう思っている僕からしたら、違和感を感じる場所だ。
「そんなことはないと思うけどなー」
僕の話を聞いた響子は、ぽつりとつぶやいた。彼女の言葉を聞いて、金本たちもうなずく。
「そうだよ! アニメやギャルゲーで、よく見るシーンじゃないか」
音楽をテーマにした作品にはそういった場面があるらしい。特訓や、うでだめしでステージじゃない場所で演奏すると。
「いやあ、あの作品はまさにロックだよ! 他にも、トラックの荷台で演奏したりね……」
などと金本は熱く語り出し、ひたすら話続けている。
ーーそんなものまであるのか、知らなかった。
正直、そこまで興味がない僕だったが、音楽がある作品ならば話は違う。
バンドを扱う作品ならば、興味があるからだ。
「ほうほう……」
僕は金本の話を、熱心に聞き入る。
「作品のキャラたちがやるならば、僕らもやらねばならない! これは、試練だ」
結局、アニメやゲームの影響で、駐車場でライブをやるはめになってしまった。
「まあ、ライブができるならいいか」
なんだかんだ言いつつ、ライブができるんだからいいか。
単純なのか、僕はそう考えることにした。
「よーし! 楽器を持てい、練習じゃあー!」
そんなことがあり、この日も曲を練習するのだった。
響子が加入してから、練習が前より変わってきている。
いつもなら、金本が僕らの弾く音を聴いて指示を出していた。しかし、ボーカルである彼女が、演奏の音を聴いて僕らに指示をする。
「金ちゃん、そこはもう少しボリュームを下げてくんない?」
「え? ここは、ばーんと強めに弾いたほうが……」
ギターを弾いていた金本は、響子にそう意見を言う。その声は弱く、どこか頼りない。
「なに言ってるのよー、そんなことをしたらボーカルの声が消えちゃう!」
こういったやりとりもあり、ほとんど彼女が仕切っている。
悪いようにも見えるが、響子のセンスなのか、バンドの音はよくなっているのはたしかだった。
僕らは複雑な気持ちになりながらも、練習は続く。
ーージャーン! ジャジャン。
全員で弾き終わり、曲を演奏しきる。
前にもまして、よりバンドっぽくなった音だ。
「……それにしても」
ギターから手を離した金本が、僕をじっと見ている。
「なっ、なんすか?」
そのするどい視線に、僕は声をかけた。
「相変わらず、ハモリはいいんだけどさ。さっきの、あれはなに?」
演奏中に、とあることをしていた僕に金本は気になっていたようだった。
「なんか……うーむ、なんとも言えないような」
「あれでいいんだよ、キョウちゃんはね」
響子の言葉に、金本は頭をぽりぽりとかく。僕自身も、こんな感じで歌っていいのか自信はない。
「はあ、疲れるな……」
手を腰に当てた僕は、ガックリとうなだれる。バンドは体力を使うとは聞いていたが、それを大きく上回っていた。
「さあ、練習を再開するぞ!」
休む暇などなく、すぐに練習にもどる。
ライブ当日まで、一週間という短い期間。その中で、自分たちが納得のいく演奏に仕上げていった。
ーーライブ当日。
「うむ……ついにライブだな」
商業施設の入り口前、僕らは集まっている。
「よくもまあ、一週間でやろうと考えたねえ」
「だが、僕らの演奏は完璧だ!」
あきれる響子の横で、金本は自信に満ちている様子だ。
「とりあえず、店長さんにあいさつに行こうか」
和田はそう言うと、中に入っていく。
ーーまたここで、弾くことになるとは。
ギターを背負い、必要な機材を持つ僕は、意を決して歩き出した。
「やあ、久しぶりだねえ」
店長さんがいる事務所へ入り、僕らはあいさつをする。
「またまたお邪魔しますよ! 今日は、よろしくお願いします」
金本は頭を下げて、店長さんに話す。
「おっ、前と違って女の子もいるんだね」
響子がいるのに気がつくと、彼女を見ていた。
「なにこの人、きもーい」
「こらこら……」
そんなやりとりを笑いながら見ると、店長さんが椅子から立ち上がる。
「とりあえず、演奏するところを案内するね」
そう言って出て行く店長さん、僕らはついて行く。
外へ出て、車が何台も止まっているエリアに入ると、その場所が見えてくる。
「ここのスペースなら、問題ないかな」
「ここっすか……」
車が置かれているだけで、人が誰も通っていない。
目立たないであろうそこが、僕らが演奏する場所だった。それでもこれから、ライブが始まる。
この、静かな駐車場で。
作者の一言。
次回、ついに久々なライブ!
普段とは違う、駐車場でのライブに挑むザ・アゴッド(主人公たちのバンド名)
駐車場でライブをするバンドって、なかなかいないですよね。見たことないもの......




