第七十四話 「危機は去った!おい……また来るのかよ」
よくわからないオーラが、席に漂っている。
息苦しいような、逃げ出したいような気持ちになってしまう。
「……あの?」
沈黙を破るように、僕は二人に声をかけた。
「あらためて聞くけど、がんちゃんとはどういう関係?」
僕のことなど忘れているかのように、ひなたは響子に話しかける。
「さあー? どんな関係かしらねえ」
ーーおいおい、どんな関係でもないだろ。
単純に部活の仲間で、バンドのメンバーの一人に過ぎないだろう。
そう考えている僕をよそに、響子はにやりと笑っている。
「むかっ! なによ、その言い方は!」
勢いよくテープがたたかれると、目の前にあるグラスが大きく揺れた。
「がんちゃんはね、クラスでもぼっちなのよ! 女の子の友達がいるはずがない!」
さらりと、失礼なことを言うひなた。たしかにその通りではあるが、なにも大きな声で言わなくていいだろう。
喫茶店にいる他の客が、僕らを見ている。
ーー浮気か? 三角関係のトラブルか?
そんな風な目で、僕を見ているようだった。
「ぷっ、聞いたキョウちゃん?」
「……あ? なにがだ?」
響子が話しかけると、僕はそう答えた。
「がんちゃんだってー! 高校生にもなって、いわとがんを間違える人いるんだー」
ーーガッデム! 火に油を注ぐなよ!
それはあだ名なんだよ。僕は、心の中でツッコミを入れる。
「なっ……なな」
思わぬ指摘に、ひなたはわなわなと震えていた。すでに、怒りのボルテージは最高潮だ。
「ストップー!」
このままでは絶対に危ない気がすると思った僕は、止めに入った。
「いや……実はな」
響子と喫茶店にいる理由を、ひなたに説明する。説明を受けたひなたは、はっとした顔をしていた。
「なんだ! そうなら、最初からそう言ってよね!」
「……言える状況じゃなかったんだよ」
僕がため息をつくと、ひなたは歌詞が書かれた紙を持つ。
「これを二人で、歌うわけね」
紙を見ながら、なにか考えている様子。それを僕らは、横目で見ていた。
「うーん……たしかにこれだとインパクトがないわね」
「そう? これでも二人で考えたけどねー」
話を聞いた響子は、そう声をかける。
「これじゃあ、普通に歌ってハモるだけじゃない?」
知らない間に、ひなたをまじえて話し合う。
ドリンクのおかわりが数回あった頃に、ひなたは一つの案を出してきた。
「そんなに悩みくらいなら、好きなところでハモっちゃえばいいんじゃない?」
なんとも適当な言葉だが、ひなたは話を続けている。
「がんちゃんのハモりを、もっと目立つ形にすればいいのよ」
「はあ? どういうことだよ、それ」
よく意味がわからない僕は呆れる。
ーー目立つ形にするって、どうやって?
そう考える僕とは違い、響子は納得したようにうなずいていた。
「そうね……パパの考えを表すなら、それがいいかも」
一人、置いてきぼりにされた僕。ペンを持つ響子は、紙になにかを書いていく。
「多分、こことここはハモってくるはず……」
「そうそう! そこにがんちゃんが、こんな感じで」
さっきまでのゴタゴタがなく、仲良く話し合っている。仲が良い友達のように、二人がいる。
そんなひなたたちを見ながら、僕はこう思う。
ーー僕はなぜ、ここにいるんだ?
グラスに入ったジュースを飲みながら、僕はただ座っているだけだった。
「決まりかな? これなら、いけるかも」
話がまとまったのか、響子は紙を見ながらそう口にする。
「……どれどれ?」
手に持っていた紙に、僕はのぞき込む。そこには、びっしりと字が書き込まれていた。細かく書かれている内容に、僕はおどろく。
「……すげー! けどさ」
完璧なまでの、ボーカルが歌うパターンやタイミング。
こうやって歌っていく。みたいな感じのことで埋め尽くされていた。
しかし、そこで僕はなにかに気づく。
「僕の歌うところが、少ないんですが……」
見たところ、ほとんどが響子が歌うメロディライン。それに比べて、僕のパートが少ないのだ。
「がんちゃんに関しては……」
僕の疑問を聞いたひなたが、答える。
「フリーダム! 自由にハモるのよ!」
「……え?」
好き勝手に、ハモればいい。ひなたが言うが、僕はピンとこない。
「つまりは、こういうことよ」
こうして、二人から詳しい話を聞かされる。それは、僕がおどろくことだった。
ーー次の日。
「やあ岩崎君! 歌の構成は、決まったのかい?」
昼休みの時間、廊下で金本に声をかけられた。
「……はい、一応」
「なんだいなんだい! 顔がお通夜モードに入っているぞ」
よほど僕の顔がひどいのか、金本は顔を見ながらそう話す。
「ははっ、そうですよね」
無理もない、昨日の話を聞いてから寝ていないのだから。
「まっ、まあいいか。実はちょっといい話があってだね……」
金本がなにか言っているが、僕はまともに話を聞いていない。
「というわけだから、放課後に部室でね!」
「はあ……はーい」
結局、なんの話をしていたかわからずに適当に答えた。
金本と話終わり、僕はふらふらと教室に入った。その後は、授業中にずっと居眠りをしていた僕であった。
放課後になっても、僕が目を覚ますことはない。
ーーバンッ!
後頭部に、なにか強い衝撃を受ける。
「あいた! なんだなんだ?」
「いつまで寝てるの? 部活が始まるよー」
振り返った先には、響子がいた。
部活の時間はすでに始まっている、僕は起き上がった。
「おっと! そうだった、急がないと」
響子に起こされなければ、完全に遅刻だった。
「……って、なんで響子が起こしに来たんだ?」
「ほら! 行くよー、置いていっちゃうからねー」
気がついたら、すでに廊下に出ている響子。僕は考える暇もなく、後をついていった。
「それでは! みんなに話した通り、準備に取りかかるぞい」
部室に入ってすぐ、全員が集まると金本がそうしゃべり始めた。
「今回は、どうなることやら」
話を聞いた和田たちは、それぞれ楽器を取り出す。
「え? あれ、なにが始まるんです?」
僕だけ状況がわからず、そう尋ねた。
「昼休みに話しただろう? さあ、練習だ練習!」
「……え? なんの?」
眠たすぎて、昼休みになにを話していたか聞いていなかった僕は、話が見えてこない。
すると、響子が僕にそれを伝える。
「聞いてなかった? 来週、ライブをやるって」
「……え?」
突然のライブに、僕はびっくりする。
六人でやる初ライブが、開かれようとしていたのだから。
作者の一言。
あまりよくわからない感じになってしまいましたが、ライブをやるぜ!って思ってくれたら幸いです。
主人公がどう歌うかは、次回をお楽しみ!




