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第七話 「音楽研究同好会! バンド結成」

 教室へ戻った僕は、反省文を書いている。そんな中、次はなにをやるかを考えていた。


「演奏することは間違っていない……場所がまずかったのか?」


 ーー演奏しないで署名を集めるとかで、地道にやるべきか?


 そう考えてみたが、すぐに首を横に振る。


「いやいや! やっぱり、ライブだろう? 軽音学部に対抗するには」


 体育館はもう使うことはできない。まったくアイデアが浮かばずにいると、クラスメイトがなにやら盛り上がっている。


「見ろよ、先週に地元アイドルが駅前で路上ライブをしたらしいぞ?」


 クラスメイトの一人がスマートフォンを見ていると、数人が集まっていた。


「ふーん、アイドルも路上ライブやるんだなあ」


 会話を聞いていた僕は、紙パックの牛乳を飲む。


 ーー路上ライ…… ブフォォー!!


 飲んだ牛乳が口から吹き出した。


「それだ。路上ライブだよ!」


 牛乳まみれになって席を立つ僕は、なにをやるべきかがひらめいた。


 すぐに反省文を書き終え、急いで生徒会室へ向かう。


 僕が勢いよく生徒会室へ入ると、生徒会役員たちはおどろいている。


「またあなたですか……今度は、なにをしに来たんですか?」


 生徒会庶務の女子生徒は僕が入ると、そう話す。


「いやいや、今日はお願いがあって来たんですよ!」


 僕は、自分が生徒会に来た目的を話し出した。


「学校で……演奏をやりたい?」


 校内のいろんな場所で演奏すれば注目を集まる。


 路上ライブのように、人の関心を得れると思った僕はそう説明した。


 いろいろな生徒に見てもらって、同好会の演奏がすごいと思わせる目的のためだ。


「ほう、校内でライブか」


 生徒会長が現れると、そう口にする。


「つまり、それは同好会としての正式な申請かな?」


「はい! そうです、アニメやゲームの曲だってきっと人気になるはずだから」


 最近、ずっとアニソンやゲームソングを聞いていた僕は、それも悪くはないと思い始めていた。


「だが、同好会では君一人だけが演奏しているみたいだが?」


 僕が体育館で演奏したことを知ってか、生徒会長は尋ねてくる


「いっ……今は一人だけど、先輩たちも一緒にやってくれるはずです」


 金本たちに期待はしていないが、僕はそう答える。


「ふむふむ、まあいいだろう。では、申請書を書いてくれるかな」


 生徒会長は、申請用紙を持ってくるよう庶務の女子生徒に指示を出した。


 一枚の紙を渡された僕は、そこに書かれている文字に目を通す。


「演奏する場所や、具体的な使用理由を書けばこちらで処理をしよう」


 生徒会長から言われ、僕はすぐに頭を下げる。


「ありがとうございます! いやあ、頼んでみるもんですね」


 お礼を言うと、僕はすぐに申請用紙を記入する。


 書き終わって、生徒会長に渡すと用紙を確認している。


「うむ、不備はないな。今日からは難しいが、後ほど正式に日にちを伝達しよう」


 ーーここまで、簡単に話が進んでいくとはな。


 僕はなにか怪しさを感じつつも、せっかくのチャンスだと思った。


「本当にありがとうございます!」


 もう一度、頭を下げ、僕は生徒会室を後にする。


「会長、簡単に認めていいんですか? 昨日だって無許可で体育館を使ってましたし」


 生徒会長は席に座り、不敵な笑みを浮かべる。


「ああ、問題ないさ。彼が頑張ったところで、あの同好会は教室を手放さなければならないからね」


「それに、彼の演奏を見る人は誰もいないだろうし。これで諦めもつくだろうさ」


 ーー放課後。


 僕は昼休みのことを金本達に伝えてるため、同好会へと向かう。


 教室へ入るが、金本達の姿はなく、教室は静まり返っていた。


「あれ? 今日は休みじゃなかったはずだけど……まだ来ていないのかな?」


 しばらく待つが誰も来ない。結局、部活が終わる時間になるまで僕は一人いるだけだった。


「うーん、先輩達はどうしたんだろう?」


 今は校内での演奏をどうするか、考えながら僕は下校することにした。


 二、三日と日は過ぎ、いつもより早い時間に学校に着く。


 生徒会から正式な許可が出て、僕は玄関の近くで演奏準備を始めていた。


 金本たちには相談できず、また一人で演奏しなければならない。


「体育館ステージで失敗したばかりだけど、次は大丈夫なはずだ!」


 また笑われてしまう心配はあるが、今は部室を維持するために頑張るしかない。


「よし! とにかく……やるだけやろう!」


 誰も登校していない玄関の隣で、さっそく演奏を始める。


 体育館で演奏した曲と同じだが、以前よりも練習をしてきた。


 イントロが流れ、一音ずつコードを押さえて丁寧に弾く。


 CDの音量に負けないくらい大きい音量を意識して、ギターをかき鳴らす。


 ーージャカジャカ、ジャカ〜ン!


「前よりは、だいぶ弾けているな」


 一度、弾いたことがあるからか、ミスをする回数が減っている気がした。


 しばらく弾いていると、登校してくる生徒が玄関へと向かってくる。


 ところが、生徒達は僕を華麗にスルーをする。


 ーーあれ、無視ですか? 僕が弾いているんですよー?


 心の声でそう言うも、生徒は足を止めることなく校舎へ入っていく。


 ーーぷっ! くすくす。


 数人は気づいて、僕を見て笑ったりしている。


「くそ、ダメだこりゃあ!」


 演奏が終わってみれば、誰も足を止めて見る人がいなかった。


 その後も、くじけることなく昼休みに中庭で、放課後にまた玄関の隣で演奏をした。


 だが結果は変わらず、今日の演奏が終わった。


「なぜだ...... どうして誰も見ないんだろう」


 それから一週間、ほぼ毎日のように演奏を繰り返してみたが、反応はどれも同じ。

 無視され、笑い者にされで、クラスでは変人扱いをする生徒もいるくらいだった。


 この日も演奏が終わり、放課後の教室で落胆する。


「この学校の生徒は、本当に音楽を聴いたことがあるのか?」


 全校生徒の中には、この手の音楽を好きな人は少なくともいたはず。せめて、そいつらは聴いてくれるだろうと、僕は思っていた。


 ーー金本たちのようなオタク連中だけでも、味方になってくれるんじゃね?


 などと考えていた僕の予想は、見事に外れた。


「演奏はそこまで酷くはなかったはず……」


 なにが悪かったか考えても、思いつかない。


「帰ろう……」


 すっかり気力がなくなった僕は、ため息をつきながら教室の扉を開ける。肩を落としながら玄関に向かうと、身に覚えがある姿が見える。


「やあ、岩崎くん」


 そこにいたのは、金本たちだった。金元は、僕に声をかけてくる。


「なんですか? 先輩達も、バカにしに来たんですか?」


 あれほどでかい口をたたいたのに、無様だなと笑いにきたのか。僕は、そっけなく話す。


「いや、そう言うわけじゃないんだ。その……えっと」


 金本が言いにくそうにしているのを見ていた荒木が代わりに答える。


「岩崎くんの今までやった演奏は全部見てたよ。すごい、頑張ったね」


 突然の言葉に、僕はおどろいた。


 ーー誰も見てないと思っていたのに、先輩たちは見ていたのか?


「え? 先輩たちは、本当に見てたんですか?


「まあ、演奏は褒めたもんじゃないけどね? なんと言うか……行動力がすごいなってさ」


 荒木は、恥ずかしそうに笑いながら話す。


「ごほ、ごほん!」


 金本が咳払いをする。


「荒木の言う通り、岩崎君の行動はすごい! それを見た僕らは感動したのだよ」


 金本は腕を組みながら、話に割って入ってくる。


「けど、まさかここまでとは……」


「選曲は悪くないけどな? あれだろ、 前に流行ってた異世界もののアニメだっけ」


 金本と荒木は、僕が選んだアニメの曲について話し合っている


 ーーやっぱり、アニメやゲームの曲ってダメなのかな?


 金本たちが話している間、僕はそんなことを考えていた。


「やっぱり……無理なんですかね? この手の音楽を認めさせるのは」


 僕がそう口にすると、それを聞いていた金本はニヤリとする。


「ふふ……だからこそ、やるべきことがハッキリしたのだよ岩崎君!」


 変なポーズをした金本は、僕に指を指してさけぶ。


「バンドをやろうではないか! 完璧な演奏をして、やつらに認めさせてやろう」


 バンドをやることは否定していたのに金本がそう言ったことに僕は半信半疑だ。


「いいんですか? バンドですよ? あれだけ、嫌がってたのに」


「いっ、岩崎君の演奏を見て自分もやりたいと思ったんじゃないかな?」


 岡山がパンを食べながら、僕の疑問に答えた。


「ぼっ、僕らって見た目がオタクだろう? だからバンドなんてやっても恥ずかしいだけだしさ」


 ーーつまりバンドには、多少の興味があったということだろうか?


 金本たちが僕と同じように、バンドをやりたい気持ちがあったことにうれしい気持ちになった。


「だまれい岡山! こうなったら、どんな手を使ってでも認めさせてやるぞ!」


 金本が声を上げると、全員がうなずく。


「金本先輩ー! 初めてあんたをカッコいいと思いましたよ、ギター以外で」


 バンドを組むことを宣言した金本に感動して僕は抱きつく。


「わっ! やめるんだ岩崎君、僕はそっちにはまだ早い!」


「ははは!」


 その様子を見て笑う和田が、ふと廊下の掲示板を見る。


「青春しているところ悪いんだけど……教室が使えなくなっているよ」


 和田の言葉に僕らは、ピクっと動きが止まった。

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