第七十三話 「部活の女友達と喫茶店に行ったら修羅場になった件」
新しいボーカルを迎え、バンドの練習が本格化する。
何日もたつと、馬場さんを響子と呼ぶまでになっていた。
「なんで、あたしがなわとびをしなきゃなのよ」
部活が始まってすぐ、全員で大なわとびをするのが日課になっていた。
「そっ、それが。同好会の、新たなメニューだ」
ぴょんぴょんと跳びながら、金本がそう話す。一体感を生み出すため、響子も例外でない。
そう考えたからこそ、彼女も跳ばなければならない。それが、金本の考えなのだろう。
「あのパパ、ろくでもないわね!」
しかし、大なわとびの効果はバンドの練習で発揮されたりする。
全員で合わせて弾く時に、前よりもタイミングのずれがない。きちんと、互いの音を聴いて弾いているのだ。
「なんとなく、グループ感を出せているよね」
ギターを弾いていた和田が、そうつぶやく。
「ああ! よく弾き、よく跳んだってこだな!」
この場にいる全員が、それを実感している。
「バンドは、練習あるのみ! ひたすら弾いて歌うしかない」
アニメ、ギャルゲーの曲を、バンドを通して知ってもらう。作品自体を知る、きっかけになってほしい。それが、僕らのバンドをやる理由だ。
「よーし! 最初から、合わせてやってみよう」
曲を完璧にするため、この日も練習が続く。そんなある日、響子がぽつりとつぶやく。
「思うんだけどさー、コーラスの構成を考え直さない?」
「岩崎君の入り方が、悪いのか?」
全員で楽譜を見ながら、荒木がそう尋ねた。
ボーカルの声に合わせてハモるのが、僕のパート。どこか間違えているのかと、僕は気になった。
「んー、悪くはないんだけど。たまに、あたしが音程をはずしちゃうのよ」
ハモる音程が目立ってしまい、メロディが飛んでしまう。
歌いにくさが少しあると、歌詞のところに指を指して話した。
「こことそこ、後はサビの終わりが怪しくなっちゃうのよねー」
「ああ、それはわかる。僕も、そこが聴き取りにくいかな」
僕自身も、似たようなところがあったりする。たまに、ボーカルの声と同じ音程で歌ってしまう。
「でしょー? 歌のほとんどにハモらせるしさ、だから変えたほうがいいかなって」
響子の考えに一理ある、しかしどう変えればいいのだろう。
「うむ、そこは二人で話し合って決めればいいさ」
歌に関しては、ボーカルに任せる。金本は、そう答えた。
「無責任ですねー、仮にもバンドのリーダーでしょう?」
結局、僕と響子で歌パートを話し合うことになった。
部活が終わり、近くの喫茶店に足を運ぶ。
「んで、どうしていくよ」
ボーカルとコーラスのバランスを、どうしていくかを話し合う。
「曲のイメージを考えたら、やっぱり原曲の通りに歌うのがベストでしょう?」
「でもさー、なんかアレンジも加えたいよな」
いざ考えると、あれもこれもやりたくなっていく。お互いに案を出すが、なかなか決まらずにいた。
「パパは、コーラスをメインにしたほうがいいって言ってたのよね?」
注文したドリンクを飲むと、響子は手を頭の後ろに置く。
「ああ、他のバンドにないことをしたほうがいいらしい」
おもしろい構成ではあるが、ボーカルがいるとそうはいかない。
原曲を考えるなら、ボーカルの歌がメインになる。
「聴く人からしたら、ボーカルが歌うのを聴きたいよなあ」
「そうよねえ……でも、パパのアイデアも悪くないしー」
今までに見たことがないバンド。
アニソンやギャルゲーの歌で、それを表現していく。それがジャスティンさんの、思惑なのだろう。
「とりあえず、あたしらが歌いやすいように考えますか」
歌詞の書かれた紙に、蛍光ペンで印をつけていく。
「サビのところは、二人でハモる感じだな」
僕も持っている紙に、メモを取る。しばらくして、なんとか形にできた。
「できたはいいけど、微妙ね……」
「なんか、おもしろさがないな」
完成した構成を見つつ、僕らはそう口する。原曲を意識すると、CDで聴いた通りのボーカルとコーラス。
僕のコーラスが、そこまで目立っていないのだった。
「なんだよ! リードコーラスボーカルって」
そもそも、具体的にどう構成していいかわからない。コーラスを中心にしても、結局はボーカルがメインになってしまった。
「ジャスティンさんの意図が、わからねえ……」
歌詞を見ながら、僕は頭を抱えた。
ーーカランカラン。
お店の扉を開ける音がすると、聞き覚えのある声がする。
「ふう! やっと部活が終わったわ、お茶でも飲んで……って、あれ?」
店に入ってきた人物が僕を見つけて、こちらに向かってきた。
「あー! がんちゃん、なにしてんの? こんなところで」
「……あ?」
顔を上げると、そこにひなたがいた。
「んだよ、ひなたか」
僕は、面倒くさそうな声でそう話した。響子はポカンとした顔で、僕に尋ねてくる。
「ねえ、 誰? キョウちゃん」
「あ? ああ、同じクラスのやつで……」
そう言いかけると、ひなたが割って入ってくる。
「どうもー! がんちゃんと同じクラスの、山岸ひなたですー」
なぜか、対抗心があるような言い方で話すひなた。
ーーなんだ?
その様子に、僕はたじろぐ。
「そういうあなたは、どちら様?」
「あー、あたし? キョウちゃんと同じ同好会の、馬場響子」
響子が言い返すと、ひなたがピクっとする。
「キョウ……ちゃん?」
「あのー、ひなたさん?」
ただならぬ雰囲気に、僕はおそるおそる声をかけた。
「がん! ちゃんとは、どういう関係なのかな?」
僕に構うことなく、ひなたは響子に話しかける。その顔はにこやかであるが、どこか怖い。
そんなひなたの顔を見ながら、響子はにやりと笑った。
「えー、聞きたいの?」
火花を散らすような二人に、僕はどうしていいかわからない。
「相席……してもいいかな?」
「どうぞ?」
そしてひなたは、席に座った。
作者の一言。
ヒロインはいたほうがいいと思っていましたが、いまだに誰がヒロイン?状態です。
これはまずい。




