第六十九話 「ギャルゲー八割、バンド練習二割」
部室から、やたらとゲームの音が聞こえる。ボーカルをどうするのか、みんなで考えるはずだった。
「なのに、なんでギャルゲーをやってるんですか!」
僕は、パソコンの前にたむろっている金本たちにさけんだ。
「いやあ、息抜きも必要かなって思ったからさ」
先日に買った新しいギャルゲー、それを金本はプレイしていた。
「そんなのは、自宅でやってくださいよ!」
わざわざ部室でやる必要があるのか。僕は、不思議に思いながらそう話す。
「データの容量が大きくて、自宅のパソコンだとなかなかねぇ」
「そんなのは、外付けハードディスクを買えばいいじゃないですか」
僕がそう言い返しても、金本はゲームに夢中だった。
「おっ、ここで分岐か! さて、どちらを選ぼうかな?」
話を聞かずゲームに興じる金本に、僕はため息をつく。
「はあ、今日はバンドの練習も大なわとびもしないのかな」
机にへたり込んでいる僕に、和田は話しかけた。
「たまにはいいんじゃないかな? しばらく、練習ばかりだし」
「けど、ライブまで時間がないですよー」
なんど、この言葉を言ってきただろう。こうしている間にも、鏡香たちのバンドはすごくなっていく。
そんなことを考えている僕は、一人焦り始めていた。
「まあまあ、岩崎君も一緒にゲームをやろうよ」
僕の気持ちを知らず、金本は誘ってくる。
「結構です! こうなったら、僕だけでも練習しますから」
誘いを断った僕は、ギターを取り出す。机に譜面を置き、ギターのコードを鳴らした。
「まったく、人の気も知らないで!」
不満を吐き出すように、ひたすら弾く。
「なっ、なら。僕が、練習に付き合おうか?」
そう言ったのは、岡山だった。普段、そんなことを言わない岡山に僕はおどろく。
「どうしたんですか? なんか、悪いものでも食いました?」
少し失礼な言い方かもしれないが、そのくらい珍しいことだった。
「い、いやあ……僕は、このゲームがあまり好みじゃなくてさ」
そう言いながら、 ドラムスティックを手に持つ。
「とりあえず、リズムをキープできるように叩くからさ」
「……は、はあ」
岡山は、机にドラムスティックを優しくたたく。
ーーカッカッ! カツン。
机から軽い音が鳴るが、安定したリズムだ。僕はその音を聴きながら、ゆっくりギターをはじく。
ーー案外、練習になるな。
良いリズムでたたかれる音に合わせ、ギターを弾く。それが不思議と、いい練習になっていることに気づいた。
しばらく弾いていると、岡山は口を開いた。
「あっ、新しいボーカルだけど。僕は、いいと思うよ」
「そうですか? けど、都合良くやる人なんかいますかねぇ」
新しく探すと言っても、心当たりもない。
学校で募集してみるのもいいが、見つかるかはわからない。岡山が賛成してくれるのはうれしいけど、難しい問題だと思った。
そんな会話をしながら、僕と岡山は練習を繰り返す。
「とりあえず、募集だけはしてみるか?」
ゲームを見るのをやめた荒木が、ベースを持って参加してくる。
「どうせなら、女の子とかいいよね! ギャルゲーソングをやるなら」
ベースを弾き始めた荒木は、そう話してくる。
演奏する曲のほとんどが、女性のボーカルだ。荒木の言う通り、女の子がボーカルならありがたい話だった。
「たしかに……でも、無理そうですよね」
僕らのようなオタクがいるバンドに、女の子は入ってくれるのか。
ーー間違いなく、入る女の子はいないだろう。
そんなことは、言わずともわかっていた。
「そうだよなあ、やっぱり二次元だな!」
「まあ、募集はしてみますよ。ダメ元で」
その後、ゲームを終えた金本や、和田も練習に合流した。
CDの音に合わせ、全員が楽器を演奏する。僕はボーカルの声に重なるように、歌ってみた。
ハモることを意識して、少し音程を変える。
ーーここのところはキーを下げるか、または上げるべきか。
そう頭で考えながら、いろいろと試していった。
「ハモる音がはっきり聴こえるから、いい感じになっているな」
ギターを弾くのを止め、和田はそう話す。荒木たちも、和田の言葉に相づちをうった。
「けど、ハモリパートってほとんどサビに集中しているよな」
「そっ、そうだよな。曲が、盛り上がってくる時に使われてるし」
荒木と岡山は、僕の歌を聴いてそう話し合い始めた。
「なにも、全部にハモる必要はないと思うけどなあ?」
荒木の言うことも、僕は理解できる。
最初から最後まで、ハモりっばなしとまではいかないと思ったからだ。
「そこは、僕らで構成を考えなきゃいけないってことだろう!」
話を聞いていた金本は、なにか考えながら口にする。
「曲の良さを引き出せるように、みんなで協力し合おう!」
バンドに積極的になっている金本に、僕はおどろいた。
「さっきやったゲームの影響だな、あれは」
「あの人、ゲームの世界に入っちゃってるんですね」
ゲームに影響されやすい金本の姿に、僕らはため息をつく。バンドの練習を中断して、曲の構成を話し合う。
「仮に岩崎君がコーラスをやるなら、ここから入ったほうがいいよね?」
楽譜を見ながら、和田はそう話した。
Bメロの途中、サビの部分などを中心に歌っていく感じだった。
「でもさ、そうするとギターの音で聴こえにくくならない?」
それぞれが自分の意見を言いながら、構成を形にしていく。
「どうせなら、体の動きとか入れた方がよくないか?」
話し合う中、金本は予想外なことを言ってくる。それは、パフォーマンスのようなものを取り入れることだった。
「あー、よくアーティストとかがやってますよね?」
観客を盛り上げる時に、感情を表すためにやっているのを見たことがある。
「かっこつけているみたいで、なんか嫌だなー」
あまり乗り気になっていない僕に、金本は叫ぶ。
「かっこよく演奏して、ギャルゲーソングバンドだろ! やれい」
拒否は許さないといった勢いに、僕はたじろぐ。
「まあ……ボーカルが決まらない内は、どうにもならんがな」
荒木の核心に触れる一言に、僕と金本は黙ってしまった。
ーーキンコーン、カンコーン。
「おほん! まあとりあえず、ボーカルは探そう」
部活が終わるチャイムと同時に、金本はそう言って話を終わらせた。
ーーコンコン!
片付けを終わらせ、帰ろうとした時に部室のドアかたたく音が聞こえた。
「誰だ? 部活は終わろうとしているのに」
金本がそう言ってドアに近づくと、いきなりドアが開かれた。
ーーバタン!
「……痛い!」
「ここって、音楽研究同好会で合ってますー?」
ドアに、たたきつぶされる金本。それよりも、いきなり現れた人物に僕らはおどろく。
それは、同好会に来るような人物ではなかったのだから。
作者からの一言。
岩崎たちのバンドで、出番が少ない岡山。
しゃべることが稀だけど、きちんと登場しています。
君は必要だ!ドラムなんだから。




