表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
進化! 僕らのバンド編
71/173

第六十五話 「フィアー! マイボイス」

 次の日から、バンドの練習に大なわとびが追加された。


 レコーディングスタジオでの出来事がきっかけで、互いに悪いところがあると知る。


「いつから、スポーツみたいな練習をしているんだ?」


 山本先生は、だるそうに大なわとびを回す。


「ほっ、それは言わない約束ですよ! ほっ」


 金本は跳びながら、山本先生に話している。みんながなわとびをしている声を、僕は部室で耳にしていた。


「暗くてなにも見えない、なぜ僕が……」


 ジャスティンさんから渡された、ゴミ箱を頭にかぶっている。


 なぜ、こんなことになったのか。僕はジャスティンさんの言葉を思い出す。


「恭介ボーイ、アナタは一体感よりもまずは歌を鍛えるんデス」


 チームワークよりも、僕の歌とギターのレベルアップが優先ーーそうジャスティンさんは、話していた。


「よりバンドの、完成度を高めるためデス」


「いやあ……うまさよりも、楽しんでやるバンドのほうが」


 楽しくバンドをやる姿を、見せたほうがいいと思っていた。


 そのことをジャスティンさんに話すも、彼はこう言い返した。


「イエス! しかし、ライブハウスはそうはいきませんヨ」


 楽しいだけでは、ライブハウスに通用しない。バンドの完成度も大切だと、ジャスティンさんは語る。


「対バンはかなりの実力者だと、ワタシは聞きましたケド?」


 ーー鏡香たちのバンドか。


 言われた通り、鏡花たちのバンドはうまい。それに対抗する、力が僕らにはまだないのだろうと、僕は考え込む。


 どうせ一緒にやるならば、一番すごいと言わせたい気持ちもある。


「うーん、けどなあ」


 悩む僕に、ジャスティンさんは喝を入れる。


「なにを迷っているんデスカ! やるからには、全力でやるのデス!」


「はっ、はいー」


 あまりの気迫に、僕は思わず返事をしてしまった。


「まあ、バンドで一番ヘタなのは僕だしな……」


 なんとか変わりたいと思った僕は、ジャスティンさんに従うことにした。


「にもかかわらず……」


 歌の練習をする時は、ゴミ箱をかぶって歌う。その意図がわからず、僕は部室で言われた通りゴミ箱をかぶる。


「えーっと、このまま歌えばいいのか」


 とりあえず、曲を流して歌ってみることにした。


「まあたしかに、歌声が目だ立たなくはなっているな」


 防音の効果があるのか、前よりもうるさくはない。


 ーー他の生徒に、笑われなくていいな。


 そう思いながら歌っていると、あることに気がつく。


「あらためて自分の声を聴くと、ひどいもんだよなあ」


 密閉されたゴミ箱なのか、声がダイレクトに伝わってくる。


 自分の歌声を、こんなにも近くで聴いていると違和感があった。


「まったく、音程が取れていない……」


 ボーカル入りの曲と歌っても、はっきりとわかる。


 それは、ただ気持ち悪いだけだった。


「とにかく、我慢して歌うしかない」


 僕は自分の声に苦痛を感じながら、歌い続けることにした。


 ーーバンド練習の日。


 この日は、みんなで音を合わせて弾く。


 いつもと変わらないが、なにか違う。


 そう思ったのは、曲を弾いてしばらくしてからだ。前に比べてると、それぞれが他の音をしっかり意識している。


 お互いに弾くタイミングを合わせて弾いていた。


 大なわとびで足をそろえて跳ぶ。それが弾くことにも生かされているようだった。

 

 ーーあっ。


 そんなことを思っていると、僕は弾くところを間違える。


「こらー! 岩崎君、また君が間違えているじゃないか!」


 金本は変わらず、僕のミスに怒る。


 少しずつではあるが、僕らのバンドは変わっていった。


「岩崎君のそれ、いつ見ても面白いな!」


 僕がゴミ箱をかぶって歌を練習していると、金本がそう声をかける。


「笑わないでくださいよ、こっちは真面目に練習しているのに」


 笑う金本に気にせず、僕は歌うのを続けた。


「けど、なんでゴミ箱をかぶって歌わなきゃいけないんだ?」


 疑問に思った荒木は、和田に話す。


 和田はしばらく考えると、スマートフォンを取り出した。


「わからない時は、検索するのが一番だよ」


 そう言って、スマートフォンでなにやら打ち込む。


「あった、多分だけど音程を良くするトレーニングみたいだね」


 バケツやゴミ箱をかぶって歌うと、音が反響する。それによって、自分の声を客観的に聴くことができるらしい。


「音がずれていると、それが耳に伝わって自然に矯正されていくらしい」


 インターネットで書かれている内容を聞いて、僕らは思わずうなる。


「へえ、そうなんですね」


 ボイストレーニングだと知らず、僕はそう声に出した。


「けどさ、そこまで変わっていないよなあ」


 荒木の言葉に、金本たちはうなずく。


「まだ始めたばかりだからね、これから変わっていくさ」


 僕の肩をたたきながら、和田はフォローする。


「とにかく! 練習あるのみだ、さあ! もう一度最初から」


 その後も練習が続き、この日の部活は終わった。


 自宅でも練習をしようと考えは僕は、ゴミ箱を持って帰宅した。


「あ、お兄ちゃん。帰ってきたんだ」


 玄関に入ってすぐに、若葉と出くわす。


「部活だったからな、よっこいしょ」


 ゴミ箱を横に置いて家に入ると、それを見た若葉が尋ねてきた。


「……なにそれ? ゴミ箱なんか、持って帰ってきてさ」


「え? ああ、僕にとっての最終兵器だよ」


 僕が答えると、若葉は理解していないようだった。


「若葉のバンドって、ボーカルはうまいのか?」


 話を変え、僕は若葉にそう聞いてみた。

 中学生とはいえ、他のボーカルにも興味があったからだ。


「え? んー、うまいほうじゃない? 毎日、練習しているみたいだし」


 ーーやっぱりそうだよな、当たり前か。


 最初から、歌がうまい人はいない。なにかしら努力をしているから、うまくなっていく。


 若葉の話を、そう考えながら聞いていた。


「そういえば、お兄ちゃんも歌うんだっけ?」


「ああ、ギターボーカルってやつだ」


 すると、若葉はニヤニヤと笑う。


「お兄ちゃんがボーカルって、なんか似合わないー」


 からかっているように言われた僕は、ムッとした顔をした。


「ふん! 今に見ていろ、お兄ちゃんは変わるんだからな」


 そう言い放った僕は、そそくさと部屋に向かった。


 ーーバタン!


 部屋のドアを閉め、すぐに練習の準備を始める。


「ちくしょう! どいつもこいつも、好きなことを言いやがって」


 不機嫌になりながら、持って帰ったゴミ箱を頭にかぶる。


 ーーなにがなんでも、うまくなってやろうじゃないか!


 バンドのレベルアップよりも、若葉にぎゃふんと言わせてやりたい。


 今はそんな気持ちになり、ひたすら歌いまくる。


「恭介ー! 晩御飯だよ」


 うっすらと母親の声が聞こえても、構わず歌う。


 ーーバタン!


 いきなり、部屋のドアが開かれた。


「恭介! ごはんだって言ってるでしょう!」


 いつまでたっても来ない僕に、母親が部屋に入ってくる。


「うるせー! いらねーよ、さっさと出ていけババア!」


 自分の歌う声にイライラしていた僕は、ついそう言ってしまった。


 その後は、母親からげんこつをもらい、夕飯を食べたことは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ