表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
進化! 僕らのバンド編
70/173

第六十四話 「おのれの未熟さを知れ! 大なわとびで」

 ジャスティンさんが、僕らに提案したこと。それは、僕の予想を上回るものだった。


「これは、どういうことだい?」


 レコーディングスタジオの外。ジャスティンさんと、本田さんは長いなわとびを持っている。


「みんなで、大なわとびをするんデス」


 ビュンビュン、ひもを回しながらジャスティンさんが話す。


「待て待て! 意味がわからんぞ? なぜ、なわとびなんだ!」


 金本は理由がわからずに、食ってかかる。


「ユーたちに足りないもの、それは連体感デース」


 そう言うとジャスティンさんは、本田さんに説明をさせる。


「演奏を聴いて一番目立っていたのは、微妙な音のズレなんだよ」


 生のバンド演奏を、あまり聴かない人は気づかない。しかし、バンドの音に詳しい人は一発でわかる違和感。


 それが僕らにあると、本田さんは説明する。


「それを解決するには、バンドマンの一体感が必要なんだよ」


 そのために、みんなでなわとびを飛ぶ。よくわからない理屈に、僕らは困惑する。


「跳ぶ様子を見て、なにが悪いかチェックするデース」


 一体感はあるのか、それに加えて僕らに足りないものを探るようなことらしい。


「はっはっは! 僕らは、同じ志を持った仲間だ。心配ご無用!」


 笑いながら、金本は手を前につきだす。


「とりあえず、百回は連続で跳べそうかな?」


 にこやかな表情を浮かべて、本田さんは金本に尋ねる。


「余裕のよっちゃんってやつです!」


 ピースサインをして、金本はなわとびの前に立つ。


 ーーこんなので、分かるのかな?


 そう疑問に思いながら、僕らも金本の後に続く。


「大なわとびなんて、小学生以来だな」


「とっ、跳べるか不安だなあ」


 岡山は不安そうに、自分の腹をさする。それを茶化す荒木たちと、話していた。


「それじゃあ、回すよー」


 ジャスティンさんたちは、大きく回し始めた。


 ーーブンッ! ブン!


 勢いよく回り出したなわとびに、金本はタイミングを見計らっている。


「よし! いくぞ」


 助走をつけて走り出すと、タイミングよく中に入っていく。


「ほっ、ほっ!」


 テンポよく、繰り返してジャンプをする。


 同じように、荒木や和田も中に入って飛ぶ。


「次は、岡山先輩ですよ!」


 僕は岡山の後ろで、そう声をかける。


「……うっ、うん」


 すーはーと息を整えながら、岡山は回るなわとびを見ている。


 ーー本当に跳べるのかよ。


 見るからに運動ができなさそうな体をしている岡山に、僕は顔が引きつる。


「ふんがっ!」


 変なかけ声と一緒に、岡山がなわの中に入る。くぐるように入り、荒木の後ろへ並ぶ。


 おぼつかない足で、ぴょこぴょこと跳んでいた。


「さあ、岩崎君で最後だ!」


 跳ぶ金本は、手招きをしながら僕に声をかけてくる。


 ーー楽しんでんじゃねーかよ。


 なんだかんだで、四人は大なわとびを楽しんでいるようだ。


 バンドの欠点を良くするためだと、自分に言い聞かせる。


「……はあ、それじゃあ行きますよ」


 僕も回っているなわとびを見つつ、入るタイミングを見極める。


 ーービュンビュン!


 上へ下へ回るなわとびに向かって、僕はすばやく跳ぶ。


「おっ、みんな入ったね? それじゃあ、数を数えるよ」


 五人が同時に跳び、本田さんは数え始める。


「百回だっけ? 大丈夫かな」


 連続で百回を跳ぶは、僕らが息を合わせる必要がある。


 チームワークというものが、ものをいうだろう。


「いち、にー」


 ゆっくりではあるものの、順調に回数を重ねていく。


「せーの! ほい、せーの!」


 金本のかけ声に合わせ、僕らは足をそろえる。そして、二十回目になるところで、それは起きた。


「ひい、ひい……ぼっ、僕はもう限界だよー」


 岡山は苦しそうな声で、そう訴えかけてくる。


 その瞬間、なわが岡山の足に当たる。


「いったーい!」


 すると、金本が怒鳴りだした。


「こらー! なんやってんだ、岡山!」


 岡山のミスに、金本はイライラしている様子だった。


「ドラムをやっているのに、まだ痩せてないのか! 少しは、筋肉をつけろ」


「そっ、そんなことを言われても……」


 金本の理不尽な言葉に、岡山はオロオロしている。


 嫌な雰囲気を感じながらも、大なわとびを再開する。その後、何度も挑戦するが失敗が続く。


 ミスを分析するだけの和田、人任せにする荒木。ただ文句を言って、自分の責任を認めない金本。


 体力がなく、すぐ弱音をはく岡山。そして、誰よりも跳ぶのが下手な僕。


「見事に、バラバラだな……」


 そうしか言えないほど、僕らにチームワークはなかった。


「ハーイ! そこで、ストップ」


 言い争いをする僕らに、ジャスティンさんが止めに入る。


「それがユーたちの、悪いところデスネ」


 ジャスティンさんは深いため息をつき、頭を左右に振る。


「どういうことですか?」


 僕らは、そう尋ねる。


「ユーたちの大なわとびをする姿、まさにバンドの演奏と同じってことデス」


「いやいや、バンドとは関係ないでしょう?」


 すかさず、金本はそう反論する。


「バンドの練習を見た時にも、ワタシは気になっていたのデース」


 僕らのバンドは練習になると、少しごたごたが起きる。


 ささいなミスがあるたびに、言い争いになったりもあった。それを見ていたジャスティンさんは、そこが問題だと話した。


 思い当たるところがあるのか、僕らは黙ってしまう。


「……じゃあ、どうしたらいいんですか?」


 バンドを少しでもよくしたいと思った僕は、ジャスティンさんに質問をする。


「そのための、大なわとびデス!」


 全員が協力し合い、なわとびを跳ぶ。それが解決策だと、ジャスティンさんは答えた。

 

「百回を跳ぶことができたら、きっとなにかが変わると思うよ」


 話を聞いていた本田さんも、そんなアドバイスをする。


 今よりもバンドが良くなるかは、正直わからない。


 しかし、アニソンやギャルゲーソングをもっと強く伝えるようになりたい。


 そんな気持ちを持っている僕らは、やらなければならない。


 僕らは、お互いに顔を見合わせる。


「……やりますかね」


 金本の言葉に、全員がうなずく。


 こうして僕らは、百回を目標に大なわとびを練習をすることになった。


「もちろん演奏も、ちゃんとアドバイスするからね」


 本田さんは、バンドの練習も見てくれると約束してくれた。


「よーし、やってやるぜ!」


 気合いが入る僕は、そう意気込む。

すると、ジャスティンさんは僕に声をかけた。


「あー、恭介ボーイ。アナタには、追加でやることがあるんデス」


 目の前には、なぜかプラスチックのゴミ箱を持っているジャスティンさん。

 

「それを……どう使うんです?」


「これをかぶって、歌を歌ってクダサイ」


 ーーすぽっ。


 そう言うと、僕の頭にゴミ箱をかぶせた。


 視界は真っ暗、周りの音は聞こえずらい。


「なんすか……これ?」


 あまりにも意味がわからなく、僕は立ち尽くすしかなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ