第六話 「弾くは恥だが、役には立たない」
ついに、ライブをやる日だ。僕は放課後になると体育館へ向かっていた。
ーーバンドを組んで、生徒会を納得させるほどの活動をすればいいのさ。
そう考えたが、金本たちは協力してくれなかった。
だから僕はアニメの曲を演奏して、この同好会を知ってもらおうと行動に移すのだ。
「演奏をしてみんながすごいって思えば、生徒会は同好会を認めるだろ!」
僕はギターを肩に乗せて、手にはアンプとCDラジカセ。そして、使う機材を持って体育館に着く。
中に入ると、運動部の生徒が部活をしている姿が見える。
僕はそのまま、体育館のステージの方へ歩き出した。
突然、現れた僕に周りからはチラチラと視線が集まる。
ーーこりゃあ、場違いなやつが来たと思ってやがるな。
痛い視線に気にすることなく、僕はステージへ上がった。
機材をセッティングして、ステージに置いてあるマイクのスイッチを入れる。
「あーあー。マイクテストー! マイクテスト」
マイクの音を確認にして、すうっと息を吸う。
「どうもー! 音楽研究同好会の岩崎です。突然ですが、今から演奏します」
僕の声がスピーカーから流れると、部活をしている生徒がこちらを振り向く。
そうは言ってみたものの、人前で演奏をしたことがない僕は内心、緊張している。
「あれ、誰も反応をしてくれないのか……?」
体育館にいる生徒は、興味がないようで、無反応だ。
思っていた印象の違いにピンと来ない僕は、とりあえず弾く態勢に入る。
手がプルプルと震えながら、CDを再生させると、曲が始まるのを待った。
演奏するのは、自分の中で気に入ったアニメの曲だ。
ーー大丈夫だ。毎日のように練習したんだから、自信を持て!
自分にそう言い聞かると、曲が流れ始める。僕は覚悟を決め、ピックでギターの弦をはじいた。
ーーよし! 出だしは、うまく弾けたぞ。
曲に合わせて弾くだけだが、きちんとうまく合わせている。
そう思いながら弾いていると、目の前には、しらけたような空間が漂っていた。
冷めたような視線、クスクスと笑う声が聞こえた気がした。そのような空間にいる僕は、居心地の悪さを感じる。
誰かが知らせたのか、体育館にぞろぞろと人が集まってきた。
すごい演奏をしているから、見に来たわけではない。
一人でバカなことをしているなと、思った見に来た印象だ。
体育館の入り口あたりに、金本たちの姿が見えた。金本たちは引きつったような顔をして、僕の演奏を見ている。
ーーおいおい、おまえらまでそんな顔をすんなよ。
誰のために、ここまでしてやってるんだと僕は思った。
冷めきった雰囲気のせいか、演奏がグダグダになっている。
曲が終わる頃には、なにを弾いているかわからないほど、ひどい演奏だった。
「……ありがとうございました」
なんとか演奏し終わった僕は、か弱い声でそう言うと逃げるように体育館を後にした。
教室へ戻ると、僕は机に倒れ込む。
演奏を振り返ってみるが、あそこまでウケないと思っていなかった。
演奏中に聞こえた、曲をバカにしているような声があったことに気づく。
「僕のギターがひどかったのはわかるけど、あそこまでバカにするか?」
アニメの曲であっても、良い曲だと思っただけに、少し腹が立つ。
「いきなり、体育館ステージでの演奏はまずかったのかな」
選曲よりも、一週間程度でいきなりライブをしようという考えが甘かったのだろうか。
ガックリと肩を落として、学校を後にした。
ーー次の日。
学校へ到着すると、周りの視線が気になる。
「なんだなんだ? なぜに、僕を見ているんだ?」
笑われているような感覚を気にしつつ、僕は教室に入る。
「おはよう、がんちゃん! 見たよ昨日のゲリラライブ」
僕が席に座るなり、山岸が話しかけてくる。
「学校中に噂になってるよ? 変な生徒が、体育館でばか騒ぎをしたって」
ーー朝の視線はそれか。
まさか、学校中にまで噂になっているとは思いもしなかった。
「あっ、ああ。同好会の教室が軽音学部に取られちゃうからさ、 なんとかしなくちゃって思って」
ひなたに軽く説明をしたが、僕はあることをひらめく。
ーー噂になってるってことは、同好会の存在が知られてるんじゃね?
たとえ、バカなことをしたとしても、周りの関心が集まる。
僕は、別の意味で成功したと考えた。
「実は……いい流れじゃないのか?」
そう思っていると、ホームルームのチャイムが鳴る。
ホームルームが終わると、先生は最後に僕の名前を呼ぶ。
「岩崎、昼休みになったら職員室に来なさい」
先生からの言葉に従うが、呼ばれる理由がわからずにいた。
昼休みになり、僕は職員室に向かう。
「失礼しまーす。一年の岩崎ですが、呼ばれて来ました」
職員室に入ってそう言うと、担任の山本先生が出てくる。
「とりあえず、こっちに来なさい」
そこには、山本先生と生活指導の先生が僕を待っていた。
生活指導の先生は、怖い顔をして僕を見ている。
「呼ばれた理由は……わかるか?」
生活指導の先生が、そう聞いてくるも、僕は心当たりがない。
「わかりません! なにかしましたか?」
僕が答えると、先生が手で机を強くたたく。
「わかりませんではない! 昨日の体育館での騒音騒ぎだ」
昨日の体育館での演奏が、一部の生徒から苦情が来ていたらしい。
先生は怒鳴り散らすように、そう説明する。
「それはですね、同好会の活動でやったわけでして」
僕は同好会の現状を話すも、生活指導の先生には聞き入れてもらえなかった。
「そんなくだらない理由で、今回の騒ぎを起こしたのか!」
ーーくだらないだって? 僕にとっては、重要なことなんだよ。
僕は言い返そうとするが、そこに山本先生が割って入る。
「まあ話を聞け、今回はおまえの行動に問題があったんだ」
山本先生は僕が無許可で体育館を使用したことや、事前に学校や生徒会に連絡しなかったことを説明する。
「とにかく! 今回はおまえが一人でやったことだから、同好会に処分はない」
山本先生の話が終わると、生活指導の先生が話す。
その言葉に、僕は少しホッとする。
同好会が停止処分になっていたら、もうチャンスはない。
「とりあえず、おまえは反省文を書くんだ! 次に同じようなことをしたら、同好会も停止処分だ」
その後、しばらく説教をされた僕は、職員室を後にした。
「はあ……話が長すぎる」
僕は反省することなく、次になにをやるかを考えていた。
「けど、他になんか方法がないかな」
次はもっと慎重に考えてから、行動しようと僕は教室に戻るのだった。