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オタクがバンドを組んでなにが悪い?!  作者: 獅子尾ケイ
進化! 僕らのバンド編
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第六十三話 「オタクとバンド、それはインフィニティ」

 実際にレコーディングする一室。本田さんの一言で、僕らは室内で弾く準備をしていた。


「なんで、こうなったんだ!」


 金本は機嫌が悪そうに、ギターのチューニングを合わせていた。


「まあまあ、せっかくプロの人に見てもらえるんですから」


 怒る金本を、僕はなだめる。


 しかし、内心はものすごくテンションが上がっていた。


 ーーこりゃあ、チャンスだな! 僕のギターの腕前を見てもらえるぞ。


 そう思いながら、ギターのセッティングをする。


「あー、聞こえるかな?」


 部屋のスピーカーから、本田さんの声が聞こえる。


「そっちで弾く音は、コントロールルームからも聞こえるからね」


 部屋からは本田さんの姿は見えなく、声だけでやりとりができるようだ。


「けど、こんなギターまで貸してくれるとは思ってなかったね」


 和田は、手に持つギターを見つめる。僕らが貸してもらっているのは、ただの楽器ではなかった。


 どれも有名なブランドで、自分たちが使っているものよりも高価そうだった。


「岩崎君が持っているやつ、ハヤマのSG2000だよ」


 ギターのロゴを見ると、そう書かれている。


「確か、数十万円くらいしてたような」


 それを聞いた僕は、目がギョッとする。


 自分が使っているギターは、安いノーブランド。こんなに高いギターを、持ったことがない。


「どっ、どうしよう! 傷つけてしまったら」


 そう考えてしまったら、僕は弾くのをためらってしまう。


 ーーギュワワーン!


 金本が弾くギターの音が、いきなり鳴る。


「すごいぞ! 弾きやすくて、クセになりそう」

 

 そう言って、 気持ち良さそうに弾きまくっていた。


「はしゃぐなよ! それに、ギターは優しく扱え」


 金本の様子を見ていた荒木は、そう言い聞かせる。


「弾きやすいのは間違いないけど、僕らにはもったいないよね」


「ヘーイ! ユーたち、準備はオーケー?」


 話している最中、ジャスティンさんが僕らに尋ねてきた。全員が準備を終えると、それぞれが立ち位置に向かう。


「いつでもいいですよー」


 僕はそう伝え、マイクの前で構える。そして岡山がドラムでカウントを取り、曲が始まる。


 ーーやっぱり、弾きやすいなあ。


 ギターを弾いている時、その違いを指で感じた。いつもよりもなめらかに手が動き、弾く音が違って聴こえる。


 エフェクト効果も、普段よりいい音になっているような気もした。


 ーージャララーン。


 一曲をフルでやり、僕らは演奏を終える。


「ふう! いやあ、いい演奏だったな!」


 弾き終わった金本は、満足そうにしていた。ギターをスタンドに置いた僕は、その場に腰かけた。


 ーーふう、ミスをしなくてよかった。


 楽器に触れる時間が多いおかげか、日に日に弾けるようになっていく。


 そう思えるくらいに、自分がうまくなっていると僕は思った。


「おつかれさまデース! とても、上達していますネ」


 スピーカーから、ジャスティンの声が大きく聞こえる。


「本田さんは、どう思っているのかな?」


 たくさんのバンドが弾く音を聴いてきた本田さん。プロから見て、僕らの演奏はどうだったか気になる。


「はっはっは! 完璧に決まっているさ、きっとおどろいているぞ」


 金本は、自分の弾くギターに自信があるようで、そう話す。


「んー、そうかなあ?」


 演奏は悪くはない、それは僕も思っている。しかし歌に関しては、自信はない。


 僕だけが、バンドの足を引っ張っているのではないか。そう思ってしまった僕は、不安になった。


「とりあえず、私がいる部屋まで来てくれるかい?」


 本田さんに言われ、僕らはコントロールルームに戻ることにした。


 戻って中に入ると、本田さんは険しい顔をしている。


 ーーどうしたんだろう? なんか、怖いな。


 その顔を見た僕は、やきもきする。


「……あ、あのう」


 同じように思ったのか、金本は気まずそうに話しかける。


「……うーむ」


 なかなかしゃべらない本田さんに、僕らはもやもやしてくる。


 聞くに聞けないといった雰囲気に、僕はゴクリと喉を鳴らした。


「君たちは、すごいな!」


 先ほどまでと違い、興奮したように声を荒らげる。


「演奏はとてもうまいし、アレンジもいいセンスだよ」


 笑顔で一人ずつ肩をたたきながら、僕らに話す。


「やっぱりそうですよね! いやあ、まいったなあ」


 ほめられて上機嫌になった金本は、うれしそうに頭をかく。


 ーーええ、マジか。


 てっきり、ボロカスに言われるんじゃないかと思った僕は、肩透かしを食らう。


「本当に、そう思っているんですか?」


 信じられない僕は、本田さんにもう一度聞いてみる。


「本当だとも! ギャルゲーソングをうまく表現できていたよ」


 その言葉を聞いた僕は、一気に喜びに変わった。初めてまともに、評価されたといってもいいだろう。


 僕らは舞い上がるように、喜び合っていたが次の言葉に僕は凍りついた。


「ただボーカルが、ちょっとね……」


「ボーカルが、どうしたんです?」


 僕の代わりに、和田が尋ねる。それを聞いた本田さんは、僕をチラリと見ながら話し始めた。


「正直に言うと、曲とボーカルが合っていないと思ったんだよね」


 演奏はいいが、僕の声に違和感を覚えたと話す。


「なんて言えばいいのかな、無理して声を作っているような」


 本田さんはチラリと僕のほうを見ていた。


「それは……岩崎君が、ヘタということですか?」


「いやいや! ヘタではないんだけど、うーむ」


 歯切れの悪い言葉に、僕はとまどう。


「わっはっは! 岩崎君は、まだまだギャルゲーの勉強が足りていないってことさ」


 自分には関係ないと言わんばかりに、金本は僕の背中をたたく。


 ーーくそう、自分はほめられたからって調子に乗りやがって。


 そう怒りたくなるが、それよりも歌が指摘されたほうがショックだった。


「ボーカルだけじゃなくて、バンドだけをみたら、そこまですごいわけではないよ?」


 さらっと付け足した言葉を聞いた金本の笑い声が止まる。


 個人で弾くのは、ずば抜けている。しかし、バンドとしては普通。


 そんなバンドは、数多くいると、本田さんは語りかけた。


「……むう」


 さっきまで盛り上がっていた雰囲気は、消え去っていた。


「すまない! つい、真面目に評価してしまった」


 テンションが下がる僕らに、本田さんは謝る。


「けど君たちには、無限の可能性があると思うよ」


「無限の……可能性?」


 言葉の意味がわからず、僕らは聞き返す。


「そうさ、君たちはまだまだ成長できる! そんな音を奏でていたからね」


 本田さんは、なにか僕らに期待するように笑顔を見せている。


「よーし! ならば、やるしかあるまいな!


 話を聞いた金本は、振り向いてガッツポーズをする。


 本田さんの言葉を聞いて、やる気になっている様子だ。


「未熟さは、たしかにあるね。バンドのレベルアップをどうするか……」


 なにかないかと、和田は頭をひねっている。


「あのー、ちょっとイイデスカ?」


 僕らが話している途中、ジャスティンさんが声をかけてきた。


「ユーたちのバンドをもっとグッドにする、アイデアがあるんデスガ」


「あるんですか? それは、なんです?」


 ジャスティンさんに迫るように、押しかける。


 そして僕らに、それを話し始めた。

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