第六十一話 「新しきステージ! 目指せライブハウス」
生徒会から許可をもらった僕らは、練習を繰り返す日々を送る。
「いやあ! まさに、伝説のライブをやってのけた気がするね!」
「何回、同じことを言ってんだよ」
あきれる荒木は、金本に話しながらベースを弾いている。学校でのライブ以来、僕らの環境が少し変わった。
ーー聴いたことがない、変な曲を体育館で演奏した。
そんな話が、学校でウワサになっていたらしい。すごい演奏だったと、生徒の間で広がっていたという。
「僕なんか、 知らない生徒に声をかけられたもんねー」
にやにやと笑いながら、金本は自慢する。事実、僕も声をかけられたことがあった。
最初は金本と同じように、うれしかったけれど、言われた内容に不満だった。
ーー演奏はすごいけど、なんでオタクが聴くような曲をやってるの?
そんな言葉を投げかける、生徒がほとんど。
結局のところ、そこまでギャルゲーソングやアニソンがいいと言うわけではなかった。
「けっ、けどさ。ちょっとは、みんなに知ってもらえたんじゃないかな?」
口数が少ない岡山が、そう言葉を発する。
「そうだけど、まだまだだね」
和田は岡山に答えると、ギターを置く。
「演奏がすごいって言われても、ギャルゲーソングを聴くのは別問題さ」
この学校の生徒に、ギャルゲーソングやアニソンを認めさせるには、まだ時間がかかる。
そう言いたいように、和田は僕らに話す。
「とにかく! ライブハウスに集中しましょう、練習あるのみです」
次の目標である、ライブハウスへの出演に向けて、僕らはやらねばならい。
学校で演奏した時よりも厳しいものになるだろう。今よりも、さらにパワーアップしなければ、鏡香たちのバンドに勝てない。
そう胸に刻みつつ、僕はギターを弾く。
「というか、何人集まったんだろうな?」
荒木は腕を組みながら、そう口にした。
体育館でライブを見に来た人が、どれくらいなのかわからない。生徒会からは詳しい話もなく、今になっても知らされていなかった。
「クスクス……もしかしてあの会長、くやしくて言えなかったりしてな」
「許可をもらった時に見た会長の顔、かなりくやしがってたよな」
思い出したように、金本と荒木は笑い合っている。
ライブが終わった後、会長はショックな顔をしていた、まさかこうなるとは、思っていなかったのだろう。
「ちょっと、かわいそうな気がしますね」
僕らがライブハウスに出ることによって、生徒会の仕事も増えるだろう。
余計な仕事を増やしてしまい、僕は申し訳ない気持ちになる。
「岩崎君! なにを言っているんだ、あの生徒会に情けなど無用!」
金本は机をたたくと、僕にそう話す。
「散々、僕らにむごい仕打ちをしてきたんだ! ざまあみろだよ」
「……ほう、キミはそんな風に思っていたのか」
後ろを振り向くと、会長が立っている。
「うわあ! 会長、いつからそこに?」
突然現れた会長に、金本はおどろく。
「しかし……なんて狭い部室なんだ、暑苦しい」
ハンカチを口にあてながら、会長は部室をちらちら眺めている。
ーーあなたのせいですよ! あなたの。
僕らはそう思いながら、会長がここへ来た理由を尋ねる。
「あのー、会長様はなぜにこちらへ?」
すると、会長は書類を僕らに手渡す。
渡されて用紙には、正式にライブハウスに出る許可が書いている。
「校長も、相手側の学校名を聞いたらすぐに許可を出したよ」
鏡香たちが通う学校は、有名なエリート校だ。そんな学校からの誘いならば、こちらからしたらおいしい話かもしれない。
校長が、そう考えているのではないかと、会長は思っているらしい。
「あのハゲ校長、なにをたくらんでやがるんだ」
話を聞いた金本は、あきれながら口をこぼす。
「認めたくないが、我が校の代表として、全力を尽くすようにと校長からのありがたいお言葉だ」
言い終えたわ会長は、部室を出て行こうとする。
「会長! えっと……ありがとうございました」
僕は会長にお礼を言って、頭を下げる。
「……まあ、頑張りたまえ」
いきなりお礼を言われた会長は、少しおどろきながら、そう言って部室を去っていった。
「会長も、見に来てくれたらいいな」
ライブハウスで演奏する僕らを、いろんな人に見てほしい。会長が去る姿を見ながら、僕はそう口にする。
「ああ、そうだな。だが、僕らにはやるべきことがある」
いつにもなく真剣な顔をする金本が、僕らに声をかけた。
「はい! 今よりも、さらに練習を重ねていきましょう!」
なにが言いたいかわかった僕は、すぐにギターを肩に背負う。
「ちがーう! 今月に発売された、新作ギャルゲーのチェックだ」
金本が大量に買い込んだであろう、ゲーム雑誌を取り出すと、机に並べる。
「ええー? 練習しましょうよー」
こうして、ライブハウスに向けて僕らの練習が再スタートする。ギャルゲーの談話が、最優先になってしまっているけれど。
ーーそんな、ある日のこと。
前にCDを聴いて衝撃を受けた、KORUKAの曲を練習していた時。
曲が使われた会社の人である、ジャスティンさんから電話がかかってきた。
「はい、もしもし?」
僕が電話に出ると、ジャスティンさんはおどろくことを告げる。
「はあ? レコーディングスタジオに来いって?」
ジャスティンさんに言われたことを、金本たちに伝える。その言葉を聞いた金本たちは、驚きながら叫んだ。
「どういうこと? え、どういうこと?」
「いや、僕にもさっぱり。突然、そう言われたんですが」
レコーディングスタジオに来いとだけ言われ、電話は切れていた。話がまったく見えてこなく、僕らはオロオロする。
しばらく僕らが考えていると、岡山が口を開いた。
「まっ……まさか、ギャルゲーのアフレコを見せてくれるのかな?」
岡山がそう話すと、 金本たちはピクリと反応した。
「声優さんとかに会えるってことか? いやっほーい!」
いきなり声を上げる金本が、興奮しながらさけび出す。
「サインとか、もらいたいよね」
金本たちは、話で盛り上がっている。
「そろそろ練習しましょうよー」
僕は声をかけるが、まるで話を聞いていない。結局、最後まで練習しないまま部活が終わる。
「さー、行くぞ!」
土曜日の昼、僕らは駅に集合する。
金本のかけ声に、荒木たちはテンションが高く答える。
「……なんだかなあ」
僕はため息をつきながら、金本たちについて行く。
ジャスティンさんがいるゲーム会社へ、僕らは向かうのだった。




