第五十九話 「僕たちのバンドでミラクルを起こせ!」
幕が上がり、いよいよライブが始まる。
ーーえ? マジかよ。
目の前にいる、人の数に僕はおどろく。
広い体育館にぽつんと立っている、わずかな生徒だけでどう見ても三十人はいない。
「えっ、えっと……音楽研究同好会です」
僕は驚くあまり、口がどもってしまう。
「……やはり、来てくれたか」
近くにいる金本は、そうつぶやく。
「漫研とアニ研に、声をかけておいて正解だったな」
「とは言っても、人数は少ないけどな」
荒木は苦笑いをしながら、そう話をつけ足す。
「いやいや……三十人集まらなかったじゃないですか!」
数えてはいないが、十人くらいしか体育館にはいない。会長が出した条件をクリアできなかったことになる。
「おーい、ライブはまだかあ?」
僕らがステージで言い合っていると、そんなヤジが飛んでくる。
「くっ、くそう……」
言いたいことは山ほどあるが、今はライブをスタートしなければならない。
「大丈夫だよ、ライブが終わるまで結果はわからない。今は、ライブを成功させよう」
和田が僕の近くに寄り、そう声をかけた。
ーーそうだ、まだ始まっていない。
演奏していれば、もしかすると人が集まるかもしれない。僕は可能性がゼロでないことを、和田の一言で気づかされた。
「すみませんでした! これから、演奏を始めます」
マイクに向かって、僕は観客に謝る。
すうっと息をはくと、ギターを構え直した。岡山のカウントが入り、ドラムの音が鳴り始める。
ーードンッ! ドドンッ。
そこへ合わせるように、荒木の弾くベースが入る。低く、重いベース音が、ドラムと混じり合う。
「聴いてください! 一曲目は……」
僕が曲のタイトルを言った瞬間、三人の弾くギターが、一斉に鳴る。
ーーギュワワーン!
大きなギターアンプから出る爆音は、いつ聴いても気分が高揚する。
五人の音が合わさり、一つの曲を作り出していた。
一曲目は、歌がないギャルゲーのBGM。
老人ホームで弾いた曲を、エレキギターで弾いている。ロックサウンドに近い音作りのため、もはや原曲の面影もなかった。
ギターを弾いている時、以前に自分が言っていた言葉を思い出す。
「原曲をぶっ壊しましょう!」
ただ曲をコピーして弾くだけでは、面白みはない。自分たちが、その曲をどんな風に表現できるか興味があった。
ーー僕らが奏でる音は、曲を変える。
それができていると、僕は自分の弾くギターの音で実感する。
ギャルゲーだろうとアニソンでも、バンドでやればかっこいい。そんな気持ちになった僕は、ギターをがむしゃらに弾き続けた。
曲が終わり、ギターのボリュームを下げる。すぐ次の曲に入るため、足元のエフェクターを切り替える。
「すごいな! よく、あの曲をカバーできるね」
突然、そんな声が聞こえた。
パチパチと小さい拍手をしながら、聴いていた生徒が口にしている。
「あったり前だろー! この曲を知ってるとは、さすがアニ研!」
それに答えるように、金本がマイクから話していた。金本の言葉に、体育館から笑い声が聞こえる。
ーーさすが、同じような部活のやつらだな。
曲を知っている人ならば、そう反応するだろう。しかし、自分たちの演奏が受け入れられていることは、うれしい。
僕は、にやけながらエフェクターをいじる。
「ならば、次の曲も知っているだろう! オタクならば」
金本は次の曲を一人で、勝手に紹介している。
「……金本、先走るなよ。おまえも、早くセッティングし直せ」
マイクでしゃべりまくっている金本に、荒木は注意する。
またもや笑い声が、体育館に広がっていく。
ふいに出入り口を見ると、のぞき込む生徒が何人かいる。
「音に気がついて、見に来たのかな?」
和田もそれに気づくと、目線を出入り口に向ける。
「ならチャンスですよ! そのまま入ってくれれば、人数が増えますね!」
僕の言葉を聞いた和田は無言でうなずいた。セッティングが終わり、すぐに次の曲にとりかかる。
「それじゃあ、次の曲にいきます!」
期待が膨らむ中、次の曲であるアニソンのカバーがスタートする。
この曲は金本と和田のギターから弾き、ドラムとベースが途中から入る形だ。
短い期間の中で、僕は歌を覚えなければならなかった。フルで歌えるかは、自分でもわからない。
ーー失敗したっていい、ヘタでも歌ってやる!
歌い出しが来ると、僕はマイクに口を近づける。
金本たちが弾く音に、僕の歌う声が重なる。音程は外れてはいないけれど、まだ声に自信はない。
それが歌に現れているのが、僕でもわかった。
ーーうわあ、ダメか?
原曲で聴く歌声のイメージとは違い、僕の声はどうだろうか。
意気込んだ気持ちが、不安に変わる。僕は歌いながら、聴いている生徒に目線を向ける。
無表情で聴いているように見えて、どこか怖い。
ーーさすがに、これはウケないか。
そう思った時、遠くの方から声が聞こえる。
「こらー! もっと、気合い入れて歌えー! ビビってんじゃないわよ!」
声がする方向に顔を向けると、ひなたが叫んでいた。
「気持ちを込めて歌えば、ヘタでも伝わる! 頑張れ、がんちゃん」
ーーあのやろう、見に来るなら最初からいろよ。
ニヤリと笑った僕は、ギターを押さえる手をマイクに置く。
ーーオーケー! ひなた、おまえの言う通りに全力で歌ってやる。
先ほどの不安感が消え、僕はギターを弾かずにだだ歌う。
「ははは、いいぞー! 頑張れ!」
気がつけば、他の生徒も僕を応援する声で大きくなる。そのせいか、徐々に人が体育館に入って来ていた。
歌いきった僕は、曲が終わる頃になると息を切らしていた。
「はあ、はあ……ありがとうございました」
汗だくになりながら、枯れた声で話す。
「あと一息だね、大丈夫か岩崎君?」
心配する和田に、僕は無言で親指を立てる。
「そっ、そうか。けど、まだ三十人集まっていないね」
ライブがスタートした時よりも、少しだけ人は増えている。しかし、ちらっと見ては帰っていく人が、ほとんどだった。
「やっぱり、現実は厳しいな」
残す曲はあと一つ、ギャルゲーソングのみだ。この曲で、すべてが決まってしまう。
今の状況をみて、この場にいる誰もが結果を想像できてしまう。
「はっはっは! まあ仕方がない、やるだけやったんだ」
金本は笑いながら、ギターをいじっている。
「かっ、金本先輩……」
一番まともなことを言っている金本に、僕らはおどろく。
「ダメだったとしても、今は演奏を楽しもうか。ギャルゲーソングのすごさを、伝えよう」
金本の言葉に僕らはうなずき、僕は息を整えてマイクで話し始める。
「次の曲でラストです、ギャルゲーというジャンルのゲームソングで……」
曲が使われている、ギャルゲーのタイトルやアーティスト。ゲームの良さをできる限り、伝える。
ギャルゲーという言葉に、みんなはどこか冷めている様子。
ーーだろうな、思った通りの反応だ。
オタクがやるようなゲームなど、興味がない連中にとっては、まるで関心がない。
僕もそうだったから、その気持ちがよくわかっていた。
ーーなら、その常識をぶっ壊してやるよ。
後ろを振り向き、金本たちと目を合わせる。
金本たちはうなずくと、それぞれ楽器を構えた。
「さあ、やってやろうか……ギャルゲーソングのすごさってやつをさ」
そう小さく、自分に言い聞かせた僕は、ギターを構える。
そして、僕らの演奏が始まった。




