表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
64/173

第五十八話 「運命の学校ライブ! スタート」

 ライブハウスに出るため、僕らは学校でライブをすることになった。


 そのために、僕らはありとあらゆることをしている。


「練習! そして、見に来てくれる人を探し出すんだ!」


 金本の一言で、僕らは行動を始めた。演奏する曲は、三曲。


 今まで演奏してきた曲が中心だが、新たに曲を一つ追加した。短期間で覚えられる、簡単な楽曲。


「それが、どうしてアニソンなんですか!」


 曲を決めている時に、金本がアニソンをやろうと話してきた。僕が入部する前に、金本たちがお遊びで弾いていたらしい。


「今は時間がない! 演奏できる曲を選んだ結果だ、受け入れるんだ」


 曲数を増やすのは構わないけれど、僕は少し不安になる。


「僕……曲を覚えられるか、心配ですよ」


 ライブハウスで演奏する曲だけでも苦戦しているのに、さらに曲を覚えなければいけない。僕にそれができるのかと、つい考えてしまう。


「大丈夫だよ岩崎君、君に負担がないようにギターは簡単にしてある」


 和田はポケットから紙を取り出して、僕に手渡す。


 僕は紙を広げ、書かれている文字を見る。そこにはアルファベットが書いてあった。


「もしかして……ギターのコードですか」


 まさかと思って聞いてみると、和田はうなずく。簡単な押さえ方のギターコードで、僕でもできそうである。


「僕と金本がギターをやるからね、岩崎君はボーカルに集中すればオーケー」


 それはそれでありがたいのだが、僕は複雑な気持ちになる。


 ーーうーむ、どうせならギターもかっこよく弾きたいんだけどな。


 そうは思ったが、今は時間がないのだから僕は、できることを優先しようと思うことにした。


「わかりました! アニソンは、ボーカルに集中します!」


 イヤホンをつけ、CDから流れる歌を覚えていく。それからは、演奏する曲を全体で合わせて弾く練習が始まった。


「よーし! それじゃあ、最初から合わせて弾くぞー!」


 部活が終わった後、貸しスタジオで練習する日が増えていく。金本が号令をかけると、それを合図に演奏を合わせる。


 ーージャララーン!


 五人が弾く楽器の音も、以前に比べて良くなってきている気がした。前は、金本たちが弾く音を追いかけているだけだった僕も、今はきちんとついていけている。


「うむ、いいじゃないか! カバーのクオリティも上がっている」


 商業施設で演奏した、ギャルゲーの曲。

ギターソロは難しかったが、今では安定して弾ける。僕は、確実にレベルアップしていることを実感できていた。


「岩崎君も、心配するところはないな! ただし、ボーカルを除けば……」


 金本が言う通り、ボーカルだけは劇的な変化はなかった。僕の声は相変わらずで、そこが金本たちの不満であるらしい。


「けど、きちんと歌っているし、そこは目をつぶろうか」


 和田はギターを置き、そう金本に話しかける。何回か練習を繰り返し、少し休憩していると、ドアが開いた。


「ハーイ! ミナサン、差し入れデース」


 袋を手に持って、ジャスティンさんが中に入ってくる。


「あれ? ジャスティンさん、今日はここでやってるって言いましたっけ?」


 缶ジュースを受け取った僕は、ふとジャスティンさんに尋ねる。


「山本ティーチャーから聞きましたよ! 彼も一緒デース」


 ジャスティンさんの後ろには、山本先生がいた。


「まったく、どうしてこうなったんだ。私は、なにも聞いていなかったぞ」


 ライブハウスで演奏する話から、山本先生に相談をしていなかった。


「はっはっは! 僕らもいろいろありましてね、山本先生のことは忘れていましたよ」


 金本は、笑いながら話している。先生はため息をつき、僕らに尋ねた。


「練習はいいとして、見に来る生徒は集まりそうなのか?」


「あー、確かにそうだったな」


 荒木は思い出したように、つぶやく。


「問題ないです! これも作りましたし、準備はできてます」


 金本がカバンから取り出したのは、僕らのやるライブのビラだった。


「おお! いつの間に作ったんですか? 見せてくださいよ」


 僕は紙を受け取り、書かれているものを見る。ライブでやる曲目、その曲が使われているゲームやアニメのタイトルも書いてあった。


「いいじゃないですか! アニメやゲームの宣伝にもなりますし」


 同好会での目的である、アニメやゲームの曲を知ってもらうところも、きちんと押さえている。


「素晴らしいデース! これなら、見に来る人もいるはずデスネ」


 ジャスティンさんもビラを見て、そう声をかけてくる。


「よーし! 明日から、このビラを学校で配るぞ! なんとしても、観客を集めるんだ」

 

 本番まであとわずか。この日はジャスティンさんたちに、演奏を見てもらって終わった。


 ーー次の日。


 朝、僕らは校門の前でビラを配ろと学校の中に入る生徒に、声をかけては紙を手渡していた。


「三日後に体育館でライブをやりまーす! よかったら、見に来てくださいー」


 しかし、声をかけてもビラを受け取る人は少なかった。


「ライブ? おまえらみたいな、オタクっぽいやつが演奏できんのか?」


 そう言われながらも、必死にビラを配り続けた。


「がんちゃん、なにしてるの?」


 登校してきたひなたが、僕に声をかけてくる。


「おお、ひなたか! 実はな……」


 ライブハウスで演奏すること、そのために学校でライブをやらなきゃいけないことを、ひなたに伝えてる。


「ふーん、なるほどねえ」


 僕の持っているビラを一枚取ると、険しい顔をしながら見ていた。


「なっ……なんだよ」


 その気迫におどろく僕は、ひなたに弱々しく尋ねる。


「まあまあの選曲ね、このアニソンは知らないけど」


 どうやら、演奏する曲のセットリストを見ていたらしい。ギャルゲーが好きであるひなたにとっては、まずまずな反応。


「放課後にやるんだけど、ひなたは見に来てくれる……よな?」


 僕はおそるおそる、そう頼んでみる。


「んー、見に行けたらね。まあ、頑張んなさいよ」


「いやいや! さっきも話しただろ、三十人集まらないとダメなんだよ! 必ず、見に来いよ」


 僕は念をおすように言うと、ひなたは、友人に声をかけられ走っていった。


 ーーあいつも、友達を誘ってくれたらいいのに……それは無理か。


 ひなたの背中を見ながら僕は、ビラを配るのを再開する。その後、まともにビラをを受け取る人もいなく、結果は散々だった。


「文字が汚さすぎて、見えなーい!」


 放課後、ビラ配りの成果が得られなかった金本が、紙を放り投げる。


「思いのほか、効果はなかったね」


 和田たちも僕と同じで、ビラを受け取る人はいなかったらしい。


 全員がため息をつきながら、机にうなだれる。


「とにかく! 練習しましょうよ」


 僕が声をかけると、金本たちはゆらゆらと動きながら、それぞれ楽器を持つ。


「それじゃあ、いきましょー! ワン、ツー!」


 全員が楽器を弾き、練習が始まった。

勢いのある音はしないが、きちんと合わさっている。


 本番まであと少し、僕らは残りの時間を練習に費やした。


 ーー学校でのライブ当日。


 僕らは、体育館のステージでライブの準備をしていた。


 生徒会が用意してくれた、音響機材を設置して、楽器のチェックをする。放課後になり、帰り始めている生徒もいた。


「いよいよか、今までで一番緊張してきたよ」


 ギターのチューニングをしている和田がそう口にする。僕も同じで、少しだけ手が震えている。


「とにかくやるしかない! 問題は、人が集まるかだ……」


 ステージの幕は降りている。


 僕らは、体育館にどれだけの人がいるかはわからない。ただ、いることを祈るしかなかった。


 準備も終わり、それぞれが立ち位置に移動する。ライブスタートの時間になり、いきなり体育館のスピーカーから声が流れる。


「これより、音楽研究同好会のライブ演奏が始まります」


「……生徒会か、嫌みのつもりか」


 大げさに、放送でアナウンスする生徒会に、金本はそうつぶやいた。


「今は演奏に集中しよう、練習通りに」


「わかってるわい! 楽しく、曲を伝えるパワーを全力でやるぞ」


「おうー!」


 掛け声をあげ、僕はギターを構える。


 そして、ステージの幕が静かに上がり始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ