第五十八話 「運命の学校ライブ! スタート」
ライブハウスに出るため、僕らは学校でライブをすることになった。
そのために、僕らはありとあらゆることをしている。
「練習! そして、見に来てくれる人を探し出すんだ!」
金本の一言で、僕らは行動を始めた。演奏する曲は、三曲。
今まで演奏してきた曲が中心だが、新たに曲を一つ追加した。短期間で覚えられる、簡単な楽曲。
「それが、どうしてアニソンなんですか!」
曲を決めている時に、金本がアニソンをやろうと話してきた。僕が入部する前に、金本たちがお遊びで弾いていたらしい。
「今は時間がない! 演奏できる曲を選んだ結果だ、受け入れるんだ」
曲数を増やすのは構わないけれど、僕は少し不安になる。
「僕……曲を覚えられるか、心配ですよ」
ライブハウスで演奏する曲だけでも苦戦しているのに、さらに曲を覚えなければいけない。僕にそれができるのかと、つい考えてしまう。
「大丈夫だよ岩崎君、君に負担がないようにギターは簡単にしてある」
和田はポケットから紙を取り出して、僕に手渡す。
僕は紙を広げ、書かれている文字を見る。そこにはアルファベットが書いてあった。
「もしかして……ギターのコードですか」
まさかと思って聞いてみると、和田はうなずく。簡単な押さえ方のギターコードで、僕でもできそうである。
「僕と金本がギターをやるからね、岩崎君はボーカルに集中すればオーケー」
それはそれでありがたいのだが、僕は複雑な気持ちになる。
ーーうーむ、どうせならギターもかっこよく弾きたいんだけどな。
そうは思ったが、今は時間がないのだから僕は、できることを優先しようと思うことにした。
「わかりました! アニソンは、ボーカルに集中します!」
イヤホンをつけ、CDから流れる歌を覚えていく。それからは、演奏する曲を全体で合わせて弾く練習が始まった。
「よーし! それじゃあ、最初から合わせて弾くぞー!」
部活が終わった後、貸しスタジオで練習する日が増えていく。金本が号令をかけると、それを合図に演奏を合わせる。
ーージャララーン!
五人が弾く楽器の音も、以前に比べて良くなってきている気がした。前は、金本たちが弾く音を追いかけているだけだった僕も、今はきちんとついていけている。
「うむ、いいじゃないか! カバーのクオリティも上がっている」
商業施設で演奏した、ギャルゲーの曲。
ギターソロは難しかったが、今では安定して弾ける。僕は、確実にレベルアップしていることを実感できていた。
「岩崎君も、心配するところはないな! ただし、ボーカルを除けば……」
金本が言う通り、ボーカルだけは劇的な変化はなかった。僕の声は相変わらずで、そこが金本たちの不満であるらしい。
「けど、きちんと歌っているし、そこは目をつぶろうか」
和田はギターを置き、そう金本に話しかける。何回か練習を繰り返し、少し休憩していると、ドアが開いた。
「ハーイ! ミナサン、差し入れデース」
袋を手に持って、ジャスティンさんが中に入ってくる。
「あれ? ジャスティンさん、今日はここでやってるって言いましたっけ?」
缶ジュースを受け取った僕は、ふとジャスティンさんに尋ねる。
「山本ティーチャーから聞きましたよ! 彼も一緒デース」
ジャスティンさんの後ろには、山本先生がいた。
「まったく、どうしてこうなったんだ。私は、なにも聞いていなかったぞ」
ライブハウスで演奏する話から、山本先生に相談をしていなかった。
「はっはっは! 僕らもいろいろありましてね、山本先生のことは忘れていましたよ」
金本は、笑いながら話している。先生はため息をつき、僕らに尋ねた。
「練習はいいとして、見に来る生徒は集まりそうなのか?」
「あー、確かにそうだったな」
荒木は思い出したように、つぶやく。
「問題ないです! これも作りましたし、準備はできてます」
金本がカバンから取り出したのは、僕らのやるライブのビラだった。
「おお! いつの間に作ったんですか? 見せてくださいよ」
僕は紙を受け取り、書かれているものを見る。ライブでやる曲目、その曲が使われているゲームやアニメのタイトルも書いてあった。
「いいじゃないですか! アニメやゲームの宣伝にもなりますし」
同好会での目的である、アニメやゲームの曲を知ってもらうところも、きちんと押さえている。
「素晴らしいデース! これなら、見に来る人もいるはずデスネ」
ジャスティンさんもビラを見て、そう声をかけてくる。
「よーし! 明日から、このビラを学校で配るぞ! なんとしても、観客を集めるんだ」
本番まであとわずか。この日はジャスティンさんたちに、演奏を見てもらって終わった。
ーー次の日。
朝、僕らは校門の前でビラを配ろと学校の中に入る生徒に、声をかけては紙を手渡していた。
「三日後に体育館でライブをやりまーす! よかったら、見に来てくださいー」
しかし、声をかけてもビラを受け取る人は少なかった。
「ライブ? おまえらみたいな、オタクっぽいやつが演奏できんのか?」
そう言われながらも、必死にビラを配り続けた。
「がんちゃん、なにしてるの?」
登校してきたひなたが、僕に声をかけてくる。
「おお、ひなたか! 実はな……」
ライブハウスで演奏すること、そのために学校でライブをやらなきゃいけないことを、ひなたに伝えてる。
「ふーん、なるほどねえ」
僕の持っているビラを一枚取ると、険しい顔をしながら見ていた。
「なっ……なんだよ」
その気迫におどろく僕は、ひなたに弱々しく尋ねる。
「まあまあの選曲ね、このアニソンは知らないけど」
どうやら、演奏する曲のセットリストを見ていたらしい。ギャルゲーが好きであるひなたにとっては、まずまずな反応。
「放課後にやるんだけど、ひなたは見に来てくれる……よな?」
僕はおそるおそる、そう頼んでみる。
「んー、見に行けたらね。まあ、頑張んなさいよ」
「いやいや! さっきも話しただろ、三十人集まらないとダメなんだよ! 必ず、見に来いよ」
僕は念をおすように言うと、ひなたは、友人に声をかけられ走っていった。
ーーあいつも、友達を誘ってくれたらいいのに……それは無理か。
ひなたの背中を見ながら僕は、ビラを配るのを再開する。その後、まともにビラをを受け取る人もいなく、結果は散々だった。
「文字が汚さすぎて、見えなーい!」
放課後、ビラ配りの成果が得られなかった金本が、紙を放り投げる。
「思いのほか、効果はなかったね」
和田たちも僕と同じで、ビラを受け取る人はいなかったらしい。
全員がため息をつきながら、机にうなだれる。
「とにかく! 練習しましょうよ」
僕が声をかけると、金本たちはゆらゆらと動きながら、それぞれ楽器を持つ。
「それじゃあ、いきましょー! ワン、ツー!」
全員が楽器を弾き、練習が始まった。
勢いのある音はしないが、きちんと合わさっている。
本番まであと少し、僕らは残りの時間を練習に費やした。
ーー学校でのライブ当日。
僕らは、体育館のステージでライブの準備をしていた。
生徒会が用意してくれた、音響機材を設置して、楽器のチェックをする。放課後になり、帰り始めている生徒もいた。
「いよいよか、今までで一番緊張してきたよ」
ギターのチューニングをしている和田がそう口にする。僕も同じで、少しだけ手が震えている。
「とにかくやるしかない! 問題は、人が集まるかだ……」
ステージの幕は降りている。
僕らは、体育館にどれだけの人がいるかはわからない。ただ、いることを祈るしかなかった。
準備も終わり、それぞれが立ち位置に移動する。ライブスタートの時間になり、いきなり体育館のスピーカーから声が流れる。
「これより、音楽研究同好会のライブ演奏が始まります」
「……生徒会か、嫌みのつもりか」
大げさに、放送でアナウンスする生徒会に、金本はそうつぶやいた。
「今は演奏に集中しよう、練習通りに」
「わかってるわい! 楽しく、曲を伝えるパワーを全力でやるぞ」
「おうー!」
掛け声をあげ、僕はギターを構える。
そして、ステージの幕が静かに上がり始めた。




