第五十七話 「バトル! 生徒会VS音楽研究同好会! 後編」
金本は生徒会室で、会長と言い争っていた。
「だから! どうして、ライブハウスで演奏をしちゃあダメなんですか!」
机をバンバンとたたく音を立てても、生徒会長は黙っている。金本は、息を荒くしてしゃべり続ける。
「やましいこともしないですし、学校や生徒会に迷惑がかかるわけではないんです!」
そのような声が、廊下まで聞こえる。僕らは、教室の扉を開けて中に入った。
「おいおい、金本。とりあえず落ち着け」
今にも殴りかかりそうな金本を荒木は止めに入る。すると、黙っていた会長は口を開く。
「言いたいことはそれだけかな? 何度も言うが、ライブハウスでの演奏は許可できない」
「……理由を聞いてもいいですか?」
会長の言葉に、僕はそう尋ねる。
ライブハウスでの演奏だって、立派な校外活動の一つだ。それのどこが、ダメなのか知りたかったからだ。
「商業施設でのイベント参加。老人ホームでの演奏は、きちんと主催者側からの要望もあった」
会長は静かな顔で、話を続ける。
「活動内容を見ても、学校や生徒会も多少なりとも評価をしている」
「だったら、なぜ今回は許可できないんですか!」
今までのライブが評価されているならば、別に問題はないはず。
「ライブハウスでの演奏は、個人的な参加だろう? 金本君が持ってきた要望書には、そう書かれていたが?」
たしかに、ライブハウスへの参加は、鏡香たちからの誘いだった。
学校とは関係なく、仲間内でのイベントのようなものだ。
「それに……ライブハウスといえば、多くの人が出入りする。もしかすると、トラブルに巻き込まれるかもしれない」
ライブハウスというものは、学生だけでなく、大人も多く訪れる場所。
そういった場所に僕たち未成年が行くのも、ましてやステージに立つのは危険。
「そのような場所に、我が校の生徒を行かせるわけにはいかない。学生の安全を守るのも、 生徒会の役目だ」
以上の理由から、許可を出すわけにはいかないと、会長は話を終える。
会長の話は間違ってはいない、生徒会からしてみたらそう考えるだろう。しかし、僕らは納得ができずあれこれと説得をする。
「そこまで心配する必要ないんですって! 時間だって、夜遅くじゃないですし」
そう説得するが、話は変わらない。会長が首を縦に振るまけもなく、話は平行線のままだ。
突然、横で話を聞いていたジャスティンさんが声をかける。
「ヘーイ! ボーイたち、落ち着いてクダサイー! エキサイトはノンノン!」
そう言うと、ジャスティンさんは生徒会長がいる席まで歩き出した。
「カイチョーさん、アナタの話はごもっともデース。しかし、ライブハウスの偏見は良くないデスネ」
いきなり話しかけられた会長は、おどろいている。
「だっ……誰なんですかあなたは、部外者が学校にいるなんて」
会長はじっとこちらを見ると、僕らはすぐに目をそらした。
ーーやべえ……話に夢中で、この人の存在を忘れてた。
ただでさえ変な人なのに、また話がややこしくなるのではないかと、僕は思った。
「ワタシですか? ギャルゲーを作っている会社の者デース!」
ジャスティンさんは、持っている名刺を会長に手渡す。
「これはこれは、ごていねいにどうも……って違う違う!」
「ナイスなノリツッコミですネー」
名刺を投げ飛ばした会長に、ジャスティンさんは笑っている。
「とっ、とにかくだ! ライブハウスへの参加は許可できない」
もはやこれまでかと思った僕らは、あきらめてようとしていた。
その時、ジャスティンさんは僕らに告げる。
「ミナサン! ここはワタシに任せて、廊下で待っていてクダサイー」
そう言われた僕らは、意味がわからずに廊下へ出ることにした。
ーーなにをするつもりなんだ?
会長と二人になるジャスティンさんを見ながら、僕はそう思った。
「というか、大丈夫なんですかね? あの人に任せて」
心配になった僕は、金本たちに尋ねる。金本たちも同じような気持ちなのか、ソワソワしていた。
「……わからん! もしもの時は、強硬手段に出るしかないな」
つまり、学校や生徒会を無視して、バレないようにライブをする。そう言いたいように、金本の顔はゲスな顔になっていた。
金本の話を聞きつつ、僕は教室の扉をみつめる。教室の中では、どんな会話をしているのだろう。
ーーガラガラ。
扉が開いた音がすると、中からジャスティンさんが出てくる。満面の笑みを浮かべている、ジャスティンさんは口を開く。
「ミナサン、会長さんから許可をもらえマシタヨー!」
「えええー! マジで?」
僕らは、一斉に声を上げた。
どんな魔法を使ったのかと、思うほどの衝撃だった。
「なにやったんだよ……ジャスティンさん」
僕はそう口にしながら、会長をチラりと見る。会長は、なにかを机の下に隠しているようなしぐさをしていた。
「……はっ! ごほん、まあ中に入りなさい」
僕と目が合うと、会長はそう話しかけてくる。全員が教室の中に入り、最初に金本が口を開いた。
「本当に……許可を出してくれるんですか?
金本が尋ねると、会長は首を縦にふるう。
「あ、ああ。私の権限で、許可を出してあげよう」
会長の言葉を聞いた僕らは、歓喜の声を上げる。
「いやっほう! ライブだ、ライブ」
ライブハウスで演奏ができることに喜んでいる僕らに、会長は告げる。
「ただし、条件がある。それをクリアしたら、ライブハウスへの出演を許可しよう」
部室に戻ってきた僕らは、無言のまま席へ座る。
「なぜ……また恥をかかなきゃならないんだ」
ーー君たちには以前に岩崎君がやったように、体育館でライブをやってもらう。
会長が出した条件に、僕は落胆していた。
「我が校の名前で、ライブハウスへ出演するのならば、他校よりも優れていなければならない」
そのために、まずは自分たちの学校でそれなりに人気を集める必要があると、会長は告げた。
「事前に告知をして、観客を最低でも三十人は集めてもらおう」
それが会長から出された条件だった。
「いやいや……わけわかんねーよ、どうしてこうなった?」
荒木がそう言うと、僕らはジャスティンさんに目を向ける。
「ハハハ! イージー、イージー。アナタたちならできるはずデス」
「簡単じゃないですよ! 三十人ですよ?」
僕が一人で弾いた時は、物珍し最近で人が集まっていた。
しかし今回は、生徒に声をかけて集めなければならない。それがいかに難しいかを、僕は嫌ってほど知っている。
「学校の連中に、ギャルゲーソングの良さなんかわからないですよ。誰も来ないですって」
テレビやラジオで紹介されるような、はやっている曲しか聴かない。この学校の生徒には無理な話だ。
僕の言葉に、荒木たちはうなずく。
「ギャルゲーソングの良さは広めたいけど、 この学校ではねぇ……」
和田は自信がないように、話している。
「なにを弱気になっているのだ! これはチャンスだ!」
バタンと机をたたき、突然立ち上がった金本。僕らを見ると、そう言い放った。
「今回は、岩崎君が一人でやるわけではない! 全員でだ」
「いやいや……演奏するのはいいんだよ? けど、人を集めるのがなあ」
荒木はため息をつきながら、金本に言い返す。
ーーギャルゲーソングを弾くから、見に来ませんか?
そんな風に声をかけて、行きますと答える人は学校にいない気がする。荒木はそう思って言っているのだろう。
「恥を恐れてはイケマセーン! ギャルゲーソングだって、立派な音楽のジャンルなのデース」
ジャスティンさんの言葉に、僕らは押し黙る。
アニメ、ギャルゲーソングを世に広める。それを目標にしている僕らは、こんなところで立ち止まるわけにはいかない。
学校で演奏を成功させなければ、ライブハウスでなんて絶対に無理だ。
そう考えた僕は、次第にやる気になっていく。
「……はあ、わかったよ」
ついに降参したように、荒木はつぶやいた。
「和田や岡本も、それでいいんだな?」
「ああ、リスクは高いけどね。僕らの演奏を見せてやりたい気はするよ」
荒木が尋ねると、和田がそう答えた。岡山も再度、首を縦に振る。
「よーし! やるぞ、まずは学校のライブを成功させるぞ」
こうして、僕らは学校でのライブに挑むことになった。
「とっ、ところで。それっていつやるんだ?」
ずっと黙っていた岡山が、僕らに尋ねる。
「そうだった、いつライブをやるのか聞いてこなかった」
日にちを聞き忘れていた僕らはに、ジャスティンさんは答えた。
「あー、来週デスヨ?」
その言葉に、僕らはおどろいた。
それになぜジャスティンさんが、日にちを知っているのか。
「えええー? 来週って、すぐじゃないですか!」
そんな疑問よりも、超短期間でのライブはまさに急展開だった。




