第五十五話 「バンド活動スタート! 忘れられた生徒会」
歌い終わり、僕はみんなの反応をうかがった。
金本たちのは、微妙な顔をしている。僕の歌声を知っている彼らは、いつも通りだった。
ーージャスティンさんはどう思っただろう?
楽曲制作にも、たずさわっていた人だろう。僕は、不安になった。
「ハッハッハ! 恭介ボーイ、とてもクレイジーでしたネ!」
ジャスティンさんは笑いながら、そう話す。それは歌声をバカにしたような感じではなく、喜んでいるような表情をしていた。
僕はどう反応していいか、わからずにいる。
「あのう……岩崎君の歌は、どう思いましたか?」
金本は、僕の代わりにジャスティンさんに尋ねる。
どんな感想がくるのか、僕らは言葉を待つ。笑い終わったジャスティンさんは、話し始めた。
「んー、そんなにうまくはないデスネ。けど、元気に歌ってたのはグッド」
ジャスティンさんの言葉を聞いた僕は、まだ練習が足りないってことだと思った。
具体的に、どう歌を練習すればいいかわからない。そんな顔をした僕に、ジャスティンさんは肩をたたく。
「ダイジョブ! 恭介ボーイ、ワタシに任せなサーイ」
「任せなさいって……もしかして、なんとかしてくれるんですか?」
僕がそう尋ねると、ジャスティンさんは、静かにうなずく。
ーー大丈夫なのかよ、本当に。
見た目からして、とても怪しいジャスティンさんに、僕は不安になる。
ギャルゲーを作る人で、楽曲制作に関わっていたとしても、さすがにそこまでは無理じゃないかと思った。
「とりあえず、個人でレッスンをやるデース! 恭介ボーイは、歌の基礎から始めマショウ」
ーープルルルル!
ジャスティンさんのスマートフォンが鳴ると、彼は電話に出る。
「あー、はいはい。わかりました、すぐ戻ります」
思いっきり、標準語で話しているジャスティンさんは、めんどくさそうに電話に答えていた。
電話を終え、こちらに振り向くと両手を合わせる。
「スミマセーン! 仕事の都合で、すぐに会社に行かなければイケマセーン」
申し訳なさそうに、謝るジャスティンさんに、金本は頭を下げる。
「いやいや! 貴重な楽譜やらアドバイスをしてもらって、助かりましたよ」
金本がそう言うと、ジャスティンさんは部室を出る。
「そういえば、バンド名はナンデスカ?」
最後にジャスティンさんは、僕らに尋ねる。
バンド名のことなど、頭から離れていて考えてもいなかった。
「名前とかいるか? あんまり、重要ではないと思うけど……」
「バンドの名前は大切デスヨー! アナタたちの音を届けるには、必要不可欠デース」
ジャスティンさんは、そう言い残して足早に去っていった。その姿を見送った僕らは、バンド名について話し出した。
「バンド名か……たしかに必要だな!」
金本は、なにか納得するように腕を組んでいる。
なにかに名前をつけることは、なぜかワクワクする。僕は、すでに頭の中でいろいろと考えていた。
ーーどんなのがいいかな? やっぱり、かっこいい名前がいいな!
世の中には、かっこいい名前のバンドがたくさんある。僕らのバンドも、それに負けないような名前にしたい。
「正直、なんでもいいよ。バンド名とかさ」
そう話すのは、荒木だった。
荒木は、どうでもよさそうな態度で、椅子に座る。
「適当でいいんじゃない? 名前つけるセンスないから、パスで」
「こらこら! 適当ってわけにはいかないだろうが! みんなで考えるんだよ」
荒木の態度に、金本はそう話した。けれど、荒木は関係なさそうに言い返した。
「まあ、バンド名は今すぐ決めなくていいんじゃない? 練習を優先すべきだよ」
話に割って入ってた和田は、二人にそう声をかけた。
「むう……たしかにそうだがな」
和田の話に、金本は納得がいっていないようだ。
「わかった、とりあえず練習に戻ろう」
はあっと、ため息をついた金本はギターを持って、練習を再開させる。
「バンド名も、大事なんだけどなあ」
僕はガックリしながら、また歌を歌うことにした。
「フーフン、フーン」
曲を鼻声で歌いながら、ギターを軽く弾く。
最初は順調にいってはいるが、複雑なサビに入ると、ギターか歌が止まってしまう。
ギターをうまく弾いても、歌が微妙になる。逆に歌がうまく歌えても、ギターが追いつかない。
これが、今の僕がかかえる問題だった。
それに合わせて、ボーカルの質も上げないといけない。
「はあ、大丈夫かな……」
このままでは、足を引っ張ってしまうことに、僕は不安になる。
「よー! おつかれ、今日も練習してるのか……って岩崎! どうした?」
山本先生が部室に顔を出すと、僕を見るなりおどろいている。
「ああ、 先生。 久しぶりに部室に来ましたね……」
テンションが下がっている僕は、低い声で答えた。
ジャスティンさんと出会ったことや、ライブハウスで演奏することを、先生に伝える。
「本当か! くあああ、私も会えばよかったあああ」
話を聞いた山本先生は、くやしそうに頭をかかえる。
なにもそこまで、くやしがることはないんじゃないかと思った僕は、先生に尋ねた。
「先生は知っているんですか? ジャスティンさんのことを」
「なにを言っているんだ! その界隈では有名人だぞ? 数多くのギャルゲーを生み出したすごい人なんだよ」
ものすごい勢いで話す先生に、僕は黙って聞く。よくわからないが、とにかくすごい人らしい。
「というか、先生……部活もそろそろ終わるのに、なぜこのタイミングで来たんですか?」
僕と先生が話している中、金本が話に入ってくる
時計を見ると、すでに部活が終わる時刻になっていた。
「あー、忘れてた! 金本、学校に出す書類を書いてくれないか?」
先生は一枚の紙を取り出して、机に置く。
部活動の、内容報告書だ。
「ああ、活動報告書か。また生徒会に出さないとかあ」
金本はめんどくさそうに、紙を見ている。
「けど、今回はいい報告書が書けそうですよね? ライブとかいろいろやりましたし」
数ヶ月間、イベントに参加したり、ライブ活動などもしてきた。
アニメ、ギャルゲーの曲を知ってもらう目的を、バンド活動でやってきている。そう思った僕は、金本に話す。
「うーむ、そうだが。まだ、内容的にインパクトがないな」
活動はしているが、きちんとアニメやギャルゲーの歌を知ってもらっているかは、わからない。
ーーまだ、なにかが足りない。
そう言いたそうに、金本はなにかを考えているようだった。
「そのための、ライブハウスで演奏だろう?」
練習を終えた和田は、僕らにそう話した。
「ライブハウスでギャルゲーソングをやって、見る人たちの認識を変えてやろう」
ギャルゲーソングが、ライブハウスでウケるかはわからない。
それでも僕らは、この曲を聴いてほしい。そんな気持ちが、僕らを動かす。
「そうだな! 成功させて、同好会の知名度も上げれば、生徒会もなにも言えなくなるはずだ!」
やる気になった金本は、バタンと机をたたいて、立ち上がった。
「よーし! 練習あるのみだ、明日からペースを上げるぞ!」
その言葉に、僕らはうなずく。
「だかしかし、問題があるな……」
荒木は複雑な顔をして、ボソッとつぶやく。
「問題って、なにかありましたっけ?」
身に覚えがないことに、僕は荒木に話す。
「まだ生徒会に、ライブハウスでやる許可をもらってないだろ……」
「あ……そうだった」
それが一番の問題だと、この瞬間に誰もが思った。




