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第五十四話 「校舎裏に聞こえるのは、 僕の声だった」

 次の日になり、部活が始まる。


 いつものように全員が集まっていたが、なにか違う。その原因はやはりこの人だろう。


「ワーオ! ココが、同好会の部室なんですネー!」


 ジャスティンさんは、部室を眺めている。


「しかし、とても狭いデスネー。ギュウギュウでーす」


 小さいボロ小屋に、六人もいればそう思うはず。


 僕らは部室の中で、なんとか保っていた。


「なんで、こんなことになっているんだい?」


 金本は小さな声で、僕に尋ねる。


「わかりませんよ……昨日、いきなり学校に来るって言ってたし」


 理由がわからずに、僕は金本に答えた。


「とても、懐かしいデス! ワタシも、学生時代に帰りたいデース」


 僕らに構わず、ジャスティンさんは一人で盛り上がっている。


「あのー、ジャスティンさん。今日は、どうして学校に?」


 金本は、気まずそうにジャスティンさんに話しかけた。


「オー、ソーリー。忘れていました」


 なにかを思い出したように、僕らに謝ってくる。


「バンドで演奏すると聞いて、ワタシもお手伝いをしようと来たのデス」


 その言葉を聞いた僕らは、お互いに顔を合わせる。


「どういうことだ? 手伝うって」


 荒木はそう話すが、誰も理解せずにいる。


「つまり、アドバイスってことデスヨー!」


「いやいや、ジャスティンさん? あなたは、ギャルゲーを作る人でしょうが」


 ギャルゲーの会社の人が、バンドのことをアドバイスをするなんて、聞いたことがない。


 ゲームを作ると、音楽を教えてるとは違うのだ。


 僕がそう思ったことを言うと、ジャスティンさんは、人差し指をふるう。


「チッチッチ! それは違いますよ、恭介ボーイ」


 ーーいや、なんだよ恭介ボーイって。


 変な名前の呼ばれ方で、僕は少し腹が立つ。


「ワタシはKORUKAの曲を、よーく知ってマス! 楽曲制作にも、参加してマシター」


 意外な事実を聞いた僕は、おどろく。


「え、本当なんですか?」


 疑っている僕に、ジャスティンさんは首を縦に振る。


「曲を知りつくしているワタシだから、力になれると思いマスヨ」


 そう言いながら、カバンからなにかを取り出している。


「テッテレー! 曲の楽譜デース」


 右手には、分厚い紙が何枚もある。


「もしかして、レコーディングに使った、譜面ですか?」


 メガネに手を当てて、 和田は興味がある顔をしていた。


「ソウデース! ワタシが、保管していたんデスネー」


 僕らは、楽譜を見せてもらい、書かれている譜面を見る。


「金本先輩が書いてきた楽譜より、なんか見にくいですね」


 五線譜に音符がびっしり書かれていて、ピアノの楽譜に近い。


 タブ譜を見慣れている僕にとって、少しやっかいだ。


「ふむふむ……なるほど」


 金本たちは、楽譜を理解しているかのように、読み続けていた。


 ベースを持って立った荒木は、少し離れた場所で、弾き始める。


 ーーボンボン! ベケベケ。


 生音にもかかわらず、ベースの音がはっきりと聞こえてくる。


「おおー、荒木ボーイ! もう曲のベースラインを覚えマシタネ」


 ジャスティンさんは、ベースの音を聴きながら、荒木に拍手をする。


 ーーすごいな、荒木先輩は。


 曲を覚える早さに、僕は開いた口がふさがらない。


「しかし、荒木ボーイ。ベースの音にもっとフィーリングを入れなきゃデス」


 荒木にジャスティンさんは、アドバイスをする。曲をよく知っているからこそ、できることだろう。


 やりとりを見ている僕は、ジャスティンさんが、まるで顧問の先生に見えた。


「よーし! 僕もギターを弾くぞ」


 金本は和田に声をかけて、二人でギターを構える。


「じゃあ金本が、リフを弾いて。僕が合わせるから」


 和田はそう言いながら、カウントを取る。


 二人はギターを同時に弾き始め、お互いに音を、確認していた。


「とても、いい音デスネー。曲の雰囲気が表されてマース」


 金本たちのほうに振り向き、ジャスティンさんは、ギターを聴いている。


 ーーまっ、まずい。僕、なにもできていない。


 残っているのは、僕と岡山先輩だけ。三人は、すでにスタートダッシュを決めている。


「けど……まったく、楽譜がわからない」


 ギターボーカル用の楽譜を見ても、まだ僕はちんぷんかんぷんだった。


 そんな僕を横に、岡山はドラムスティックで机をたたきはじめた。


「ドラムセットがないからね。ぼっ、僕はリズムを確認するよ」


 机からは、やたらリズムカルにたたく音が聞こえる。それぞれが、すでに自分のパートを練習している部室内。

 

 その中で、僕は取り残されていた。


「どうしよう……先輩たちみたいに、できやしないぞ」


 あたふたする僕に、ジャスティンさんが話しかけてくる。


「恭介ボーイ! ドウシマシタカ? 自分のペースで大丈夫デスヨ」


 そう言われても、なにからやればいいかわからない。


「確か、アナタはギターボーカルだったデスネ?」


「え? そうですね、一応」


 僕の言葉を聞いたジャスティンさんは、パチンと指を鳴らす。


「ならやることは決まってマース! さあ、恭介ボーイ。今すぐ、ソングデース」


 ーー歌えってか? この場で、歌えるかよ!


 狭い部室内で歌うことに、僕は抵抗がある。校舎から離れているとはいえ、誰かが聴いていたら恥ずかしいからだ。


「こういうのって、レンタルスタジオとかで練習したほうがいいと思いますが」

 

 ヘラヘラ笑いながら、僕はジャスティンさんに話す。すると、さっきまでニコニコしていたジャスティンさんは、真顔になった。


「ノー! シャイになってはいけないデース! こんなことでは、ライブハウスなんて無理デース」


 僕は、ものすごい気迫に圧倒される。


「バンドで歌うならば、いかなる時も恥ずかしがってはいけないのデスヨ」


「けど、うーん」


 言いたいことはわかるのだけど、なかなか踏ん切りがつかない。


「そうだよ岩崎君! ヘタなのはわかっているけど気にせず歌うんだ」


 話を聞いていた金本は、親指を立てて話に入ってくる。


 ーーあの野郎、自分は歌わないからって好きに言いやがって。


 ため息をついた僕は、席を立つ。


「わかりましたよ! 苦情が来ても知りませんからね」


 ずかずかと歩き、扉の前に向かう。


「外に出て歌いますよ! 声が響かないし」


 やけくそになった僕は、そう言いながら歌詞カードを広げる。


 ーーどうなっても知らないからな。


 ギターを手に持ち、ピックで弦をはじく。


 ーージャンジャカ! ジャンジャカ!


 楽譜に書かれているコードは、まだ覚えたわけでない。昨日、曲を練習していた時に弾いたコードを弾く。


 合っているかはわからないが、僕はそれを弾いてみたかった。


 右手のストロークから流れる、ギターの音に合わせて、すうっと息を吸いこむ。そして、タイミングよく歌い始めた。


 ーーうわあ……自分の声って、なんでこんなに変なんだろう。


 歌う声を聞きながら、僕はそう思った。


 外に聞こえる自分の声が、変な意味で目立っている。それでも僕は、がむしゃらに歌い続けた。


 覚えている範囲を歌い終わり、正面を向く。


「ははは……さすがに、歌い方は違いますよね? 真似をして歌ってないし」


 おそるおそる尋ねると、ジャスティンさんの反応は、思っていたのとは違うものだった。

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