第四十七話 「我ら! 竹谷場学園の軽音楽部!」
鏡香が教室に入ると、僕らも中に入る。
「なんだこりゃあ! すごいな」
室内にはギターなどの楽器だけじゃなく、音響の機材がたくさん置いてあった。
「確かにすごいね、あれってスタックアンプだよ」
和田がそう指を指す方向には、大型のギターアンプがある。大きなライブをやる時にしか、見たことがない。
「でかい……なんでこんなものがあるんだ」
ただおどろいていると、鏡香は椅子に座る。
「別に大したことないわよ、学園に言えば調達してくれるし」
ーー調達って……どんだけすごい学校なんだよ。
そんなことを考えながら、しばらく室内をながめる。アンプだけじゃなく、見たことがない機材がたくさんあった。
「岩崎君……」
金本が突然、僕に話しかけてくる。
「どうしたんです?」
まるで、怖いものを見たような顔をする金本に、僕は尋ねる。
「僕は、とんでもないものを見つけてしまったぞ」
「見つけたって、なにをです?」
僕がそう言うと、金本はギターが置かれているところを見ていた。そこには、一本のギターが立てかけられていた。
「へえ、赤いSGのギターか。僕は、まだ触ったことがないんだよなあ」
レスポールやストラトとは違った、特徴的なギター。ツノが生えたようなボディが特徴的で、多くのギタリストに愛用するモデルだ。
「そんなことじゃない! よく見るんだ」
金本に言われて、ギターをもう一度見る。
「あれ? なんかボディにペイントされている」
ボディには、アニメかゲームのキャラが描かれていた。
「せっかくのSGになんでこんなもんを描くんだ! 許せん……」
ギターには、なにも貼り付けたりしない僕にとっては許すことができないものだ。
落書きかと思った僕は、持っていたハンカチを取り出す。
「なんてことをしようとするんだ! 君は」
金本が、いきなり怒鳴りつけてくる。
「え? いやあ、落書きを消してあげようかなって」
「そんなもったいない!」
ギターを持ち出した金本は、僕から遠ざかる。
「そのギターは、アニメの限定モデルで日本に五本しかないんだよ」
やりとりを聞いていた和田が、僕にそう説明する。アニメとのコラボレーションで、抽選でしか手に入らないギターらしい。
「しかし……なんでコレがここに?」
不思議に思っている金本に、鏡香が答えた。
「ああ、それ? ギターの子がはがきを出して、当たったらしいんだって」
「ほう! ではその人も、相当なアニメオタクだな」
金本は感心するように、うなずいている。
「いや、単にタダでギターが手に入るからって応募しただけみたいよ?」
鏡香の言葉に金本は、その場にくずれさった。
「おつかれー! って、あれ?」
しばらくすると、教室に誰かが入ってくる。
「あ、部長さん。今日は来たんですね」
鏡香は教室に入ってくる男子生徒に、そう声をかける。
「遅くなりましたー! うわ、なんですかこの状況」
その後も、ぞろぞろと生徒が入ってきた。
「田所さん? 一応、説明してくれるかな?」
部長と声をかけられた男子に、鏡香は先ほどの出来事を話す。
「なるほど! 田所さんにライブに誘われて、わざわざ学園に?」
そう聞かれた僕は、そうですと答える。
「ああ、申し遅れた。僕はこの部活の部長で、小泉と言います」
小泉と名乗る生徒が、僕らに自己紹介を始める。
「どうも、金本です。僕らは、音楽研究同好会と言いまして……」
金本も同じように、自己紹介をする。
「今、教室にいる部員だけでも紹介しますね」
小泉が教室にいる生徒に、声をかける。
「はーい! どうも、私は野中 愛梨でーす! 鏡香ちゃんと同じクラスメイトなのー!」
やたらと身長が低い女の子が、ひょこっと現れる。
ーーこんな女の子が、楽器なんか持てるのか?
そう思うくらい、体格が小さい。
「さっき言ってた、ギターの持ち主よ」
「あのSGの⁈」
鏡香の言葉に、僕と金本はおどろく。
「きっ……君があのギターを弾くのか?」
信じられないといった様子の金本が、おもわず尋ねる。
「そうだよー? タダで手に入るんだもん!めちゃくちゃラッキーでしょうー」
「なんてことだ! こんなことがあっていいのか?」
ーーこんなちゃらんぽらんな女の子が使うなんて、もったいない!
そう言いたいような金本が、今にも暴れだしそうだ。
「えっと……次、紹介していいかな?」
気まずそうな小泉が話しかけてくる。
「あ……すみません! どうぞどうぞ」
金本を押さえつける荒木が、返事をする。
「こっちが、ベースを担当している酒井君」
小泉に言われ、酒井が手を振る。
「酒井です、岩崎君とはこの前会ったよね」
さわやかな笑顔で、僕を見ながら話す。
ーーまさに、ハンサムボーイ。
前に会った時に、僕はそう思った。
話をした感じは、とてもいいやつそうだが、僕は金本たちを見る。
金本たちは妬ましいオーラを放ちながら、酒井を見ている。
「イケメン……許すまじ!」
そう言わんばかりに、すごい顔をしていた。
「とりあえず、よろしくな」
僕は酒井と言葉を交わして、握手をする。
「あと一人はいるんだけど、まだ来てないな」
小泉はスマートフォンを耳に当てると、どこかに電話をしているようだ。
「あたしは田所鏡香、部活には入ってないけど、 バンドのメンバーよ」
小泉が電話をしている間、鏡香は金本たちにあいさつをする。
「うむ! 岩崎君から聞いている、君が悪の根源か」
「悪の根源?」
金本がそう言うと、僕はすぐに金本の口をふさぐ。
「わわ! 気にするな、この人は頭がおかしいんだ」
あわてた僕は、話をごまかす。
「さっきも言ったけど、本当にこの人たちがバンドメンバーなの?」
金本たちの姿を見ながら、鏡香は尋ねる。
「ああ! 見た目はオタクだけど、かなりの腕前だよ」
「ふーん、どれほどの腕か見てみたいわね」
どこか疑っている鏡香に、金本はさけぶ。
「バカにするなよ! 見て聴いて驚くがいい」
金本はギターケースからギターを取り出した。
「アンプは借りるぞ!」
ケーブルをギターに取り付けて、大型のアンプの前に立った。
僕らが見守る中、金本はギターの弦をはじく。
ーーギャワワ~ン!
大きなアンプから出る音は、体に衝撃を与えるようだった。
「大音量、なんて気持ちがいいんだ」
金本はうっとりしながら、アニメの曲を弾いている。
ーー最近、ギターの音だけでなんの曲がわかってしまう。
金本が弾く曲がわかってしまう自分がいた。
「へえ、今のギターソロのところってジミヘンぽいね」
鏡香は金本のギターを聴き終えると、そう口にする。
「なんだ? ジミヘンって、そんなの僕は知らんぞ」
その瞬間、室内が静まり返る。
「いや……さすがにわかるだろ」
荒木の言葉に僕らはうなずいた。
「え? 僕だけ知らないの?」
一人だけ困惑している金本、すると周りから笑い声が聞こえる。
「あははは! おもしろいね、あんたって」
鏡香がおなかをおさえながら、笑っていた。
「こういう感じのリフとソロよ」
ギターを手に、今度は鏡香が弾き始める。
鏡香が弾くギターは、感情がこもっているような音がした。
「ほう、こんな感じで?」
真似るように、鏡香が弾いたのと同じどおりに金本が弾く。
こうして、二人のセッションが始まる。




