第四十六話 「学園へ潜入! ダンボール箱はありません!」
僕らは校門の中に入り、玄関に向かった。
途中に、帰宅する生徒や部活に行く生徒を目にする。
「まるで、ギャルゲーに出てくる学園のようだぞ!」
金本はちらちらと見ながら、そう話しかけてくる。
「ああ、なんか雰囲気が僕らの学校と違うね」
ーーどこか品があるような、一般人とは違うオーラを放っている。
そう印象を受けた金本に、和田は返事をする。
「頼むから、普通にしてろよ? ただでさえ金本は目立つし」
僕らはコソコソ歩くと、荒木は小さな声で金本に話す。
「正直、目立ちまくりですよね……制服が違うし」
ーーむこうはブレザー、 こちらは黒い学生服。
目立たないほうがおかしいと、僕は口にする。そんな僕らを見て、ヒソヒソと話す生徒を目にする。
「とりあえず、警備員さんか先生みたいな人がいたら事情を話そう」
視線を気になっている和田は、辺りを見回す。探しながら歩くが見当たらない。見つからないまま、玄関の前まで着いてしまった。
「なんか入りづらい雰囲気だよ、僕はこういうのは苦手で」
金本はビビっている様子で、校内に入ろうとしない。
「頼りにならねーな! こういう時の同好会会長だろ」
あきれる荒木がそう言っていると、僕の肩を誰かがたたく。
ーートントン。
二人のやりとりを見ていた僕は、和田か岡山だろうと思って無視をする。僕はたたかれた手をはらいのけて、中をのぞく。
「くそ! 鏡香の姿は見えないな」
下校時間だから玄関に現れるだろうと思いながら見渡す。
ーートンットン!
先ほどよりも、力強く肩をたたかれた僕は、振り向いて怒鳴る。
「いいかげんにしてくださいよ! 今、探してるんですから」
後ろを向くと、和田でもなければ岡山でもなかった。腰には特殊警棒、そしてキチッとした制服を着た背の高い男。
「あ……」
その言葉に、僕は言葉を失う。
「君たち、ちょっといいかな?」
三人くらいの警備員が、取り囲んでいた。
誰かが僕らを通報したのか、警備員は僕らをグッとにらみつけている。
「ぼぼぼっ、僕らは悪いことなんかしてないですよ?」
警備員に気づいた金本は、うろたえる様子でそう口にした。
「見たところ、学園の生徒ではないね?」
こちらの話を聞くことはなく、一方的に話しかけてくる。
「国家権力には屈しないぞ! 僕らは、善良な市民だ」
「金本! 話をややこしくするな!」
テンパる金本の言葉に、荒木は声を上げる。
「なにごとですか!」
どこからか、女性の声が聞こえる。これまたキチッとしたスーツを着た、女性がこちらに向かってきた。
「はっ! 怪しい高校生が学園にいたので声をかけていました」
警備員は女性にそう説明する。
「怪しい高校生?」
ギロリとにらみつけるように、こちらを見ている。
「だーかーらー、人に会いに来ただけですから!」
その後、僕らは職員室に連れてこられた。教師に囲まれて、まるで取り調べを受けているような雰囲気だった。
僕は鏡香に会いにきたことを伝えるが、信じてもらえない。
「そうですよ! 僕らは学校を襲撃しにきたわけじゃないんです」
同じように金本も、そう訴えている。
「今は子供でも。なにをするかわからない! それにあれはなんだ」
教師の一人が、持ってきたギターケースを指さす。
「中に凶器が入っているかもしれませんね、警察を呼びますか?」
「凶器じゃないですって! 楽器ですよ楽器!」
とんちんかんなことを言う教師に、僕はギターであることを伝える。
ギターケースからギターを取り出すと、目の前に置く。
「うむ……たしかにギターだ、だが鈍器にもなるな」
「いったいなにが目的だ? 我が校の生徒に対してうらみでもあるのか?」
まったく信じてもらえず、僕らを犯罪者呼ばわりをする始末だ。
「とにかく、君たちの学校名をいいなさい! 電話の用意だ」
ーー学校に連絡するつもりか? それはまずいぞ。
学校に電話をされたら、間違いなくやばい。部活の停止か、悪ければ停学になるかもしれないと僕は思った。
「どうしよう? 生徒会が耳にしたら、同好会は確実に廃部だよう」
金本は不安そうな顔をしながら、話しかけている。和田は冷静ながらも、打つ手がないといった様子だ。
「とにかく! 田所鏡香って女子生徒を呼んでください。そうすればわかりますから」
僕はそう話しても、まるで聞いていない。
「くそう! なんなんだこの学校は、他校に厳しすぎるだろ」
まったく話が通じない教師たちに、僕はとうとうキレ始める。
「落ち着くんだ岩崎君、これ以上なにかを言えばややこしくなる」
今にも飛びかかりそうな僕を、和田は押さえつける。
「女子生徒に手を出そうとしているのか、まったくロクでもない」
先ほどの話を聞いていた教師は、僕らに向かってそう話す。
「きえええー! そろそろ僕も我慢できないぞ」
奇声をあげながら、ついに金本は食ってかかり始めた。
「とにかく、早く学校名を言いなさい!」
一触即発のような雰囲気の中、職員室のドアが開く。
「すいませーん、言われた書類を持ってきたんですが」
聞き覚えがある声に、僕は振り向く。
「鏡香!」
僕らが探していた本人が、そこにいた。
「あんた、なにしてんの?」
鏡香はおどろいた様子で、僕に声をかける。
「ん? 田所か、書類は私の机に置いておきなさい」
教師の言葉を聞くと、鏡香は書類を机に置いた。
「先生たち、なにがあったんですか?」
「ああ、他校の生徒が我が校に侵入してな!」
話を聞いた鏡香は、なにかを考えている。
「ただライブについて、聞きに来ただけなんだって!」
僕がそう教師に向かって話すと、彼女はなにかを思い出したようだ。
「あー、先生? 彼が言ってるのは本当ですよ」
鏡香の話に、教師はおどろいている。
「どういうことだ?」
教師が尋ねると、説明を始める。
「軽音楽部でライブをやるんですが、他校との合同ライブを計画してまして」
そのために学園に来てもらう話だったが、連絡がうまくいかなかったと、鏡香は話す。
淡々と話すと、教師たちはしぶしぶ納得している。
解放された僕らと鏡香は、廊下を歩く。
「助かったよ! けど、なんで簡単に信じたんだ?」
僕は歩きながら、先ほどのことを尋ねた。
「部活に関してはゆるいのよ、うちの学校」
「それらしい理由を適当に言えば、信じるもんよ? あの教師たちは」
どこかバカにしたような言い方で話す言葉に、僕はあきれた。
「ところで、なんでわざわざ来たわけ?」
僕はこれまでのいきさつを話す。
「だからか! ごめんごめん、連絡先とか交換してなかったね」
鏡香は両手を合わせて謝る。
「話はだいたいわかったけど、 後ろの人たちは?」
僕の後ろにいる金本たちを見ながら、そう尋ねられた。
「えっと、僕の部活の先輩たちで……バンドのメンバーだよ」
鏡香は金本を凝視している。
「ふーん、楽器ができるようには見えないけど」
ーー見た目がオタクだからな。
僕は顔を引きつる。
「失礼じゃないか! 楽器くらい弾けるぞ」
黙って歩いていた金本が、声をあらげている。
「ところで、どこに向かってるんだ?」
ただついて歩いていた僕は、ずっと気になっていた。
「せっかく来たんだから、アタシらの練習でも見せようかなって」
とある教室に着くと、鏡香はドアに手をかける。
「ようこそ! 竹谷場学園の軽音楽部へ」
僕らにそう言うと、ドアが開かれる。
そこには、僕が見たことがない光景が広がっていた。




