第四十四話 「金本の精神をブンナグール!」
ーーそれは、女だよ。
金本はそう僕を見ながら、指を指していた。
「遅れて来たやつが、いきなりなにを言ってるんだ?」
金本の話に荒木は、あきれた顔をしている。
「ライブハウスだ? そんなものは岩崎君のラブコメを生むイベントに過ぎない!」
先ほどより強い口調で話す金本は、見たことがない怖い顔をしている。
「とりあえず、どういうことか説明してくれる?」
冷静な和田は金本に説明を求めた。
「いいだろう、それは昨日のことだ」
そして金本は話を始める。
昨日の帰り道に、金本は近くのゲームショップに行く用事があった。
「さて! 今日は中古品のセールだ、 ギャルゲーのお宝探しだ」
ルンルン気分で道を歩いていると、岩崎の姿があった。
ーーおっ! 岩崎君だ。
金本は岩崎を誘おうと思い、声をかけようとする。
「おーい! いーわーさーきーく……ん?」
名前を呼びかけるが、金本はそこで止まる。見ると、岩崎は知らない女の子に声をかけていた。
黒い髪にポニーテール、身長は少し高めだがスタイルはいい。
金本は即座に女の子をチェックする。
ーーむむ、なんだあのギャルゲーのヒロインみたいな子は。
女の子と親しげに話す岩崎に、金本は機嫌が悪くなっていく。
「岩崎君め…… まだ三次元を、捨てきれていないのか」
同好会メンバーとして、彼もこちら側の人間だと金本は思っていた。
ーー美少女キャラを愛し、リアルの女に期待はしない。
それが金本の考えである。
「それなのに……それなのに」
女の子と話す岩崎を見た金本は、怒りとねたみが入り混じったような感情だった。
女の子は岩崎になにかを話している。
それを聞いた金本はおどろく。
「ライブハウスだと?」
どうやら、岩崎に一緒にライブをしないかと誘われているようだ。
ライブハウス、それはイケメンのバンドがファンを食うような建物。不純異性行為が日々、行われるような場所だと金本は思っていた。
「岩崎君……君ってやつは」
同好会の後輩が、悪の道へ行こうとしている。
それだけは止めさせなければならない。
ーーなにがライブハウスだ! 女のワナに
ハマりやがって!
金本はプンプンとしながら、その場を去っていった。
「とまあ、こんな感じだ!」
説明が終わると、金本は椅子に座った。
「いや……話はだいたいわかったけど」
話を聞いた荒木は、複雑な顔をしている。
「おお! 荒木、わかってくれたか」
金本はうれしそうな表情で荒木に近づいていった。
「ただ、おまえの被害妄想だろうが!」
近づく金本を手ではらいのけながら、荒木はそう話す。
「まず、ライブハウスってそんな変な場所じゃないよね」
和田は岡山と僕に、そう話しかけてくる。
「いっ……行ったことはないけど、そんな目的な人っていないイメージだよな」
「当たり前でしょう! バンドの演奏を見せるための舞台なんですから」
僕はムキになりがら、ライブハウスを和田たちに説明する。
「まあ、あれだ! 金本の思い込みだな」
僕らがそう結論を出すと、金本は納得がいっていない様子をしている。
「とにかくだ! 僕はライブハウスでやるのは反対だ」
「いやいや……よく考えろって、 おまえの
野望をかなえるためのチャンスでもあるだろ?」
反対する金本に、和田はそう話す。
ライブハウスでやるべきだと言う話に、金本は耳をかたむけない。
「そうですよ! 見に来た人たちに、曲を覚えてもらうチャンスです」
僕もすぐに説得を始める。なんとか金本に納得してもらうために、必死に話しかけてる。
だが金本は納得する様子はなく、だんまりを決め込む。
「そういえば、おまえの好きなキャラってライブハウスで演奏するのが夢だったよな」
荒木がそう話すと、その言葉に金本は反応する。
いきなりな話に、僕はよくわからずにいる。
ーーここは、荒木に任せよう。
和田は僕に目で合図をした。
「好きなキャラの夢をおまえは、否定するのか……愛がねーな」
あくびをかきながら、金本をあおるような感じで口にする。
「なっ……なにを」
金本はピクピクと身体をふるわせていた。
「キャラと同じステージに立てるのに、それをしないおまえは腐ってるわ」
ーー金本のキャラに対する愛情を否定している。
僕にはそう見えた。
「よーし、みんな! 今回も金本抜きでやろうか」
立ち上がった荒木は、僕らに声をかけた。
「え? でも……」
ちらっと見た僕は、そう返事をする。
「いいんだよ岩崎君! そもそも、金本を説得しなくてもいいんだよ」
笑いながら話す荒木も、ちらっと見ながら話を続ける。
「そうだな。 一曲はアニメのやつにしようか! バンドものを」
それは先ほど話していた、金本が好きなキャラが出るアニメだろう。
僕はそう思いながら、黙って話を聞く。
「いい曲だよ? アニメではかわいい女の子がベースをやるんだ」
「は、はあ……」
アニメの話に変わり、荒木は休むことなくしゃべっている。
そればかりかスマートフォンを使って、アニメの曲を流す。
ーー確かに、いい曲だな。
曲を聴いた僕はそう思い、何度もリピートとして聴いている。
「いいですね! ライブでやる候補にしましょうよ」
いつの間にか金本のことを忘れ、僕らは演奏する曲について話していた。
「だろう? なら決まりだな、やろうやろう!」
僕らが話で盛り上がっていると、先ほどよりも金本がプルプルとしている。
「いやー! 残念だな金本、おまえは演奏できないから留守番だな」
話の終わりに、荒木は金本に声をかける。
「荒木先輩、ちょっとかわいそうですよ」
さすがに金本がかわいそうに思えた僕がそう話す。
「……やる」
部室に小さな声が聞こえる。
「やってやるぞ! 僕のアニメに対する愛を見せてやる」
バタンと机をたたき、立ち上がった金本がすごい顔をしながらさけんだ。
「ほうー? じゃあ、ライブハウスでやるでいいんだな?」
どこか勝ち誇った荒木は、金本に尋ねる。
「ライブハウスでも、どこでもかまわん!」
金本の言葉に、荒木はニヤリと笑う。
「なんか……ちゃっかり説得できた感じですね」
僕は和田に、小声で話しかけた。
「まあ、単純な性格だからな……荒木のやり方はどうかと思うけど」
和田か返事をすると、僕らは金本を見る。
金本は荒木と言い争っていた。
「金本先輩って、詐欺とかに引っかかりそう」
単純すぎる金本に、僕はそう考えてしまう。
「とにかく、ライブだライブ! 具体的な曲を決めていくぞ」
暴れる金本が大きな声で言うと、僕らはうなずく。
こうして、僕らのライブハウスへの参加が決まった。




