第四十三話 「ライブハウスへの夢」
ーーじゃあさ、アタシらのライブイベントに出てみない?
帰り道に鏡香から言われたことが、頭から離れない。近い日にライブハウスで、ライブをやると言っていた。
いきなりなことで、僕らすぐには返事はしなかった。
「え……ライブ? しかも、ライブハウスですか」
自宅へ帰り、自室で僕はどうしたらいいか悩んでいる。
「けど、ライブハウスかー」
バンドをやっているならば、誰だって憧れるライブハウス。
夢の舞台と言ってもいいくらいだ。いつかは出たいと思っていたが、僕は頭を悩ます。
「あの同好会ではな……」
アニメやゲームを、中心に演奏をする僕らの同好会が、出ていいものなのか。ましてや、金本が嫌うジャンルをやる人と一緒に。
反対をされると僕は思いながら、和田に電話をかける。
ーープルプルッ。
電話をかけると、すぐに和田は出る。
「もしもし? どうしたの、岩崎くん」
和田がそう電話越しに聞いてくる。僕は帰り道での出来事を和田に相談した。
「なるほど、確かに金本が問題かもしれないね」
僕が思っていたことを話すと、和田はそう話す。
「和田先輩は反対しないんですか?」
「え? 僕はしないよ、むしろチャンスじゃないか」
前にも似たようなことで話した時に、和田は反対はしなかった。どうしてこうも、すぐに賛成するか疑問に思った僕は尋ねたくなった。
「僕は、こういうイベントとかで知ってもらうのが大事なんだよ」
僕の疑問に、和田はそう答える。
ーーアニメやゲームの曲をもっと身近なものにする。
そんなことを考えている僕らの活動は、まだその領域に達していない。二度の演奏で、それが証明されている。
和田自身が思っていることを、僕に話していた。
「まあ、とりあえず金本にも連絡をしてみたほうがいいね」
そう話し終わると、和田との電話を終える。
「なるほどな、和田先輩もいろいろ考えてるんだな」
僕よりも同好会のことを考えているんだなと感心してしまう。
ーー僕も負けてられないな。
そう意気込みと、すぐに金本へ電話をする。
「もしもし、金本先輩ですか? 実は……」
先ほどと同じように、金本に僕は話した。
「断る!」
ーーブツ、プープー。
金本は、強い口調でそう言うと電話を切った。
「ははっ! 断るか……さすが金本先輩だ」
電話を切られた僕は、ため息をつきながら口にする。予想通りの展開に僕は笑う。
「んなわけにはいかねーだろ! なんだよあいつは」
ーーブンッ!
時間差で頭にきた僕は、スマートフォンをベッドに投げつける。
「こうなったら、意地でもライブハウスでやらせてやる!」
そう決めた僕は、イライラした気持ちを晴らすようにギターをかき鳴らした。
ーー次の日。
授業を終え、部室に向かう途中にひなたに呼び止められる。
「がんちゃん、ちょっといい?」
教室のドアを開けようとした僕に、ひなたが話しかける。
「どうした?」
僕はひなたに尋ねた。今日は金本を説得しなければいけないし、早く部室へ向かいたい。
用事があるなら、さっさと済ませて欲しいと僕は思った。
「まだ先なんだけど、友達がライブをやるんだって! それで……」
ーーライブを見に行く人がいないから、よかったら一緒にどう?
そうひなたは僕に答える。
「ライブか……どうせ、なんちゃってロックバンドとかだろ?」
女の子が行くようなライブは、外見重視のしょうもないバンド。
そう思った僕は気だるそうに話す。
「そんなんじゃないよ! 友達が近いうちにライブハウスでやるの」
ひなたの言葉を聞いた僕は、ピクリと反応する。
「ライブハウスか……」
どういった場所や雰囲気なのか、下調べするにいいかもしれない。
そう考えた僕はすぐに返事をする。
「よし、いいぞ! いつだ? 来週か?」
できるならば早いほうがいいと思った僕は、ひなたにいつやるかを尋ねた。
「えっと……まだ詳しい日にちは決まってなくて」
まだ詳しいことが決まってないと、ひなたは説明する。
「なんだよ……決まってないのか」
ガッカリした僕は、肩を落とす。
「決まったら教えるから! がんちゃんは行けるかなって知りたかっただけ」
ひなたがその話すと、友達に呼ばれて去っていった。
「とりあえず、予定は空けとくか」
ひなたの後ろ姿を見ながら、僕はそう小さくつぶやいた。
部室に着くと、和田たちが先に来ていた。
「聞いたよ岩崎君、今度はライブハウスだって?」
僕が部室に入るなり、いきなり荒木はそう話しかけてくる。
「いや、まだ決まったわけじゃないですし」
和田から聞いたのか、荒木に僕はそう答える。
「けど、ライブハウスで演奏するのはハードルが高いな」
荒木が言うことは、よくわかる。
たくさんのバンドが、自分たちの実力を試す場所。
僕はそんなイメージを持っていた。
実力者が多い中で、僕らは受け入れられるかわからない。
「けっ、けどさ……ある意味でチャンスだよな」
岡山はパンを食べながら、そう話す。
「僕らの演奏とか、 ギャルゲーソングがライブハウスに通用するかだね」
和田が岡山の言いたいことを代わりに言う。
「ここで成功すれば……か」
ーー同好会の悲願であるアニソン、ギャルゲーソングを認めさせる。
そう思うと、身が引き締まった。
「しかし、岩崎君はすごいな! どこからそんな話をもらってきたんだ?」
不思議がる荒木に、僕は苦笑いをする。
「いや……その」
街で知り合った女の子と仲良くなったから
とは言えない。どう話せばいいかわからずにいると、部室のドアが開く。
ーーガラガラ。
遅れてやってきた金本が、静かに入ってくる。
「それは……女だよ」
金本が僕をじっと見ながら、小さな声で言う。和田たちはよくわからないのか、頭をひねっている。
ーー僕は嫌な予感がした。
そして自分が、冷や汗をかいているのに気がつく。




