「こんな部活の時間もあるよねぇ?」
「いきなりだが! 初めてのライブに向けて、アニメで予備知識をつけよう!」
ーーとある部活の日。
ショッピングモールでの初ライブに参加するため、毎日練習をしていた。この日はバンドの練習ではなく、ミーティングだと金本が言っていた。
部室に集まった僕らに、金本は突然話し始める。
「また、わけがわからんことを……」
荒木はそう話すと、机にある雑誌を読みだす。
「それで……予備知識をつけるってどういうことですか?」
誰も話を聞いていない中、僕は金本に尋ねる。
「言葉通りさ! ライブ経験がないから、アニメやゲームの作品で感覚をつかみたいのさ」
金本は答えると、和田が持ってきたパソコンにDVDを入れる。
「なにするんだよ、僕が使ってるのに」
和田の話を無視して、パソコンを僕らに向けた。
「今はアイドルを目指す女の子のアニメや、 バンドを題材にしたゲームがあるだろう」
ーーああ、よくCMとかでやってるやつか。
何度かテレビで見たことがある僕は、なんとなくそう思った。
「彼女らはステージに立ち、 かわいらしく曲を披露している」
「はあ……そうなんですか?」
一度も見たことがない僕は、やる気がないような声を出す。
ーーキュイーン。
そんな話をしていると、パソコンからなにかが動く音が聞こえる。
「そろそろ始まるな! では、みんなでそのアニメを見てみよう!」
金本がマウスをクリックすると、パソコンからアニメの映像が流れる。
「……なんか、いっぱいキャラクターがいる」
アニメを見ている途中、僕は無意識にそう口にする。こういうアニメは初めてで、どう感じ取ればいいかわからなかった。
「うひょえー! きた、僕の嫁!」
いきなり金本が、奇声を上げながら立ち上がる。
「え? なに、嫁?」
「……ああ、 気にしないで。いつもの金本だから」
一緒にアニメを見ていた和田は、表情を変えずに話す。
「金本が好きなキャラが出てくると、あんな感じになるんだよ」
ーー気持ちはわかる……けど、僕はあそこまで取り乱さないな。
「はあ……オタクって、みんなあんな感じなのかな」
少なくとも、金本はああいう風になるのだけはわかった。
「好きなキャラくらいはみんないるけど、金本は多すぎなんだよな」
すると、荒木と岡山が僕らの会話に入ってくる。
「たっ……確か、五十人くらいはいなかったっけ?」
岡山は思い出しながら、指で数を数える。
「アニメとゲームのキャラを合わせたら、そのくらいかな?」
ーーどれだけ、嫁がいるんだよ。
その多さに、僕は引いてしまった。
「一作品に二人は嫁を見つけてるからな、あいつは」
お気に入りのキャラがいるのは、別に悪くはない。しかし、それを嫁と呼ぶのはどうかと僕は考える。
ーーまあ、気持ち悪さは感じるな。
和田たちの話をまとめると、僕はそう結論をづける。
「なにが……気持ち悪いって?」
アニメを見ていたはずの金本は、顔を近づけて話しかけてくる。
「うわ! 先輩、顔が近すぎ!」
おどろいた僕は、椅子ごと離れてる。
「まったく、アニメを見ないでなにをしているんだ!」
すでにアニメは終わっていたようで、エンディング曲が流れていた。
「そんなことでは、ライブを成功できないぞ? もう一度だ」
金本はまたアニメを最初から流し始める。
「けどさ……僕らってこんな堂々と、演奏できるかわからないよね」
おとなしくアニメを見ていた時、和田が小さくつぶやく。
「どうしてですか?」
僕がそう尋ねると、和田はパソコンの画面を指さす。
アニメは、女の子のグループが笑顔で演奏しているシーンが映っている。
「彼女たちみたいに、夢に向かって頑張ってるわけじゃないしさ……」
アニメではプロになるために頑張っている描写が多い。つまり、高い目標があることを伝えたいためだ。
それに比べて僕らは、ただアニメやゲームの曲を広めたいだけにすぎない。
和田はモチベーションの違いから、そう言いたいのだろう。
「なにをいってるんだ! 僕らの目的だって、立派なことだろう!」
話を聞いていた金本は、そう話す。
「しかしだなー」
和田はライブで演奏することに消極的な様子をしている。
「けど、せっかくライブができるんですし、アニメみたいに楽しく弾けばいいんですよ」
僕がフォローすると、和田はうなずく。
「よくぞ言ってくれた! さすが、岩崎君」
バンバンと金本が僕の背中をたたく。
「けど、アニメに出てくるギターとかよく描けてますよね」
僕は話を変え、アニメを見た感想を言う。
キャラが持つギターなどは、本物にそっくりな絵であった。
「当たり前だよ、実際のギターとかを参考に描いてるんだからさ」
荒木が僕の疑問に答えるように、話す。
「主人公が持つギターはレスポールだからね、よく描けたもんだよ」
形や色だけでなく、ロゴも本物と同じだった。
「すごいですね! こんなアニメは初めて見ましたよ」
「まあ、あんまり力を入れてないアニメは作画が崩壊してるしな」
荒木は他のアニメを例にして、うんちくをたれている。
「だが……ギターの音は別だ」
「別って、なにがですか?」
突然、金本が流れている曲を聴きながらそう口にする。僕も音を聴いたが、特に変なところはない。金本が言っていることがわからない僕は、そう聞いてみた。
「わからないのかね! レスポールなのにレスポールの音がしないんだよ!」
先ほどよりも、大きな口調で金本は話す。
「このアニメで一番気に入らないのは、こういうのなんだ!」
どうやらキャラが使っているギターと、弾いた時に出るギターの音が違うらしい。
細かすぎて、人によっては違いがわからない。僕もその一人だった。
「いや……エフェクターとか使ったら、音なんてわからないでしょう?」
「わかるだろう! ぜんっぜん違う!」
金本はくやしがるように、机をたたいている。
「どうせやるなら、そこもこだわれよって話なんだよ!」
多少は音楽にも注目しているんだなと、金本を見ながらそう思った。
「なっ……なあ」
話す金本の横で、岡山が声をかけてきた。
「どうした岡山? パンがないなら、購買部で買ってこい」
話しにくそうな岡山の様子に、金本が言葉を返す。
「そっ、その……予備知識の話はどうするんだ」
「……あ」
言葉を聞いた金本は、しまったという顔をしている。時計を見ると、部活が終わる時間までせまっている。
「結局、アニメを見てただけだな」
荒木はあくびをしながら、皮肉るように話す。
「うるさいうるさい! とにかくライブに向けて練習を頑張るぞ」
ごまかすように金本が言うと、全員が帰り支度を始める。
「はい、おつかれさーん」
バタバタと一人ずつ帰る中、僕は金本を見る。
ーーこの人が会長で、同好会は大丈夫かな?
それでもライブまで、日がない。
「けど、アニメはおもしろかったな」
こんな日もいいなと思いながら、僕は部室のドアに手をかける。
椅子に座り、真っ白い灰のような姿をする金本。僕はその姿を見つめ、部室を後にした。




