「 ギター少女はまた夢を見るか」
つまらない学校生活。アタシは毎日、同じことを繰り返している。
朝に起きて学校へ行き、友達としゃべって授業を受ける。終わればただ自宅に帰るだけで、つまらないアタシの日常。
「なにかおもしろいことがないかな?」
アタシ、田所鏡香はそんなことを考えながら教室の窓を見上げている。
学校生活で夢中になることがないアタシは、毎日が退屈だった。勉強をするためだけの場所。
ほとんどが、いい大学を目指す連中ばかりで嫌になる。そんな中で、部活動に時間を費やす生徒もバカみたいだと思った。
「事件だ! なにか事件はないのか?」
同じクラスメイトの男子が、授業が終わるといきなりそう叫んでいた。
「また山崎のやつが始めたぞ」
となりでその様子を見ていた、他の男子が笑いながら話している。なにかの同好会に入っているらしく、毎日同じようにさわいでいるらしい。
「バカみたい……」
なぜあそこまで、部活に熱中できるのだろうと思ったアタシはそう口にする。
学校が終わり自宅に帰ったアタシは、ベッドに横たわる。
ーーピコーン!
スマートフォンから電子音が鳴ると、その画面を確認する。
「メッセージか、めんどうね」
友達から届いたメッセージを見て、適当にスタンプを押す。
中学時代の友人からで、彼女は隣町の学校に通っている。
普段は明るく活発な友人だが、どこか変である。
学校が違っても、たまに連絡をアタシはとっていた。
「あの子の話ってたまについていけない」
メッセージの履歴を見みながら、そんなことを思い出していた。
すると、また通知音が鳴る。
確認してみると、それは違ったメッセージだった。
またバンドをやらないか?ーーそう短く書かれていた。
不機嫌になったアタシは、返信をせずにスマホを置く。
「今さらできるわけないじゃない」
部屋に置かれているアコースティックギターを見つめ、そうつぶやいた。
眠ってしまったのか、気がついくと真っ暗になっていた。
ーーコンコン。
部屋のドアをたたかれ、アタシは返事をする。
「……なに?」
「そろそろご飯よ、降りてらっしゃい」
ママからそう言われ、部屋を出る。夕食の時間、家族がそろって夕飯を食べる。
静かな食卓の中で、テレビの音だけが流れる。
「あら、音楽番組が始まるわね。番組を変えていいかしら」
ママがそう言うと、リコモンで番組を変える。
テレビからは、アイドルの歌やバンドアーティストの曲が流れていた。
番組の途中に、聴いたことがある曲が流れる。
アタシは聴いてないフリをしながら、ご飯を食べる。
「……この曲、おまえも好きだっただろう?」
パパはそんなアタシの様子を見て、話しかけてくる。
「……別に、昔のことでしょ」
そっけない態度をして、返事をした。
「それでも、前はおまえが毎日ように弾いていただろう? パパが弾いていたのを見てから」
ーー初めてギターで弾いてみたいと思った曲。
ひと昔前に人気だったアーティストの曲を、パパはギターで弾いていた。その様子を見ていたアタシは、パパのように弾いてみたいと思った。
ーー生まれて初めて、夢中になれるものが見つかった気がしたっけ?
最初は無理だと思っていたギターも、練習を重ねるごとに面白いと感じた。
けど今は、前のように面白さは感じない。
「ごちそうさま……」
アタシは夕飯を済ませ、逃げるように部屋へ戻った。部屋へ戻ったアタシは、机の横に置かれたギターに目を向ける。
手入れがされていなく、いたるところに汚れがある。
ーー何ヶ月も使われていない。
そんなひどい状態だった。
「いつからだっけ……アタシが弾かなくなったの」
少し前まで、アタシは友達とバンドを組んでいた。
いろんなジャンルの曲を弾いて、ライブもそれなりにやった。けどバンドなんて、そんな長くは続かない。
ーー俺たち、付き合ったんだ。
そんな一言で、バンドはすぐに解散になる。
バンドメンバーで恋愛に発展することはよくある。
アタシには関係がない話だった。
ーーけど、仲がいい友達が相手に片思いをしていたら?
アタシなら、気持ちをおさえてバンドを中心に考えるだろう。
しかし、アタシの友達はそれができなかった。友達はバンドを辞め、残ったアタシたちは次第に活動をしていくことが難しくなる。
気がつけば、そのまま空中分解。
めんどくさい人間関係に疲れたアタシは、ギターも弾くのをやめた。
「もう、いざこざに巻き込まれたくない……」
アタシに連絡してきたのは、同じバンドメンバーだった酒井 正人。
スマートフォンを持ち、先ほど来たメッセージにそう打ち込む。
ーー今はバンドをやることを考えたくない。
アタシはそんな気持ちを込めて、メッセージを送る。
「けど、やっぱりギターだけはやめれないよね」
汚れたギターをそっと手に持つ。
ーージャラーン。
さびついた弦を指ではじくと、手入れがされていないギターの音色が鳴る。
「やっぱり……指は覚えているものね」
しばらく弾いていないのに、あの頃と変わらない。
アタシが弾くギターの音色を聴きながら、そう思った。
ーーブツ!
いきなり弦が切れる。
数十分しか弾いていないのに、切れるほど弦は古かった。それだけ長い間、弾いていないことをアタシは実感する。
よく見るとパーツも劣化していたり、ギター自体が限界かもしれない。
初めて買ってもらった、思入れにあるギター。
「ギターだけは、直しておこうかしら」
明日の予定はなく時間があるため、アタシは楽器屋へ行くことにした。
ーー次の日。
ハードケースにギターを入れて、玄関をドアを開ける。
ギターを持って出かけるのも久しぶりな気がした。
「いってきます」
家を出て楽器屋がある街まで、駅を利用する。
とりあえずアタシは駅に向かった。
電車に乗ると、周りからチラチラと視線を感じる。
ーーアタシがギターを持ってるのが、珍しいのかな。
そう思うくらいに見られている。
「ウザ……」
嫌な気分になり、少しだけ場所を変える。
アタシは耳にイヤホンをして、音楽を聴くことにした。
ーーなんか、また視線を感じる。
音楽を聴いても、見られている気配がする。
先ほどと違う視線に、アタシは目を向ける。
見ると、同じくらいの歳をした男の子がこちらを見ていた。
アタシを見ていたというより、手に持っているハードケースを見ているようだった。
興味があるようで、ずっとギターを見ている。
ーーなに、こいつ。
見た目からギターとは無縁そうに見える姿をした男の子。
「……なに?」
アタシは男の子に、威圧的にそう一言
口にする。
男の子はおどろいた様子で、なにもなかったように視線を戻す。
電車が目的の駅に着くと、アタシは電車を降りる。
「さて、行きましょうか」
楽器屋がある場所まで、ハードケースを持って歩く。
「さっきのヤツ、なんだったのかしら」
信号が青になるのを待っている間、アタシはふと思い出だす。
ギターに情熱を持っているような雰囲気をしていた。
アタシがギターに初めて夢中だった時と、同じように。
「まだいるんだね、ああいうの」
クスッと笑いながら、信号が変わりアタシはまた歩き出した。
ーーそして、アタシはあいつに出会う。
それがアタシを変える出会いとも知らずに。




